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2章 ファナエル=???
幸せと夢と彼女
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眠った後に現れる何故か安心する場所。
俺はファナエルと付き合い始めてから何度も同じ夢を見るようになった。
その夢の中で俺はやけに湿っているピンク色の地面に寝転がっている。
さらに身体を銀色の長い髪の毛に束縛されているのだ。
束縛と言ってもこれと言って苦しいものではなく、むしろ銀色の髪の毛達は俺を愛でるようにスリスリと音を立てながら優しくゆっくり動くのだ。
髪の毛からはファナエルを連想させる匂いが漂ってきて、俺はそれを嗅ぐたび彼女に抱きしめられている妄想に陥る。
夢の中であるのに妄想をするとはおかしな話ではあるが、その髪の毛をファナエル本人であると妄想せずにはいられないのだ。
『ネェ……タベテ』
時よりそんな声が響くことがある。
この声が響くと髪の毛達が白いクッキーをどこからか取り出して俺の口元に近づけてくるのだ。
『ダイジョウブ……イマナラ……マエヨリ……タベラレルカラ』
お決まりのその言葉を聞いた後、俺は持ち寄られた白いクッキーを口に含む。
この夢の中で唯一変化があるのは、俺が食べるクッキーの量がだんだん多くなってくることぐらいだ。
最初は一口かじっただけで吐き気に襲われていたというのに、今ではなんの障害も無く半分食べることが出来るようになった。
「なぁ、この夢の中で俺がクッキーを完食できる日が来たらその時にはお祝いとかしてくれるのか?」
と、髪の毛に向かって呟く時……決まって俺は目を覚ます。
◇
「ッハ?!えっと数学の授業は?!」
視界に入った黒板の数式を見て自分が数学の授業中に爆睡してしまったことを思い出した。
先生が教壇に立っていないことを奇妙に感じていると、銀髪緑眼の整った顔の彼女が俺の顔を覗き込んできた。
「もう終わっちゃったよ。あの先生から寝てるアキラを隠すのは怖いし大変だったんだからね」
困った顔で笑う俺の彼女、ファナエル・ユピテルは軽く俺の肩を揺らして「まだ眠い?」と語りかけてくれた。
「いや……もう大丈夫。ごめんな、迷惑かけたみたいで」
「気にしてないから大丈夫。それより次は移動教室だよ」
彼女はそう言って教室のカギを揺らしながら俺に見せてきた。
どうやら最後に教室の出るのは俺達みたいだ。
机の中から教科書とノートを取り出し、二人で歩みをそろえながら教室のカギを閉める。
彼女と付き合い始めてからというもの、学校での行動はずっとファナエルと一緒だ。
この言葉はただの比喩表現という訳ではなく、本当にずっと一緒なのだ。
こうした移動や休み時間はもちろんの事、彼女が先生に行った交渉により移動教室先の席でも体育の時のペアでも彼女と一緒であるのだ。
離れているときはトイレとか着替えの時とか絶対男女で一緒に居たらいけない時ぐらいなもので、彼女のこの行動はまた学校中に変な噂が流れる切っ掛けになった。
始は俺がファナエルと付き合たことを鬱陶しいぐらい祝福してくれたが、他のクラスメイトの反応は少し違ったもので『ゲロクッキー告白が終わった後は先生脅してるし……お前もあんな重い子と付き合う事になって大変だな』と同情される始末だった。
でも……俺は結構この状況を気に入っている。
もし、ファナエルが別の男と二人組の班になって仲良くしているのを見てしまったら……俺はきっと耐えられないだろうから。
クラスメイトの皆が思っている以上に、俺の恋心は重くてドロドロしているのかもしれないな。
「ねぇアキラ。どんな夢を見てたの?」
「夢?」
「さっきの授業でなんかいい夢見てたんでしょ?幸せそうな顔して寝言までー」
「え、ちょ、ちょっと待って。俺寝言でなんて言ってたんだ?変な事とか言ってなかった?」
「フフフ、内緒だよ。何となく夢の内容が予測できる事は言ってたけどね」
彼女のその言葉を聞いて俺はうなだれる。
……俺がどんな寝言を言ったのか分からないが、あんな夢を見ていたことがばれて彼女にドン引きされていないだろうか、失望されていないだろうか。
頭の中で次から次へと溢れ出てくるネガティブな言葉の滝を断ち切ったのは、隣に立つファナエルの言葉だった。
「でも、私はアキラの口から聞きたいな」
彼女は右耳のあたりにある不自然に切れた自分の髪をいじる。
この仕草は『大丈夫、見捨てないよ』と伝えるサインであり、俺が愛の誓いを遂げたことを再認識するサインでもある。
「本当に変な夢なんだ……ファナエルの髪の毛が俺の身体に抱きつく夢」
「素敵な夢だね。特に抱きつくって表現が素敵で大好き」
コトン、と傾けた顔を俺の肩に乗せるファナエル。
瞬間、彼女の匂いが俺の鼻孔をくすぐった。
