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最終章 罰

その青春はいつか呪いになるだろう

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 始を最寄り駅まで連れて行く道中、少し時間が余ったので俺達は近くのファミレスで暇をつぶすことにした。

 テーブル席を取り、数人で分けて食べる用のポテトとドリンクバーを注文。
 俺と始はテーブルをはさんで向かい合う様に座った。

 そして、その始の隣には呼んでも居ない人物がもう一人。

 「なんでお前付いて来てるの?」
 「始さんの護衛の為に一応居るだけなのですよ」

 このファミレス内ではだいぶ目立つ格好をしている氷雨はあっけらかんとそう言い放った。
 どうも、今回の騒動に巻き込まれた始と斬琉キルが電車に乗って帰るまで近くで見届けていたいらしい。

 事務所でファナエルと話してる斬琉キルの方にはるるを置いてきているそうだ。

 「別に始に対して何かしたりしねぇよ」
 「勝手に付いて来てるだけなのです。気にしなくて良いのですよ」

 あくまで私は空気に徹しますと言わんばかりに、氷雨は個別で頼んだパンケーキを静かに食べ始めた。

 「なぁ秋良、氷雨ちゃんとはどういう関係なんだ?」
 「色々あってな。俺とファナエルはこいつ等に危険視されてるんだよ」
 「まぁ、今のお前普通に人間やめてるもんな」

 始がそう言いながらそう言いながら笑うと、頼んでいたフライドポテトが運ばれてきた。
 男友達とこうやってファミレスで飯を食ってると、もはや懐かしさすら感じる高校生時代が帰ってきた様な感覚があった。

 「なぁ、ファナエルさんってぶっちゃけ人間なのか?」
 「……ここまで巻き込んだお前には隠し通せないよな」
 「てことはやっぱ人間じゃないんだな」
 「ああ。今俺に宿ってる力も、元はと言えばファナエルから貰ったものだ」

 始は「ふ~ん」と相槌をしながらポテトを口の中に放り込んだ。
 正直ファナエルの正体や災厄の力についてはもっと質問攻めされるもんだと思っていたのだが、始はこれ以上の質問はしなかった。

 「あ、そう言えばさ。このソシャゲ知ってるか?!今めっちゃ流行ってるんだよ」

 もちろん、始も心の中では俺とファナエルに対する疑問が尽きていない。
 それこそ、あいつの疑問に全部答えていた日が暮れてしまいそうなほどだ。
 
 「秋良はこういうキャラ好きそうじゃないか?」
 「う~んと、これか。確かに可愛いな」
 「……お前今、ファナエルさんほどじゃないけどって思ってただろ」
 「なんで分かった」
 「顔に書いてたぞぉぉこのリア充野郎!!」

 だけど始はそれ以上に俺と過ごす日常を欲していた。
 あの時ファナエルと一緒に駆け落ちして居なければ当たり前の様にしていたであろう馬鹿話を限られた時間で繰り返す。

 同じ席に座っていた氷雨は会話に割って入る事は無かったのだが、俺達の様子を見てひとり穏やかに微笑んでいた。

 「俺とお前で組んだ年齢=彼女居ない歴同盟はどうなったんだよ、この裏切り者め」
 「ファナエルとの関係を後押ししてくれたのはお前じゃねーか。その点は感謝してるよ」
 
 この短い時間で始と話したことはどうでもいい事ばかりだったはずなのに、何故か無性にこの時間が楽しかった。



 
 「……なぁ秋良、お前はもう桜薬市おうやくしには帰らないのか?」
 
 注文した食べ物を食べ切り、もう店を出ようかと言う雰囲気に始はそう言った。

 『また皆で学校とかに行きたい』
 『記憶の事は俺と斬琉キルちゃんでいくらでもフォロー出来る』
 『お前とファナエルさんのイチャつきっぷりも教室とかで見たいし』
 
 始はそれ以上は口にしなかった。
 あいつもあいつなりに、今の俺に気を使ってくれているのだろう。

 『あの頃の日常に戻りたい』

 始がどうして俺とファナエルの記憶を取り戻したのかは分からない。
 でも、この町まで俺達を探しに来た原動力は今心の奥底で始が叫んでいる言葉の通りなんだろう。

 「悪いな、俺は戻れない」
 「それは霊能力の仕事があるからか?幽霊とか怪異を倒すみたいな」
 「それもあるし、この町がファナエルにとって一番居心地のいい場所になりつつあるからな。それにー」
 「それに?」

 俺の言葉を始めはじっと待っていた。
 少し震える自分の腕に力を入れ、俺は口を開く。

 「俺は手を汚しすぎた。とか、依頼で殺しただけとか、そんな言い訳が通用しないぐらいにな。だからもう普通の高校生男子としては生きていけないよ」
 「そうか」

 しばらく、沈黙が続いた。
 電車の時間を見越して氷雨が「会計済ませに行くのですよ」と言うまでずっと。

 俺は少し、今始がどんな感情を持って自分を見ているのかが怖くなっていた。
 始の心の声が不意に聞こえてしまわない様にと堕天使の力を抑えながら店を出た。

 「なぁ秋良」

 店を出て少し歩き、もうすぐ駅に着こうというその時に始はゆっくりと声を上げた。

 「俺には正直分からない事だらけだ。特殊な力を使って幽霊とか今回でいう所のヘルちゃんとかと戦うのがどれだけ悪い事なのかも想像できねぇ」

 「……」

 「だからよ。シンプルに考える事にしたんだ。お前はんだろ、ならいいじゃねーか。きっと幽霊とかを殺したのもファナエルさんを守るためだったんだろうしセーフだセーフ。ほら、異能バトル系の漫画だったらヒロインの危機を助けない主人公なんて主人公失格みたいな所あるし」

 始は俺の背中をバンバンと叩きながら豪快に笑っていた。
 
 「だから変にため込んで自分を責めるなよ。お前が一般人の理解できる法の範囲で人道を踏み外さなきゃ俺はお前の味方だぜ」

 始の心の声を聞く。
 あいつが口にした言葉に嘘が無いか確かめるために。

 「ハハ……お前本気でそう思ってくれてるんだな」
 「何言ってんだよ、当り前だろ?」
 
 ファナエルを助けた事に後悔はない。
 ファナエルと過ごす日常で感じる幸せにに嘘はない。

 それでもアルゴス達を殺した事には強い罪悪感を持っている。
 それも毎晩夢にでてうなされるほどに。

 矛盾した二つの感情が何処かで静かに俺の心を苦しめていたのに、始はバカみたいな理論でその苦しみを楽にしやがった。

 「ありがとな。お前のお陰で少し楽になったよ」
 「ならよかった。またなんかあったら連絡してくれよな、ひとっとびで来てやるから」

 始はそれだけ言うと元気よく走り出して駅の改札に向かう。

 「秋良!!ファナエルさんの事、幸せにしてやれよ!!」
 「お前に言われなくても!!お前もいい彼女作れるよう頑張れよ」
 「おうよ!!覚悟しとけ!!」

 最後にはそんな言葉を交わし合って始を見送った。

 「なんか……柄にもなく青春って感じで恥ずかしいな」
 「良いんじゃないのですか。年相応の体験をすることは大切なのですよ」
 「お前が言うと重いんだよ」
 
 始が乗った電車がこの町を去る間、近くに居た氷雨とそんな話をした。

 
 この時は氷雨のその言葉がお節介以外の何物でも無いと笑えていたんだ。
 まさかこれが俺にとって最後の平穏であるとは思いもしなかったんだから。
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