上 下
1 / 9

プロローグ

しおりを挟む
 「大丈夫。大丈夫だよ」
 「あ……あぁ」
 「私は遠くに行かないからね」

 優しく頭を撫でられる。
 鼻に突くのは強烈な胃酸の匂いと、鉄臭い血の匂い。

 「ごめんなさい……ごめんなさい」
 「大丈夫。私は気にして無いよ」
 
 俺の頭を撫でているのは一人の妖精だった。
 妖精と言っても、その大きさは人間サイズだ。

 彼女の小枝のような細い腕が、丸太の様な俺の体を優しく包む。
 顔面からゲロを被った彼女の顔は酷く優しくて、俺の目には聖女の様に映った。

 「口で言ってもさ、きっとオーガは気にしちゃうでしょ?」
 「……」

 彼女のその問いかけに答える事は出来なかった。
 ほんの少しでも自分の気持ちを口に出したら洪水の様に流れてしまいそうだったから。
 もう自分のメンタルが耐えられそうにない。 

 「だからさ、私と本契約しようよ」
 「本……契約?」
 「そう。妖精と契約者がず~~~っと一緒になる縛り。喧嘩をしても、仮に他の人を後で好きになったとしても、どっちかが死んだとしても。永遠に一緒」

 そう言って彼女は一つの短剣を生成した。
 これさえあれば……彼女は永遠に俺の物。
 その言葉がずっと脳内でリフレインする。

 「最初に会った時は私を見ては怯えてたっけ?もう懐かしいね」

 彼女はゆっくりと俺の体を離し、その短剣を手に持つ。
 そうして、うっとりとした表情で俺の事を見つめていた。

 「そんな君が、今や私が居ないと碌に生きていけなくなってるんだもん。人生何が起こるか分からないね」

 たった半年の話だ。
 俺の狂っていた人生は彼女のお陰で大きく矯正された。

 「でも……私は今のオーガの方が好きだよ」

 確か……そう。
 初めて会ったのは薄暗い物置部屋。

 まだ彼女が人並の妖精レベルに小さくて、俺が異世界に来てまで引きこもりを続けていたあの日の事だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

処理中です...