【完】ちゃーちゃんの牛乳

唯月漣

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5.大人達の嘘

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 少し変だなーと思いながら牛舎に入ると、ちゃーちゃんのスペースが一頭分、何故か空いていました。


「あれ? じいちゃん。ちゃーちゃんは? 今日は外??」
「あぁ。――――実はな、ちゃーちゃんは佐々木さんがどーしても欲しいって言うから、さっき売ってしまったんだ」
「……!! えっ!?」


 おじいちゃんの言葉に、ユイちゃんはとてもびっくりしました。
 だって、他の牛ならばいざ知らず、ちゃーちゃんはユイちゃんの一番のお気に入りで仲良しの牛です。
 佐々木さんもそれをよく知っています。
 
 そんな牛を、欲しいと言ったからと言って、あっさり佐々木さんに売ってしまうなんて……。


「えー! じいちゃんがちゃーちゃんを要らなかったんなら、ユイが欲しかった。最近ちゃーちゃん弱ってたし、環境が急に変わったら病気になっちゃうかもしれないよ。どうしてユイに一言相談してくれなかったの!?」


 その頃ちゃーちゃんは出せるお乳の量もめっきり減って、痩せて目もくぼみ、うっすら肋が浮いていました。

 それでもちゃーちゃんはユイちゃんのことが大好きで、ユイちゃんがそばを通る度に、撫でてくれと頭を擦り寄せていました。


「佐々木のおじちゃんのとこでしょ? 今から電話して、返してもらってくる!!」
「やめなさい、ユイ。多分もう、間に合わないから」
「間に合わないって、何が!? 佐々木のおじちゃん家、車で45分くらいじゃん」
「いや、佐々木さんは多分夜まで家には帰らないよ」
「夜になってもいいよ、明日返してもらうから」
「ユイ……!」


 この頃はまだ、世の中に携帯電話というものがありませんでした。
 ユイちゃんの家の牛舎には固定電話もありませんでしたので、ユイちゃんは電話のある自宅に戻ろうとしたのです。
 それを止めたのは、いつも静かで穏やかだったおばあちゃんでした。
 
 
「違う。そうじゃないんだよユイちゃん。ちゃーちゃんはもう夜には、佐々木のおじちゃんのとこには居ないんよ」
「どういうこと?」
「いい、ばーさん。子供にはそんなこと言わなくて」
「なに? 教えてよおばあちゃん。ユイ、もう五年生だよ。子供じゃないよ」
「うん。じゃあユイ、今夜夜ご飯が終ったら、ばあちゃんの部屋においで」
「……分かった」
「…………」

 
 その日の夜。

 ユイちゃんは、ちゃーちゃんがもうこの世にはいないことを知りました。
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