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最終章 罰
【ココロSIDE】 孤独な心を埋めてくれるのは
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僕の見える世界が他の皆と違う事に気づいたのは小学3年生ぐらいの頃。
きっかけは祖父の葬式に参列した時の事だ。
大人たちが行儀よく坊さんの話を聞いている間、僕の目には死んだ祖父の幽霊がずっと見えていた。
壊れたレコードの様に後悔の言葉を繰り返し繰り返し口にする幽霊。
どれだけお経が流れても、どれだけ大人が線香を立てても、棺桶の中に思い出の品を入れても、祖父が後悔の念を晴らすことは無かった。
『こんな事して意味あるん?』
そんな祖父の姿を見続けた僕は周りの大人にそう聞いた。
そして、ありえないぐらいに怒られた。
祖父の現実をちゃんと見ているのは僕なのに、幽霊を見る事の出来ない大人たちが次から次へと僕を責めていく。
そんな理不尽な現実に耐えられなくて、僕は泣きわめきながら叫び続けた。
そこから家族の仲は険悪になって、誰からも期待されなくなった。
一人で時間を潰す中、自分の中に冥界と繋がる能力がある事を何となく自覚した。
怪談話に出てきた『裏拍手』をすると、幽霊たちを自由に操る事が出来た。
そんな幽霊たちが口にする呪詛を聞いて、世界には悪意が満ちている事を知った。
真面目に生きるのなんて馬鹿らしくなって、いつしか能力を悪用しながら自分勝手に欲望を満たす生活を続けていた。
それは楽しいと言えば楽しくて、半ばやけくそ気味な生活で、ふとした瞬間に虚しさが襲ってくる毎日だった。
「ヘルちゃん、朝ごはん出来たで」
「フ、フレンチトースト!?すごい、本当にフワフワしてる」
「この前、食べたいって言ってたやろ?」
だけど、今はその虚しさを感じる事は無い。
なぜなら、口を大きく開けてフレンチトーストを頬張る可愛い冥界の神様が僕を頼ってくれているから。
「そ、そう言えば、牛草に関する情報に進展があったんだよね?」
「なんでも、僕達と同じ様に『牛草』って名前の人間を探してる子らがこの町に居るみたいや」
「この町に……アルゴスとフェンリルお姉ちゃんが死んだのはここで間違いないし……か、関係性は高そうだね!!」
今まで周囲の期待に流されて生きていて、自分勝手な生活に憧れている人間臭い女神様。
僕はそんな彼女に『自分勝手な生き方』を教えて、彼女は僕に『誰かから期待される生き方』を教えてくれる。
そんな運命的な関係が、僕の心の隙間を埋めていく。
「場所はヘルちゃんが行きたいって言ってたカフェの近くにしてあるから、そこで話を聞こか」
「うん。ありがとう、ココロ!!」
そんな彼女の為に、僕は全力で彼女のやりたい事である『牛草』に対する復讐を手伝うと、出会ったあの時に誓ったんや。
今やるべきことは、『牛草』に関する情報を集める事と……ヘルちゃんの力を復活させるために最低でも2人の生きた魂を確保することやな。
◇
「ねぇねぇ始っち。あの人じゃない?」
「どれどれ……確かに霊能力者って感じの雰囲気あるな」
待ち合わせ時間の夕方5時頃。
ヘルちゃんと一緒に桜薬駅を歩いていると妙な視線がこっちに向けられている事に気が付いた。
そこに居たのは高校生ぐらいの男女2人組。
ぱっと目が合うと、その二人は勢いよくこっちに近づいて来た。
「もしかして一ノ瀬さんですか?!DMで連絡を取っていた『キルケー@牛草探してます』です!!」
「えぇ……あのアカウントそんな名前だったの」
「分かりやすいでしょ。ほら、始っちも挨拶し・な・い・と」
「そうだな!!俺は始って言います!!」
元気な子達やなぁ。
まぁ僕としてはこのぐらいの距離感の子の方が話しやすいけど……
「あ、え、そっ……その……」
ヘルちゃんが僕の背に隠れながら軽いパニック状態に陥っている。
