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2章 ファナエル=???
【氷雨SIDE】お節介な君の背の上で
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ゆらりゆらりと体が上下する感覚。
自分の全体重を誰かに預けているような懐かしい気持ち。
私はそれらを感じながらゆっくりと目を開いた。
「ここは……どこなのです?」
「おう、起きたか」
陽気に取り繕っている雄二の声が寝ぼけていた私の脳を覚醒させた。
目に映る景色はあの廃墟とは似つかない、夕焼け空が綺麗に映えている田舎道だった。
「随分遠い所まで逃げてきたのですね」
「夢の世界でお前が負けた以上、俺達があの堕天使に勝つ手段は無いからな。全員を引っ張って瞬間移動するのは大変だったぜ」
「それは大変なのですね。なら私はおろしてもらって良いのですよ。落ち着く所に行くまで私を背負ったままだと重いのです」
「遠慮すんなよ、子供の身体だと長時間移動するのも大変なんだから」
雄二はそう言って私を背中から降ろそうとはしなかった。
恥ずかしい気持ちもあったし、何より彼に負担を掛けたくない気持ちも多くあった。
だけど私の身体は私の思考に追いついてくれないらしい。
「だから子供の身体は嫌いなのです」
そんな言葉を吐き出しながら、私は彼の背中にべったりと自分の体を預けた。
ふと隣を見ると、そこには微笑みながら私達の様子を見守っている琴音ちゃんと彼女の身体を支えながら歩いていたるるちゃんの姿が見えた。
「とりあえず皆無事みたいだねぇ。まぁ堕天使相手にあれだけ善戦したんだ、悔いる事は無いよ」
「よく言う。一番傷を負ってたのは貴方だったのに」
「ハハッ、私は良いのさ。本物の堕天使と出会えた事自体が大きな収穫だからねぇ……ところでるる君、さっきから頑なに私をあだ名で呼ばないのは理由があるのかい?私はあれを結構気に入っていたのだけど」
「使役していた悪魔がお釈迦になったならもう♰サタン・サモナー♰とは呼べない。今はマッドサイエンティスト方面のあだ名を考えてる」
二人のやり取りは相変わらずだ。
その会話を聞いて安心感すら覚えてしまうほどに。
私たちは失敗した。
牛草秋良はこれからもずっとあの堕天使を愛して、果ては人間ではなくなってしまうのだろう。
「私達がお兄さんに出来ることが無いのなら……せめて二人の恋路は良いものであって欲しいのです」
誰にも聞こえないような声でぼそっとそんなことを呟いた。
そう、誰にも聞こえない様に呟いたはずなのだ。
『オマエノ、コウドウハ、ムクワレル』
『オマエタチ、デキルコト、マダアル』
さっきまでの朗らかな空気を黒く塗りつぶすような不穏な声が辺りに響く。
前方には誰も居なかったはずなのに、気づけばいつぞやに見た鳥頭の怪異が目の前に立ち尽くしていた。
「こ、こいつあの時の!!」
「ん、なんだい君達?これに会っていたのかい?」
「そうなのです。あの時は色々立て込んでいて話すのが遅れてしまったのですが」
私と雄二が琴音ちゃんにあの時の事を断片的に伝える。
すると彼女は「害はないから安心して」とだけ言うと、体を支えていたるるちゃんの手を振り払って一人で前へと歩み出た。
「これは神様のお使いみたいな存在なんだ。私がこの悪魔を貰ったのもこの鳥頭の怪異を通してだったしね」
彼女はそう言ってポケットから小さな緑色の箱を取り出した。
鳥頭の怪異は口を大きく開けて君が悪い音を喉から鳴らしている。
「用があるのは私かな?相手が堕天使だったとはいえ貴方から借りた悪魔を殺してしまったからね」
『ゴッ、ガッ……いや、用があるのはあなた達全員にですよ。それも咎めようって訳じゃなくて少しお話を聞きたいんです』
先ほどとは打って変わった女性の声が化け物のくちばしから流れてくる。
目の前の怪異は現状に理解が追いついていない私達を置いてきぼりにして体をグニャリと地面に潰れるように変形させた。
地面に潰れたそれは鳥頭の怪異から緑色の大きな花へ。
空からはその花を受け皿にするようにまばゆい神秘的な光が大きなレーザービームみたいに降り注いでいる。
「天界にも色々と規則があって困っている訳なんです。このままでは私はあの堕天使、ファナエル・ユピテルを捕まえることが出来ませんので」
「あの堕天使を捕まえるだと?」
「ええ、その通り。あなた達がファナエルから受けた被害の報告をすれば、私が全ての力を持って彼女を追い詰めることが出来ます。だからあなた達には強力してもらいたいのです」
「あなたは一体……何なのですか?」
私のその声に答えるように、空から降り注いでいた光は収まりを見せる。
鳥頭の怪異が立っていたその場所にいたのはえらく高身長な女性だった。
緑色のショートヘアー、背中から四本生えている緑色の羽、頭の上に浮ぶ光輪、ぎょろぎょろと動く無数の目玉が至る所に植え付けられている緑色の軍服と軍帽。
