【完】大きな俺は小さな彼に今宵もアブノーマルに抱かれる

唯月漣

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1)記憶喪失の夜

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「は? なんで俺、縛られてんの!?」


 生まれ育った山と田んぼばかりのド田舎から、俺が大都会に就職して半年ほどが経った。
 俺だって大人だから、人生色々。酒の失敗も、人並みにあった。

 ある時はごみ捨て場で撃沈している所を、ホームレスのおじさんに起こされた。
 ある時は公園のベンチで昼近くまで爆睡してしまい、財布をすられた。


 ーーーーでも、だからって。


 他人様の家のバスルームで、裸のまま手錠で拘束されていたのは流石に初めてなんですが!


 俺は長く頭を預けていた浴槽の壁面から、ゆっくりと頭を上げた。


「っ、痛っ……てて」


 この頭痛には覚えがあった。深酒をしてしまった翌日の、酷い二日酔いによる頭痛だ。
 頭を振らないよう、俺は空っぽの浴槽内でゆっくりと上半身を起こす。


 どうやら俺はパンツ以外の全ての衣類を剥ぎ取られて、この無駄に広いバスルームの浴槽の手すりに手錠で繋がれているようだった。

 大理石柄の大きなバスタブが中央に鎮座するこのバスルームは、四畳半程はあるだろうか。一般家庭にしてはかなりの広さだ。
 作りからして、恐らくマンションではなく一軒家。

 バスタブ自体も、大人が足を伸ばして入ってなお若干の余裕があるほど広い。
 広いけれども決して豪奢ではないその場所は、大きな窓から差し込む明るい光で照明なしでも十分に明るい。
 この眩しいほどの明るさは、既に今が昼近いことを俺に教えた。

 浴槽内に長時間繋がれていたにしては、手首に痛みがない……?
 そう思って振り返れば、背中や腰の下にはご丁寧にクッションが挟まれていた。


「酷いんだか優しいんだか、意味が分からんな……」


 こんな状況にも関わらず、不思議と俺に恐怖心はなかった。それはきっと、昨日のあのショッキングな出来事のせいだ。
 そのせいで俺は深酒をした挙げ句、大都会の藻屑となって消えようとしていたのだから。


 カチャリと不意にバスルームの扉が開いた。


「あ。ようやく目が覚めましたか? お水、飲みます?」


 そう言いながら水のペットボトルを片手にバスルームに現れたのは、若い少年だった。

 色素の薄いふわふわの髪の毛に、焦げ茶色の瞳と白い肌。
 身長は中学生と見紛うほど低い。恐らく百六十センチ強と言った所だろう。

 細く白い手足に纏うダボついた大きめの衣類は、風呂掃除をするときのように裾が捲り上げられている。チラリと覗く華奢な手首や足首が、その少年を一層華奢に見せていた。
 少年は俺の答えを待つつもりはないらしく、手に持っていたペットボトルを俺の前に差し出す。


「あ、ありがとう。……えっと、君は?」


 俺がそう答えながら首を傾げると、彼は俺の質問には答えず、俺に向かってにっこりと微笑んだ。


「あ、その手じゃ飲めませんよね。じゃあ、僕が飲ませてあげますね」


 そう言って笑った少年は、ペットボトルのキャップを捻りながら浴槽の縁を跨いで俺の隣にしゃがみこんだ。飲み口を俺の口にあてがって、そっとペットボトルを傾ける。


「んっ……」


 手を拘束されたままだと、上手く水を飲み下せない。
 傾いたペットボトルから俺の口の中に流れ込む水は、大半が俺の喉ではなく口の両端から喉、そして胸や腹へと伝い落ちた。

 それでも昨夜浴びるように飲んだ酒のせいなのか、俺の喉はカラカラだった。俺はなんとかその水を喉に流し込もうと、必死にペットボトルに合わせて顔を傾けた。


「ふふっ。翔李しょうりさんって、可愛いんですね? まるで、子犬にミルクでもあげている気分です」
「……はい?」


 ペットボトルのキャップを閉めながら、俺の間近に顔を近づけた少年はそう言って笑った。


「俺は可愛くなんてねーよ。身長だって百八十センチ近くあるし、学生の頃は運動部の掛け持ちだったから、肩幅だってある。それに、最近はサボってるけどそれなりに筋トレだってやってんだぜ?」


