精神崩壊筋肉ゴリラと狂気的な【死の妖精】が結ばれるまで

アカアオ

文字の大きさ
上 下
3 / 9

リスポーン

しおりを挟む
 「リスポーン能力ねぇ」

 異世界に来て数日が経った。
 今日の分の筋トレを終え、俺は仲良くなった魔法使いの子の話を聞いていた。

 なんでも、この世界の住民には『チート能力』と呼ばれる特別な力を持った存在がいるらしい。
 彼女はそれを判別する力を持つというのだ。

 彼女の診断によると、あの時神様から与えられた力は『リスポーン』なんだそうな。
 簡単に言えば、死んでもこの世界の何処かで生き返れるという物らしい。

 その死因に一つの例外も無く。

 「そりゃぁ最高の力だな!!」

 鍛えられた体と無限の魔力。
 この二つが合わさっただけでもこの世界では脅威の様で、皆が倒せなくて困っているモンスターをバンバンと倒した。

 そして、この世界でのモンスターの戦闘は筋肉を鍛えるのにちょうどいい。
 毎日毎日戦って、己の肉体を鍛えながら皆に感謝される。
 そんな生活が出来るなんてまさに夢の様じゃないか。

 モンスターとの戦いは常に死と隣り合わせなのでお気楽に筋トレする感覚でなんかは挑めないのだが、『リスポーン』があれば話は別だ。

 もし最悪の結果として俺が死んでもまた生き返れるのだから。



 「ハァ……ハァ!!」

 今日、俺は初めて死んだ。
 相手は魔王軍の幹部。

 スライムの体を持ち、物理攻撃を無効にしてくる相手に俺は手も足も出ずに無残に殺された。

 「お、俺の手……くっついてるよな」

 手が切れる感覚。
 鍛え上げた体がぼろ雑巾の様に砕けていく感覚。
 目を抉られる感覚。

 全部全部覚えてる。
 生々しく、気を抜けば胃の中を物を全部出してしまうそうだった。

 「こういう気分の悪いときは、筋トレだ」

 俺はいつもの様に筋トレを始めた。
 嫌な事があってもこれがあれば忘れられるから。
 脳裏に浮かぶ気持ち悪い感覚を何度も何度も消す様に、俺は腕立て伏せを続ける。

 だけど……死という生物にとって最大のストレスに対し、筋トレは無力だった。



 今日で1000回目の死。
 死ぬ度死ぬ度、あの気持ち悪い感覚のバリエーションが増えていく。
 日常生活でリフレインするトラウマの量が増していく。

 「笑うなぁ!!俺の事を笑うなよぉ!!」

 極めつけは『リスポーン』が発動するときに聞こえる幻聴が酷かった。

 『頑張った筋トレも無駄になったね』
 『こいつ昔は陰キャって奴だったらしいぜ』
 『キャハハー何それ?』

 「やめろ……やめろ」

 こんな生活が続くぐらいなら、いっその事終わらせたい。
 でも、自殺をすれば待っているのはあの苦しい『死』の瞬間だけだ。

 魔王軍たちもぐんぐんと強くなっている。
 もう物理攻撃でダメージを与えるのは難しくなり、何かの魔法を覚えなければ戦いの土俵にすら上がれなくなった。

 俺の築き上げてきた物は、この世界でなんの利益ももたらしてくれなかった。
 無限の魔力があっても使い方が分からなければ意味がない。
 仮に使い方を知った所で、戦場に出て死なないとは限らない。

 もう死にたくない。
 
 だったらもう、引きこもるしか無い。

 俺は貯金を全てはたいて物置小屋を作った。
 何年分かの食料を詰め込み、小屋で寝る。

 最近は筋トレをする気さえ起きない。
 
 だって無駄にエネルギーを消費するだけだ。
 俺が前世で積み上げてきたこの肉体も努力も、それによって得た尊厳も、度重なる死で汚されてしまった。

 こんな空虚な生活……本当はしたくないのに。
 でも、だったらどうやってこの状況を抜け出せば良い?

 食料が無くなったらどうしよう。
 餓死してしまうなんて本末転倒だ。

 でも、俺は戦う以外で金を稼げない。
 そう言う資格をこの異世界でとってこなかった。

 でも、戦えばまた死と隣り合わせだ。
 
 結局答えは出てこない。
 そんな生活を1年間ずっと続けていた。

 「酷い寝顔だね」

 そんなある日の事。
 聞き覚えの無い声を聞いて目が覚めた。

 目の前に居たのは、真っ黒な羽と髪の毛を持った小さな妖精だった。

 「君の体から濃厚な死臭が溢れてたからさ、思わずここまで寄ってきちゃった」
 「し……しゅう?」
 「ねぇ、君は今まで何回死んだの?」

 妖精のその言葉を聞いて、俺は後方に飛んだ。
 なんでそんな事を聞いて来るのか?
 心の中が恐怖で満たされる。

 「そんな顔しないでよ。私はただ、君に興味があるだけなの」
 「お前は一体?」
 「私は死の妖精。生命が終わるその瞬間の化身みたいなものかな」

 彼女はそう言うと、ビビッて動けない俺の体に容赦なく近づく。
 唇を頬に当て、キスをするような態勢で俺の中の何かを吸いつくしている。

 「そうだねぇ……デスって名乗る事にしよう。チープで覚えやすいのが一番良いからね」

 黒い髪を揺らすその妖精の瞳に吸い込まれる。
 彼女の小さな体が一回り大きくなったような錯覚を覚えながら、俺は流される様に彼女の話を聞くのであった。

 「ねぇ、騙されたと思って私に付いてこない?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

昔いじめていたあいつがヤンデレ彼氏になった話

あんみつ~白玉をそえて~
恋愛
短編読み切りヤンデレです。

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

処理中です...