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2章 ファナエル=???

超能力者は孤独がゆえに その2

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「なんだ……超能力者達は誰かを好きになると皆こうなるって言いたいのか?」

 俺は震える声のまま目の前に座る超能力者達に訪ねた。

 きっとこの資料はレアケースな物だけ集めたに違いない、詐欺師達が一番最初に脅しの言葉を入れるのと一緒、普通の場合はきっとこんなにひどくはならないんだろう。

 俺はそんな言葉を一つ一つ自分の心に言い聞かせていた。
 しかし、それは現実を受け入れられない俺が作りだした何の力も無い言葉で……目の前に立ちはだかる現実は辛く深刻なものであった。
 
 「残念ながらこうなっちまう方が普通だ。まともな人間性を保ったままでいられる超能力者は俺達みたいに同じ超能力者でつるんでる連中か、身近な所によっぽど性格の良いお人好しが居る天文学的に運が良い奴ぐらいだ」

 「……超能力者は根本的に普通の人間とは違うのです。自分を取り巻く環境を簡単に破壊出来てしまう力を持てば社会的行動をするのが馬鹿らしく感じる。自分が持つ超能力由来の悩み事は身近な人間に相談しても解決の兆しが見えることはまずない……超能力者はこの世に生を受けてからずっと、そんな孤独と付き合いながら生きているのです」

 氷雨の髪の毛がグラっと揺れる。
 彼女は半ば無意識に、何かに祈るように両手を組みながら目の前のショートケーキをボゥっと眺める。
 
 「だから心から愛してやまない大切な存在が出来た時に不安になるのです。時間が経つにつれて自分と言う存在は拒絶されるんじゃないかって、普通の人間と超能力者の間にある溝は埋まらないんじゃないのかって……自然とそう思ってしまうのです」

 「それで愛してる人間を無理やり超能力者にしてるとでも……それも爪とか血なんかを飲ませて」

 「そうなのですよ。愛する相手が自分と同じ境遇になってくれる、これ以上に孤独を打ち消してくれるものは無いのですから」

 そう語る彼女の顔は穏やかな笑顔でありながら何処か疲れ切っている印象を受ける。
 ひどく虚ろな彼女の視線は『お兄さんの彼女もそうなんでしょ?』と訴えかけている。

 そう言えば、ファナエルは最初のデートの時に……

 『‥‥‥もし誰かと友達や恋人になって、そういう関係になったからこそ見える私の一面を見た友達や恋人が私の事を拒絶するかもしれない‥‥‥そんな怖い考えが頭の片隅から離れないんだ』

 『ねぇアキラ……この後何が起こっても私の事を見捨てない?』
 
 『だから私は考えたの。この斧で切った私の髪の毛をアキラに食べて貰えれば何よりも強固な愛の誓いになるんじゃないかって』

 確かに……こう言っていた。
 それじゃぁファナエルは氷雨たちの言う通り超能力者なのか?

 「その顔、なんか引っかかることがあるんだろ」
 「ッ……何もない」

 思わず雄二ゆうじの言葉を否定する。
 何もかもがいきなりの事で頭がパニックになる中、無意識に浮んで来たのは「ファナエルをこいつらから遠ざけないと」という気持ちだけだった。

 「アンタ達の言いたいことは分かった。でも、きっとファナエルは無関係だ。だって俺に起こってる異変は頭痛だけ、この人達みたいに体が変な形になったりしてないし、それにー」

 「……悪いがお前の彼女は完全に黒だ。こんなもんでお前の身体に起こる変化をコントロールしてんだからな」

 次の瞬間、ビュンとテクノチックな音が鳴り響く。
 目の前に座っていた雄二ゆうじの手に俺の口の中にあったはずの黒いガムが絡みついている。

 『瞬間移動をうまく使えばこんなもんお手の物だ。ばっちいけど』
 『お兄さんには私の二のてつは踏ませないのです』
 『あの時俺がもっと氷雨を見ていたら、氷雨はこんな姿にならずまともな生活を送れたはずなんだ。だから今度は何が何でも俺がこいつの願いを叶える』
 『たとえお兄さんとファナエルさんが互いに納得していたとしても、何処かでそれを後悔するタイミングやってくるのです』

 「あ、アァァァァァァ!!!!い、痛い」

 ガムを口から引き抜かれたその瞬間、頭に二人の心の声であろうものが響き渡ってくる。
 何度も、何度も、何度も、何度も、まともな思考なんてできないぐらいに。

 「ッ、症状が思ってたより進行してやがる。このままだと体に異変が起こりかねないぞ」
 「雄二ゆうじ、場所を変えるのです。準備を!!」

 二人の大声が頭に響く。
 なんか変な感じだ……腕まで痛くなってきた。
 
 いや、痛いのか?くすぐったい感じもする???

 意味不明な感覚に襲われながらも、俺は視線をスライドさせて違和感を覚えた自分の右腕を見る。
 ……その右腕からは明らかに俺の物ではない銀色の髪が何かの植物のようにニョキニョキと生えていた。

 その髪の毛はグルグル、ギュルギュルと動き回っている。
 本数を一つ、また一つと増やしていきながら何かの形を作ってゆく。

 「に……げ……て……って書いてあんのか。この髪の毛は何を使えようとして」

 ガンガンと痛みが響く状況でその答えを見出そうとしたその瞬間の事だった。

 『コンナトコロ、イタ。ハネナシ、ミツケタ。ハネナシ、ミツケタ!!』

 誰かの心の声とはまた違う、耳障りな音が聞こえてくる。
 ふらりと窓の方を見ると、そこにはいつぞやに出会った鳥頭の怪異が立っている。

 その怪異は何故か俺の事をジィっと見つめながら『ハネナシ、ミツケタ』と嬉しそうな声を上げていた。
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