 明らかに自分より可愛い容姿の彼。その彼の口から出た『可愛い』と言う言葉につい過剰反応してしまった俺だったが、すぐに我に返る。


「あーっ、えっと。……それより、君は誰? なんで、俺の名前を?」


 浴槽の中で立ち上がった青年は、俺を見下ろす体勢のまま、ポケットからカードのようなものを取り出した。よく見るとそれは、いつも俺が財布に入れている、あるものだった。


「ふふっ。こんな目覚め方をしたのに随分と落ち着いているんですね、岡田翔李おかだしょうりさん。いい会社にお勤めじゃないですか。毎日テレビCMも流れている、有名な会社」
「あっ……!?」


 あるもの。……それは、言わずと知れた社員証だった。
 それだけではない。免許証、クレジットカード、保険証、いきつけの弁当屋のポイントカードまでが、少年の手の中でトランプのように扇状に広げられている。


「なっ……!? か、返せよっ」

 
 俺は慌てて手を伸ばそうとするが、カシャンと安っぽい金属音が浴槽内に響いて、その動きを制した。


「やだな、盗ったりしませんよ。貴方のお名前を知りたかっただけで、これはちゃんとお返しします。はいっ」


 そう言って少年は、再びバスタブを跨いで脱衣所に移動する。バスルームのドアの外にあった財布の中にカード類を戻すと、俺にその財布を示しながら言った。


「ちなみにカードもお財布の中身にも手をつけていませんから安心して下さい。僕が貴方と出会った時点で、お札もカードも無事でしたよ」
「あ……りがとう……?」


 恐らく少年が拾ってくれなければ、あの財布の中身はここには無かっただろう。そう思うと、若干納得は行かないまでもお礼くらいは言うべきなのかなーと思う。
 こういう所が、翔李はお人好しだとか、流されやすいと言われる所以ゆえんなんだろうけれど……。


「ふふふ、いいえ。ああ、それでえーっと。僕の名前でしたね。僕は由岐ゆきかなでと言います」


 そう言いながら、少年……もとい由岐は、おもむろに脱衣所にあった洗濯機のスイッチを押した。


「翔李さんの衣類は、吐瀉物まみれだったのでお洗濯しますね。なんならその濡れたパンツも脱ぎますか?」


 由岐はそう言って、浴槽内に舞い戻る。そのままなんの躊躇いもなくパンツのゴムに手をかけるので、俺は慌てて足を交差させてパンツが脱がされないよう死守した。


「ちょっ、待っ……」
「うん? どうせ脱ぐのに、何故抵抗するんですか? 翔李さん、これから僕とセックスがしたいんですよね?」


 そう言いながら、由岐は俺が交差させた両腿の隙間に爪先をねじ込む。そのまま自分の体重を利用して片足を俺の足の間に挟んだ由岐は、器用に俺の足をこじ開けてしまった。


「はっ!? セッ……ええっ!?」


 由岐の発した衝撃的な台詞に、俺は一瞬呆けてしまう。その隙を突くようにして、由岐はあっさりと俺の下着を奪い去った。


「いっ……!?」
「ふふ。翔李さん、覚えていないんですか? 貴方が誘ったんですよ?」


 俺から奪い取ったパンツと背中から抜き取ったクッションを回り始めた洗濯機に放り込みながら、由岐はふわりと笑った。


「まぁ、翔李さんが覚えていなくてもヤラせてもらいますけどね? 大人なんですから、ご自分の発言には責任を持って頂かないと」


 そう言って、由岐は洗濯機の音を遮るようにバスルームのドアを閉めた。


「翔李さんのお望み通り、たっぷり可愛がってあげますからね」


 そう言った由岐は、シャワーノズルを片手にサディスティックに微笑んだ。
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