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3章 罪
親友だったもの
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「ハァッ、ハァッ……ハァッ!!」
こんなに息を切らして走ったのはいつぶりの事だろうか?
自分の限界を超えるスピードでバクバクと鳴り続ける心臓を無視する感覚にどこか懐かしさすら感じている。
『ハネナシ、ハネナシ』
『ハネナシ、ハネナシ』
脳に響く化け物達の声。
視線の先に居る奴らの動きをしっかりと観察して俺は右の拳を強く握る。
『####、####』
『####、####』
「邪魔、するな!!」
銀色の右腕にノイズ交じりの光が宿る。
化け物達を薙ぐ様に右の拳を振り払うと光が波のようにうねり、化け物達の身体を飲み込んでいく。
「ここを真っ直ぐ進めば」
塵になっていく化け物を横目に俺は走り出した。
ファナエルが言っていた結界の弱点がある街の境界線まであと少し。
喉がひりひりと悲鳴を上げているがこんなところで休んでいる暇はない。
さっきチラッと確認した視界の先には鳥頭の化け物の姿もアルゴスに操られている人々の姿も無かった。
チャンスだ、この間に目的地までたどり着かないと。
『秋良??……何の情景だ……これ?』
また誰かの声が脳に響く。
その声はこの状況に置いてはあまりにも異質な声すぎて俺は思わず走っていた足を止めてしまった。
「今の……始の声?」
間違いない。
さっきのは始から聞こえる心の声だ。
もしかしてまだアルゴスに操られずに正気を保っているのか?
『秋良……ソうだ……あいつはホバク対象……ハネナシに手を貸す……罪人』
「なッー」
次の瞬間、空から何かが凄いスピードで落下した。
道路はえぐれ、土煙とコンクリートの残骸が辺りに飛び散っている。
「始?」
「否……カレ、お前の事ヨク知っている……だから使エル」
土煙が晴れる。
そこに立っていたのは額に目の紋章を浮かび上がらせ虚ろな目をした始と、フワフワと中に浮いている4つほどの目玉だった。
浮んでいた4つの目玉が始の身体をグルグルと動き回っている。
目玉から放たれる怪しい光が始を覆い、その体に緑色の羽衣を重ね始めた。
両手の先には孔雀の羽を模した大きな扇が生成されている。
「我がナはエリニュス。アルゴス様ノ、分身デあり、式神」
飛び回っていた目玉は始の右腕と左腕の前にそれぞれ2つずつ並んでピタリとその動きを止める。
そして次の瞬間、周囲の空気がはためく勢いで目玉達は始の腕にもぐりこんだ。
「アルゴス様の命により、タイショウ牛草秋良を捕縛する」
始の身体を乗っ取ったエリニュスは両手に持った扇子を振り回しながらこちらに接近する。
熱がこもる両足を必死に動かしてその攻撃を俺は躱した。
空振りした扇子が捕えた地面は嫌な音を出しながら抉れていく。
見た目は扇子だけどあれはもうただの鈍器じゃないか。
「なんで始の身体を使うんだよ」
「キマッテいる。こいつが牛草秋良のジョウホウを沢山持ってイルカラダ」
コンクリートの破片が舞い上がる。
破壊力だけは大したものだがスピードは並程度、瞬間移動しながら攻撃してきた雄二に比べれば大したことじゃない。
心さえ読んでしまえば攻撃を躱す事は何とか可能なレベルだ。
『ホバク、ホバク、ホバク』
『フカカイ、ナゼ、カレハ、ハネナシノ、ミカタヲ?』
『な……何が起こってるのか分からない』
『トニカク、ホバク』
『真っ暗で何も見えない』
『ザイニン、サバク』
その心の声に始の声が混ざっているのが気に食わない。
「こいつを巻き込むな……これは俺とファナエルの問題だ!!」
「チガウ、コレは私達とハネナシの問題だ。コノ男は天カラ使用する事をキョカされている。巻き込まれているノは、部外者なノは、オマエダよ、牛草秋良」
銀色になっている俺の右腕とエリニュスの扇がぶつかり合う。