それは明らかに私たちが知っている世界の生命体ではなかった。
「私の名前はアルゴス。天界の番人を務めている神ですよ」
自分の全体重を誰かに預けているような懐かしい気持ち。
私はそれらを感じながらゆっくりと目を開いた。
「ここは……どこなのです?」
「おう、起きたか」
陽気に取り繕っている雄二の声が寝ぼけていた私の脳を覚醒させた。
目に映る景色はあの廃墟とは似つかない、夕焼け空が綺麗に映えている田舎道だった。
「随分遠い所まで逃げてきたのですね」
「夢の世界でお前が負けた以上、俺達があの堕天使に勝つ手段は無いからな。全員を引っ張って瞬間移動するのは大変だったぜ」
「それは大変なのですね。なら私はおろしてもらって良いのですよ。落ち着く所に行くまで私を背負ったままだと重いのです」
「遠慮すんなよ、子供の身体だと長時間移動するのも大変なんだから」
雄二はそう言って私を背中から降ろそうとはしなかった。
恥ずかしい気持ちもあったし、何より彼に負担を掛けたくない気持ちも多くあった。
だけど私の身体は私の思考に追いついてくれないらしい。
「だから子供の身体は嫌いなのです」
そんな言葉を吐き出しながら、私は彼の背中にべったりと自分の体を預けた。
ふと隣を見ると、そこには微笑みながら私達の様子を見守っている琴音ちゃんと彼女の身体を支えながら歩いていたるるちゃんの姿が見えた。
「とりあえず皆無事みたいだねぇ。まぁ堕天使相手にあれだけ善戦したんだ、悔いる事は無いよ」
「よく言う。一番傷を負ってたのは貴方だったのに」
「ハハッ、私は良いのさ。本物の堕天使と出会えた事自体が大きな収穫だからねぇ……ところでるる君、さっきから頑なに私をあだ名で呼ばないのは理由があるのかい?私はあれを結構気に入っていたのだけど」
「使役していた悪魔がお釈迦になったならもう♰サタン・サモナー♰とは呼べない。今はマッドサイエンティスト方面のあだ名を考えてる」
二人のやり取りは相変わらずだ。
その会話を聞いて安心感すら覚えてしまうほどに。
私たちは失敗した。
牛草秋良はこれからもずっとあの堕天使を愛して、果ては人間ではなくなってしまうのだろう。
「私達がお兄さんに出来ることが無いのなら……せめて二人の恋路は良いものであって欲しいのです」
誰にも聞こえないような声でぼそっとそんなことを呟いた。
そう、誰にも聞こえない様に呟いたはずなのだ。
『オマエノ、コウドウハ、ムクワレル』
『オマエタチ、デキルコト、マダアル』
さっきまでの朗らかな空気を黒く塗りつぶすような不穏な声が辺りに響く。
前方には誰も居なかったはずなのに、気づけばいつぞやに見た鳥頭の怪異が目の前に立ち尽くしていた。
「こ、こいつあの時の!!」
「ん、なんだい君達?これに会っていたのかい?」
「そうなのです。あの時は色々立て込んでいて話すのが遅れてしまったのですが」
私と雄二が琴音ちゃんにあの時の事を断片的に伝える。
すると彼女は「害はないから安心して」とだけ言うと、体を支えていたるるちゃんの手を振り払って一人で前へと歩み出た。
「これは神様のお使いみたいな存在なんだ。私がこの悪魔を貰ったのもこの鳥頭の怪異を通してだったしね」
彼女はそう言ってポケットから小さな緑色の箱を取り出した。
鳥頭の怪異は口を大きく開けて君が悪い音を喉から鳴らしている。
「用があるのは私かな?相手が堕天使だったとはいえ貴方から借りた悪魔を殺してしまったからね」
『ゴッ、ガッ……いや、用があるのはあなた達全員にですよ。それも咎めようって訳じゃなくて少しお話を聞きたいんです』
先ほどとは打って変わった女性の声が化け物のくちばしから流れてくる。
目の前の怪異は現状に理解が追いついていない私達を置いてきぼりにして体をグニャリと地面に潰れるように変形させた。
地面に潰れたそれは鳥頭の怪異から緑色の大きな花へ。
空からはその花を受け皿にするようにまばゆい神秘的な光が大きなレーザービームみたいに降り注いでいる。
「天界にも色々と規則があって困っている訳なんです。このままでは私はあの堕天使、ファナエル・ユピテルを捕まえることが出来ませんので」
「あの堕天使を捕まえるだと?」
「ええ、その通り。あなた達がファナエルから受けた被害の報告をすれば、私が全ての力を持って彼女を追い詰めることが出来ます。だからあなた達には強力してもらいたいのです」
「あなたは一体……何なのですか?」
私のその声に答えるように、空から降り注いでいた光は収まりを見せる。
鳥頭の怪異が立っていたその場所にいたのはえらく高身長な女性だった。
緑色のショートヘアー、背中から四本生えている緑色の羽、頭の上に浮ぶ光輪、ぎょろぎょろと動く無数の目玉が至る所に植え付けられている緑色の軍服と軍帽。
それは明らかに私たちが知っている世界の生命体ではなかった。
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