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リスポーン

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 「リスポーン能力ねぇ」

 異世界に来て数日が経った。
 今日の分の筋トレを終え、俺は仲良くなった魔法使いの子の話を聞いていた。

 なんでも、この世界の住民には『チート能力』と呼ばれる特別な力を持った存在がいるらしい。
 彼女はそれを判別する力を持つというのだ。

 彼女の診断によると、あの時神様から与えられた力は『リスポーン』なんだそうな。
 簡単に言えば、死んでもこの世界の何処かで生き返れるという物らしい。

 その死因に一つの例外も無く。

 「そりゃぁ最高の力だな!!」

 鍛えられた体と無限の魔力。
 この二つが合わさっただけでもこの世界では脅威の様で、皆が倒せなくて困っているモンスターをバンバンと倒した。

 そして、この世界でのモンスターの戦闘は筋肉を鍛えるのにちょうどいい。
 毎日毎日戦って、己の肉体を鍛えながら皆に感謝される。
 そんな生活が出来るなんてまさに夢の様じゃないか。

 モンスターとの戦いは常に死と隣り合わせなのでお気楽に筋トレする感覚でなんかは挑めないのだが、『リスポーン』があれば話は別だ。

 もし最悪の結果として俺が死んでもまた生き返れるのだから。



 「ハァ……ハァ!!」

 今日、俺は初めて死んだ。
 相手は魔王軍の幹部。

 スライムの体を持ち、物理攻撃を無効にしてくる相手に俺は手も足も出ずに無残に殺された。

 「お、俺の手……くっついてるよな」

 手が切れる感覚。
 鍛え上げた体がぼろ雑巾の様に砕けていく感覚。
 目を抉られる感覚。

 全部全部覚えてる。
 生々しく、気を抜けば胃の中を物を全部出してしまうそうだった。

 「こういう気分の悪いときは、筋トレだ」

 俺はいつもの様に筋トレを始めた。
 嫌な事があってもこれがあれば忘れられるから。
 脳裏に浮かぶ気持ち悪い感覚を何度も何度も消す様に、俺は腕立て伏せを続ける。

 だけど……死という生物にとって最大のストレスに対し、筋トレは無力だった。



 今日で1000回目の死。
 死ぬ度死ぬ度、あの気持ち悪い感覚のバリエーションが増えていく。
 日常生活でリフレインするトラウマの量が増していく。

 「笑うなぁ!!俺の事を笑うなよぉ!!」

 極めつけは『リスポーン』が発動するときに聞こえる幻聴が酷かった。

 『頑張った筋トレも無駄になったね』
 『こいつ昔は陰キャって奴だったらしいぜ』
 『キャハハー何それ?』

 「やめろ……やめろ」

 こんな生活が続くぐらいなら、いっその事終わらせたい。
 でも、自殺をすれば待っているのはあの苦しい『死』の瞬間だけだ。

 魔王軍たちもぐんぐんと強くなっている。
 もう物理攻撃でダメージを与えるのは難しくなり、何かの魔法を覚えなければ戦いの土俵にすら上がれなくなった。

 俺の築き上げてきた物は、この世界でなんの利益ももたらしてくれなかった。
 無限の魔力があっても使い方が分からなければ意味がない。
 仮に使い方を知った所で、戦場に出て死なないとは限らない。

 もう死にたくない。
 
 だったらもう、引きこもるしか無い。

 俺は貯金を全てはたいて物置小屋を作った。
 何年分かの食料を詰め込み、小屋で寝る。

 最近は筋トレをする気さえ起きない。
 
 だって無駄にエネルギーを消費するだけだ。
 俺が前世で積み上げてきたこの肉体も努力も、それによって得た尊厳も、度重なる死で汚されてしまった。

 こんな空虚な生活……本当はしたくないのに。
 でも、だったらどうやってこの状況を抜け出せば良い?

 食料が無くなったらどうしよう。
 餓死してしまうなんて本末転倒だ。

 でも、俺は戦う以外で金を稼げない。
 そう言う資格をこの異世界でとってこなかった。

 でも、戦えばまた死と隣り合わせだ。
 
 結局答えは出てこない。
 そんな生活を1年間ずっと続けていた。

 「酷い寝顔だね」

 そんなある日の事。
 聞き覚えの無い声を聞いて目が覚めた。

 目の前に居たのは、真っ黒な羽と髪の毛を持った小さな妖精だった。

 「君の体から濃厚な死臭が溢れてたからさ、思わずここまで寄ってきちゃった」
 「し……しゅう?」
 「ねぇ、君は今まで何回死んだの?」

 妖精のその言葉を聞いて、俺は後方に飛んだ。
 なんでそんな事を聞いて来るのか?
 心の中が恐怖で満たされる。

 「そんな顔しないでよ。私はただ、君に興味があるだけなの」
 「お前は一体?」
 「私は死の妖精。生命が終わるその瞬間の化身みたいなものかな」

 彼女はそう言うと、ビビッて動けない俺の体に容赦なく近づく。
 唇を頬に当て、キスをするような態勢で俺の中の何かを吸いつくしている。

 「そうだねぇ……デスって名乗る事にしよう。チープで覚えやすいのが一番良いからね」

 黒い髪を揺らすその妖精の瞳に吸い込まれる。
 彼女の小さな体が一回り大きくなったような錯覚を覚えながら、俺は流される様に彼女の話を聞くのであった。

 「ねぇ、騙されたと思って私に付いてこない?」
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