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最終章 罰

標的は意外にも

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 「私達に敵意がない事、分かってくれたのですか?」
 「……そうだな。お前らが俺達を助ける為にこの事務所に来たのは間違いないみたいだ」

 あの時出会ったシンガンのメンバー全員が入口のドアに立っている。
 その4人全員の心を読んで居るが、誰からも俺やファナエルに対する敵意を持っていない。

 超能力者や人外の生物との恋愛で起こるトラブルを解決しているこいつ等の価値観では、異形になってまでファナエルと添い遂げる決断をした俺はあまりいい存在ではないはずだ。
 ちょっとやそっとの事が起こったぐらいで俺達の事を助けに来るなんてありえない。

 実際、俺達に心を開いてるわけではなさそうだし。
 戦闘適性の高い超能力を持つるると雄二ゆうじの心からは読み取るだけでチクチクと刺されるような強い警戒心を感じる。

 何か面倒な事情でも抱えているに違いない。

 「話をする前に、お前等の誰かに取りついている悪魔について説明してもらう。その悪魔の詳細が分からない限り、俺は警戒態勢を崩さない」

 触手の先端をシンガンの4人に向ける。
 るると雄二ゆうじが何あ会った時の為にいつでも能力が使える様に構えているみたいだが、今の俺の力があれば何かが起こる前に二人を殺せる。

 間違ってもファナエルには傷一つ付けさせない。

 「あぁ、クロノの事については心配いらないよ。前に使役していた悪魔がそこのファナエル・ユピテルに殺されてしまったからね。新しく契約したのさ」

 そう言って前に出たのは、確か琴音と呼ばれていた女性だ。
 こいつの言葉にも嘘はない。

 「今は牛草ファナエルだよ。今度間違えたら容赦しないから」
 「おっと、それは失礼。わざわざ苗字を揃えるなんて、随分幸せな生活をしているみたいだね」
 「そうだよ。私は今とっても幸せなの。何があっても私を守ってくれる素敵な人がそばに居るからね」

 パリン……ガラスが割れる様な音が響く。
 頭上に割れた赤い光輪を顕現させたファナエルが俺の背中から前に出る。

 「言っておくけど、君達ぐらいアキラが手を出さなくても私一人で十分なんだよ」
 「……何が言いたいのですか」
 「私とアキラの恋路を邪魔するような事をしてた癖に、今更何の用があってここに来たの?」

 少しの沈黙が部屋に流れる。
 呑気にアップテンポの曲を流す場違いなラジオの音だけが響く。

 「もう時間も遅いので簡潔に話すのです。私達は数日前から一ノ瀬いちのせこころと言う人物を追っていたのです。彼はヘルと呼ばれる神と現在恋人関係にあり、その神の為に多くの人間の命を奪っているのです。ちなみにさっき出た名前に聞き覚えは?」
 「俺はどっちの名前も聞いた事ないな。ファナエルは?」
 「ヘルって神様の事は知ってるよ。冥界の管理をしてた神様って事だけだけどね」

 なんでその冥界の神様と人間が恋人関係にあるのか、なんで人を殺す必要性があるのか、そこらの話はファナエルにも分からないらしい。
 まぁ話を聞いていればその一ノ瀬って奴は恋人の為に人を殺している……そんな極悪人を氷雨達が追うのは話の筋が通っているな。

 『あなた達二人の罪人にどんな罰が下るのか、冥府の世界から監視し続けています』
 
 今の俺に一ノ瀬って奴を極悪人と呼ぶ資格はないけど。

 「アキラ?」
 「ああ、ごめんごめん。少し考え事をな」

 声を掛けられるまでファナエルがこんなに心配そうな顔で俺を見つめている事に気づかなかった。
 うっかりしてたな、ファナエルに余計なストレス与えたくないのに。

 今の話とこの現状を考えれば一ノ瀬の目的は恐らくー

 「何となく話が見えてきた。その一ノ瀬って奴とヘルって神様がこの事務所に来るんだな……ファナエルを殺す為に」

 ヘルが冥界の神様と言うのなら、立場はアルゴスやフェンリルと同等のはずだ。
 実際の冥界がどんな所か俺には分からないけど、死んだアルゴスに俺とファナエルの処理を頼まれた可能性は十分にある。

 「……えっと」
 「そう来たか」
 「まぁ彼はあの堕天使の騎士ナイト。そう考えるのも無理はない」

 しかし、シンガンの面々の反応は俺の想定していた物と違った。
 俺の答えに面食らっている様な、困惑している様な。
 
 一体何を間違っていたのかと考えていると、さっきからずっと警戒を解かなかった雄二ゆうじが一歩前に出て俺に声をかけた。

 「一ノ瀬いちのせこころがこの事務所に来るってのは間違いねぇ。だけど奴の狙いはお前自慢の彼女じゃねーんだよ」
 「は?だったら何を狙ってこの事務所に」
 「あいつらの標的はお前だよ」
 
 そう言って雄二ゆうじが指を指したのは俺の身体がある方向。
 それはつまり、命を狙われているのがファナエルでは無くてー

 「俺?」

 自分である事を示すものだった。

 俺はその事実に恐怖するわけでも無く、怒るわけでも無く。
 ただただ、ファナエルの命が狙われていない事に安心感を覚えるだけだった。
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