ビリビリと腕に衝撃が走る。
この攻撃も避けて様子を見た方がよっぽど良かったのだろう……だけど現状そんなことをしている余裕は無い。
俺を信じて送り出してくれたファナエルの為にも、心の奥底で今も悲鳴を上げている始の為にも。
「ナゼお前はハネナシに力を貸ス?アイツの過去ヲ、罪ヲ、貴様はキイテいるのだろう?」
「それを知った上でファナエルが好きだったから、俺は彼女の味方になるって決めたんだ」
「ただのレンアイ感情??ナゼ、ナゼ、理解不能、理解不能、イジョウ、イジョウ!!」
「パニックになってる所悪いけど……これ以上お前にかまってる暇はないんだ」
『###、###、###』
『####、##、###、#####、####?』
『な……何が起こってるのか分からない』
『####、###』
『真っ暗で何も見えない』
『####、###』
右腕にノイズ交じりの光がブワりと纏わる。
それに比例して湧いてきた力を振り絞って俺は目の前の扇子を弾き飛ばした。
「分かったら始の身体から出ていけ!!」
ザンと足を踏みだして駆ける。
俺はエリニュスの腹部に右の拳を力一杯に打ち込んだ。
俺の右腕から放射されたノイズ交じりの光は始の身体に入り込んだエリニュスを一つ一つ消し去ってゆく。
「ガッ……サクセン、失敗、失敗……次のプランにー」
そこまで言った所でエリニュスの身体は爆散した。
そこに残ったのは静かな顔をして気絶している始の姿だけだった。
「良かった……怪我はしてないみたいだな」
俺は始の身体を持ちあげて、道の端にある裏路地の所にそっと寝かせた。
「すぐに終わらしてくるから……ここで大人しくしといてくれよ」
何も聞こえていないであろう始にそんな言葉をかけ、少し息を整える。
さすがにずっと走りっぱなしで体が悲鳴を上げているみたいだ。
でもここで立ち止まっている訳にも行かない。
あと3秒休憩したらまた結界を壊しにー
「はねなし~、はねなし~、どこだ~」
「ッ……追手か!!」
羽無しどこだという声を耳にした俺は右手を構えながらバッと背後を振り返る。
こっちが先制攻撃できるように相手の心を読んでー
『うわぁ!!ストップストップ!!』
「へ?」
予想外の心の声が聞えたせいで俺は思わず動きを止めてしまった。
それを見逃さなかった何者かが俺の両手をガシっと掴んで裏路地の方へ俺の身体を動かしてゆく。
「秋にぃ落ち着いて!!僕だよ」
「……斬琉?」
息を整えながら前を見る。
そこに居たのは間違いなく、誰にも体を操られていない俺の妹だった。
こんなに息を切らして走ったのはいつぶりの事だろうか?
自分の限界を超えるスピードでバクバクと鳴り続ける心臓を無視する感覚にどこか懐かしさすら感じている。
『ハネナシ、ハネナシ』
『ハネナシ、ハネナシ』
脳に響く化け物達の声。
視線の先に居る奴らの動きをしっかりと観察して俺は右の拳を強く握る。
『####、####』
『####、####』
「邪魔、するな!!」
銀色の右腕にノイズ交じりの光が宿る。
化け物達を薙ぐ様に右の拳を振り払うと光が波のようにうねり、化け物達の身体を飲み込んでいく。
「ここを真っ直ぐ進めば」
塵になっていく化け物を横目に俺は走り出した。
ファナエルが言っていた結界の弱点がある街の境界線まであと少し。
喉がひりひりと悲鳴を上げているがこんなところで休んでいる暇はない。
さっきチラッと確認した視界の先には鳥頭の化け物の姿もアルゴスに操られている人々の姿も無かった。
チャンスだ、この間に目的地までたどり着かないと。
『秋良??……何の情景だ……これ?』
また誰かの声が脳に響く。
その声はこの状況に置いてはあまりにも異質な声すぎて俺は思わず走っていた足を止めてしまった。
「今の……始の声?」
間違いない。
さっきのは始から聞こえる心の声だ。
もしかしてまだアルゴスに操られずに正気を保っているのか?