上手い事助け船を出さんとね。
「お二人とも今日はありがとうな。DMで知ってると思うけど改めて、一ノ瀬心《こころ》言います」
「え、えっと……ヘル……じゃなくて、ハーフって設定が無難って話だったから……え、ええええ、閻魔ヘルです」
「この子は僕の彼女なんやけど、ちょっと人見知りな所があってな。そこの所気にしてくれると助かるで」
目の前の高校生二人が出来るだけ僕に話しかけてくれるようにこうやって導線を張っておく。
そうすれば、ヘルちゃんの負担も少なくすることが出来るはずや。
「まぁ立ち話もなんやし、二人が良かったらこの店行きません?」
「おお、綺麗な店!!斬琉ちゃんこの店知ってたりする?」
「いやいや始っち、知ってるも何も有名なカフェだよ。まぁ結構高いみたいだけど」
「代金は僕が出すから安心してな」
高校生達の目が輝き始める。
やっぱりこの年の子らは驕りってワードに目がないなぁとつくづく思う。
「あ、あの……座る席のことなんだけど」
「ん?どうしたん?」
店に向かって歩いている最中、僕の背中からひょいと顔を出したヘルちゃんが声をあげる。
「その女の人と……出来るだけ遠い席に座りたい」
「え、僕?!なんか迷惑な事しちゃった?」
「い、いいいえ……ただ、貴方が私の嫌いなお父様に何となく似ているので」
正直な所、さっき出会ったばかりの女子高生にヘルちゃんがなんでそんな事を言ったのか分からない。
斬琉と呼ばれていた彼女も始と自己紹介していた彼も少なからず困惑した顔を浮かべている。
でもー
「ごめんなぁ。家族間のトラウマって重いもんでなぁ、色々理解してくれると助かるわ」
僕の背中を掴むヘルちゃんの手の力は尋常じゃない。
あの斬琉って子を見て心の底から恐怖を感じていることが分かった。
「そっかぁ……『私』としてはちょっとショックだけど、まぁ仕方ない!!僕は理解ある系の女の子なので大丈夫」
斬琉ちゃんが笑ってそう受け流してくれて、この場はいったん収まりを見せた。
でも、彼女が『私』と言ったその瞬間だけは……瞳の奥からどす黒い何かが覗いている様な恐怖を感じたのだった。
きっかけは祖父の葬式に参列した時の事だ。
大人たちが行儀よく坊さんの話を聞いている間、僕の目には死んだ祖父の幽霊がずっと見えていた。
壊れたレコードの様に後悔の言葉を繰り返し繰り返し口にする幽霊。
どれだけお経が流れても、どれだけ大人が線香を立てても、棺桶の中に思い出の品を入れても、祖父が後悔の念を晴らすことは無かった。
『こんな事して意味あるん?』
そんな祖父の姿を見続けた僕は周りの大人にそう聞いた。
そして、ありえないぐらいに怒られた。
祖父の現実をちゃんと見ているのは僕なのに、幽霊を見る事の出来ない大人たちが次から次へと僕を責めていく。
そんな理不尽な現実に耐えられなくて、僕は泣きわめきながら叫び続けた。
そこから家族の仲は険悪になって、誰からも期待されなくなった。
一人で時間を潰す中、自分の中に冥界と繋がる能力がある事を何となく自覚した。
怪談話に出てきた『裏拍手』をすると、幽霊たちを自由に操る事が出来た。
そんな幽霊たちが口にする呪詛を聞いて、世界には悪意が満ちている事を知った。
真面目に生きるのなんて馬鹿らしくなって、いつしか能力を悪用しながら自分勝手に欲望を満たす生活を続けていた。
それは楽しいと言えば楽しくて、半ばやけくそ気味な生活で、ふとした瞬間に虚しさが襲ってくる毎日だった。
「ヘルちゃん、朝ごはん出来たで」
「フ、フレンチトースト!?すごい、本当にフワフワしてる」
「この前、食べたいって言ってたやろ?」
だけど、今はその虚しさを感じる事は無い。
なぜなら、口を大きく開けてフレンチトーストを頬張る可愛い冥界の神様が僕を頼ってくれているから。
「そ、そう言えば、牛草に関する情報に進展があったんだよね?」
「なんでも、僕達と同じ様に『牛草』って名前の人間を探してる子らがこの町に居るみたいや」
「この町に……アルゴスとフェンリルお姉ちゃんが死んだのはここで間違いないし……か、関係性は高そうだね!!」
今まで周囲の期待に流されて生きていて、自分勝手な生活に憧れている人間臭い女神様。
僕はそんな彼女に『自分勝手な生き方』を教えて、彼女は僕に『誰かから期待される生き方』を教えてくれる。
そんな運命的な関係が、僕の心の隙間を埋めていく。
「場所はヘルちゃんが行きたいって言ってたカフェの近くにしてあるから、そこで話を聞こか」
「うん。ありがとう、ココロ!!」
そんな彼女の為に、僕は全力で彼女のやりたい事である『牛草』に対する復讐を手伝うと、出会ったあの時に誓ったんや。
今やるべきことは、『牛草』に関する情報を集める事と……ヘルちゃんの力を復活させるために最低でも2人の生きた魂を確保することやな。
◇
「ねぇねぇ始っち。あの人じゃない?」
「どれどれ……確かに霊能力者って感じの雰囲気あるな」
待ち合わせ時間の夕方5時頃。
ヘルちゃんと一緒に桜薬駅を歩いていると妙な視線がこっちに向けられている事に気が付いた。
そこに居たのは高校生ぐらいの男女2人組。
ぱっと目が合うと、その二人は勢いよくこっちに近づいて来た。
「もしかして一ノ瀬さんですか?!DMで連絡を取っていた『キルケー@牛草探してます』です!!」
「えぇ……あのアカウントそんな名前だったの」
「分かりやすいでしょ。ほら、始っちも挨拶し・な・い・と」
「そうだな!!俺は始って言います!!」
元気な子達やなぁ。
まぁ僕としてはこのぐらいの距離感の子の方が話しやすいけど……
「あ、え、そっ……その……」
ヘルちゃんが僕の背に隠れながら軽いパニック状態に陥っている。
上手い事助け船を出さんとね。
「お二人とも今日はありがとうな。DMで知ってると思うけど改めて、一ノ瀬心《こころ》言います」
「え、えっと……ヘル……じゃなくて、ハーフって設定が無難って話だったから……え、ええええ、閻魔ヘルです」
「この子は僕の彼女なんやけど、ちょっと人見知りな所があってな。そこの所気にしてくれると助かるで」
目の前の高校生二人が出来るだけ僕に話しかけてくれるようにこうやって導線を張っておく。
そうすれば、ヘルちゃんの負担も少なくすることが出来るはずや。
「まぁ立ち話もなんやし、二人が良かったらこの店行きません?」
「おお、綺麗な店!!斬琉ちゃんこの店知ってたりする?」
「いやいや始っち、知ってるも何も有名なカフェだよ。まぁ結構高いみたいだけど」
「代金は僕が出すから安心してな」
高校生達の目が輝き始める。
やっぱりこの年の子らは驕りってワードに目がないなぁとつくづく思う。
「あ、あの……座る席のことなんだけど」
「ん?どうしたん?」
店に向かって歩いている最中、僕の背中からひょいと顔を出したヘルちゃんが声をあげる。
「その女の人と……出来るだけ遠い席に座りたい」
「え、僕?!なんか迷惑な事しちゃった?」
「い、いいいえ……ただ、貴方が私の嫌いなお父様に何となく似ているので」
正直な所、さっき出会ったばかりの女子高生にヘルちゃんがなんでそんな事を言ったのか分からない。
斬琉と呼ばれていた彼女も始と自己紹介していた彼も少なからず困惑した顔を浮かべている。
でもー
「ごめんなぁ。家族間のトラウマって重いもんでなぁ、色々理解してくれると助かるわ」
僕の背中を掴むヘルちゃんの手の力は尋常じゃない。
あの斬琉って子を見て心の底から恐怖を感じていることが分かった。
「そっかぁ……『私』としてはちょっとショックだけど、まぁ仕方ない!!僕は理解ある系の女の子なので大丈夫」
斬琉ちゃんが笑ってそう受け流してくれて、この場はいったん収まりを見せた。
でも、彼女が『私』と言ったその瞬間だけは……瞳の奥からどす黒い何かが覗いている様な恐怖を感じたのだった。
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