『秋良……ソうだ……あいつはホバク対象……ハネナシに手を貸す……罪人』
「なッー」
次の瞬間、空から何かが凄いスピードで落下した。
道路はえぐれ、土煙とコンクリートの残骸が辺りに飛び散っている。
「始?」
「否……カレ、お前の事ヨク知っている……だから使エル」
土煙が晴れる。
そこに立っていたのは額に目の紋章を浮かび上がらせ虚ろな目をした始と、フワフワと中に浮いている4つほどの目玉だった。
浮んでいた4つの目玉が始の身体をグルグルと動き回っている。
目玉から放たれる怪しい光が始を覆い、その体に緑色の羽衣を重ね始めた。
両手の先には孔雀の羽を模した大きな扇が生成されている。
「我がナはエリニュス。アルゴス様ノ、分身デあり、式神」
飛び回っていた目玉は始の右腕と左腕の前にそれぞれ2つずつ並んでピタリとその動きを止める。
そして次の瞬間、周囲の空気がはためく勢いで目玉達は始の腕にもぐりこんだ。
「アルゴス様の命により、タイショウ牛草秋良を捕縛する」
始の身体を乗っ取ったエリニュスは両手に持った扇子を振り回しながらこちらに接近する。
熱がこもる両足を必死に動かしてその攻撃を俺は躱した。
空振りした扇子が捕えた地面は嫌な音を出しながら抉れていく。
見た目は扇子だけどあれはもうただの鈍器じゃないか。
「なんで始の身体を使うんだよ」
「キマッテいる。こいつが牛草秋良のジョウホウを沢山持ってイルカラダ」
コンクリートの破片が舞い上がる。
破壊力だけは大したものだがスピードは並程度、瞬間移動しながら攻撃してきた雄二に比べれば大したことじゃない。
心さえ読んでしまえば攻撃を躱す事は何とか可能なレベルだ。
『ホバク、ホバク、ホバク』
『フカカイ、ナゼ、カレハ、ハネナシノ、ミカタヲ?』
『な……何が起こってるのか分からない』
『トニカク、ホバク』
『真っ暗で何も見えない』
『ザイニン、サバク』
その心の声に始の声が混ざっているのが気に食わない。
「こいつを巻き込むな……これは俺とファナエルの問題だ!!」
「チガウ、コレは私達とハネナシの問題だ。コノ男は天カラ使用する事をキョカされている。巻き込まれているノは、部外者なノは、オマエダよ、牛草秋良」
銀色になっている俺の右腕とエリニュスの扇がぶつかり合う。
ビリビリと腕に衝撃が走る。
この攻撃も避けて様子を見た方がよっぽど良かったのだろう……だけど現状そんなことをしている余裕は無い。
俺を信じて送り出してくれたファナエルの為にも、心の奥底で今も悲鳴を上げている始の為にも。
「ナゼお前はハネナシに力を貸ス?アイツの過去ヲ、罪ヲ、貴様はキイテいるのだろう?」
「それを知った上でファナエルが好きだったから、俺は彼女の味方になるって決めたんだ」
「ただのレンアイ感情??ナゼ、ナゼ、理解不能、理解不能、イジョウ、イジョウ!!」
「パニックになってる所悪いけど……これ以上お前にかまってる暇はないんだ」
『###、###、###』
『####、##、###、#####、####?』
『な……何が起こってるのか分からない』
『####、###』
『真っ暗で何も見えない』
『####、###』
右腕にノイズ交じりの光がブワりと纏わる。
それに比例して湧いてきた力を振り絞って俺は目の前の扇子を弾き飛ばした。
「分かったら始の身体から出ていけ!!」
ザンと足を踏みだして駆ける。
俺はエリニュスの腹部に右の拳を力一杯に打ち込んだ。
俺の右腕から放射されたノイズ交じりの光は始の身体に入り込んだエリニュスを一つ一つ消し去ってゆく。
「ガッ……サクセン、失敗、失敗……次のプランにー」
そこまで言った所でエリニュスの身体は爆散した。
そこに残ったのは静かな顔をして気絶している始の姿だけだった。
「良かった……怪我はしてないみたいだな」
俺は始の身体を持ちあげて、道の端にある裏路地の所にそっと寝かせた。
「すぐに終わらしてくるから……ここで大人しくしといてくれよ」
何も聞こえていないであろう始にそんな言葉をかけ、少し息を整える。
さすがにずっと走りっぱなしで体が悲鳴を上げているみたいだ。
でもここで立ち止まっている訳にも行かない。
あと3秒休憩したらまた結界を壊しにー
「はねなし~、はねなし~、どこだ~」
「ッ……追手か!!」
羽無しどこだという声を耳にした俺は右手を構えながらバッと背後を振り返る。
こっちが先制攻撃できるように相手の心を読んでー
『うわぁ!!ストップストップ!!』
「へ?」
予想外の心の声が聞えたせいで俺は思わず動きを止めてしまった。
それを見逃さなかった何者かが俺の両手をガシっと掴んで裏路地の方へ俺の身体を動かしてゆく。
「秋にぃ落ち着いて!!僕だよ」
「……斬琉?」
息を整えながら前を見る。
そこに居たのは間違いなく、誰にも体を操られていない俺の妹だった。
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