「私は幸せだよ、夢の中でも私を思ってくれる彼氏がいるから」
「俺も、ファナエルが彼女になってから毎日幸せだよ」
彼女と付き合い始めてからの日々は、今までの人生が何だったのかと思えるぐらいに楽しいものだった。
変な夢を見るようになったとか、ファナエルが鳥頭の化け物と何らかの因縁があるとか、不安なことが一切ない訳ではないが……そんな不安も俺と彼女を繋げる架け橋になっているような気がしてかえって愛おしい。
「もしかしたら今夜もおんなじ夢を見るかもな」
「アキラは嬉しい事言ってくれるね~。お礼に明日は美味しいお菓子でも作ってあげようかな?」
彼女はそう言ってポケットから取り出した黒いガムを口の中に放り投げる。
二人で笑みを浮かべながら廊下を歩いていくその最中、俺はひっそり『この幸せが永遠に続けばいいな』と願うのだった。
俺はファナエルと付き合い始めてから何度も同じ夢を見るようになった。
その夢の中で俺はやけに湿っているピンク色の地面に寝転がっている。
さらに身体を銀色の長い髪の毛に束縛されているのだ。
束縛と言ってもこれと言って苦しいものではなく、むしろ銀色の髪の毛達は俺を愛でるようにスリスリと音を立てながら優しくゆっくり動くのだ。
髪の毛からはファナエルを連想させる匂いが漂ってきて、俺はそれを嗅ぐたび彼女に抱きしめられている妄想に陥る。
夢の中であるのに妄想をするとはおかしな話ではあるが、その髪の毛をファナエル本人であると妄想せずにはいられないのだ。
『ネェ……タベテ』
時よりそんな声が響くことがある。
この声が響くと髪の毛達が白いクッキーをどこからか取り出して俺の口元に近づけてくるのだ。
『ダイジョウブ……イマナラ……マエヨリ……タベラレルカラ』
お決まりのその言葉を聞いた後、俺は持ち寄られた白いクッキーを口に含む。
この夢の中で唯一変化があるのは、俺が食べるクッキーの量がだんだん多くなってくることぐらいだ。
最初は一口かじっただけで吐き気に襲われていたというのに、今ではなんの障害も無く半分食べることが出来るようになった。
「なぁ、この夢の中で俺がクッキーを完食できる日が来たらその時にはお祝いとかしてくれるのか?」
と、髪の毛に向かって呟く時……決まって俺は目を覚ます。
◇
「ッハ?!えっと数学の授業は?!」
視界に入った黒板の数式を見て自分が数学の授業中に爆睡してしまったことを思い出した。
先生が教壇に立っていないことを奇妙に感じていると、銀髪緑眼の整った顔の彼女が俺の顔を覗き込んできた。
「もう終わっちゃったよ。あの先生から寝てるアキラを隠すのは怖いし大変だったんだからね」
困った顔で笑う俺の彼女、ファナエル・ユピテルは軽く俺の肩を揺らして「まだ眠い?」と語りかけてくれた。
「いや……もう大丈夫。ごめんな、迷惑かけたみたいで」
「気にしてないから大丈夫。それより次は移動教室だよ」
彼女はそう言って教室のカギを揺らしながら俺に見せてきた。
どうやら最後に教室の出るのは俺達みたいだ。
机の中から教科書とノートを取り出し、二人で歩みをそろえながら教室のカギを閉める。
彼女と付き合い始めてからというもの、学校での行動はずっとファナエルと一緒だ。
この言葉はただの比喩表現という訳ではなく、本当にずっと一緒なのだ。
こうした移動や休み時間はもちろんの事、彼女が先生に行った交渉により移動教室先の席でも体育の時のペアでも彼女と一緒であるのだ。
離れているときはトイレとか着替えの時とか絶対男女で一緒に居たらいけない時ぐらいなもので、彼女のこの行動はまた学校中に変な噂が流れる切っ掛けになった。
始は俺がファナエルと付き合たことを鬱陶しいぐらい祝福してくれたが、他のクラスメイトの反応は少し違ったもので『ゲロクッキー告白が終わった後は先生脅してるし……お前もあんな重い子と付き合う事になって大変だな』と同情される始末だった。
でも……俺は結構この状況を気に入っている。
もし、ファナエルが別の男と二人組の班になって仲良くしているのを見てしまったら……俺はきっと耐えられないだろうから。
クラスメイトの皆が思っている以上に、俺の恋心は重くてドロドロしているのかもしれないな。
「ねぇアキラ。どんな夢を見てたの?」
「夢?」
「さっきの授業でなんかいい夢見てたんでしょ?幸せそうな顔して寝言までー」
「え、ちょ、ちょっと待って。俺寝言でなんて言ってたんだ?変な事とか言ってなかった?」
「フフフ、内緒だよ。何となく夢の内容が予測できる事は言ってたけどね」
彼女のその言葉を聞いて俺はうなだれる。
……俺がどんな寝言を言ったのか分からないが、あんな夢を見ていたことがばれて彼女にドン引きされていないだろうか、失望されていないだろうか。
頭の中で次から次へと溢れ出てくるネガティブな言葉の滝を断ち切ったのは、隣に立つファナエルの言葉だった。
「でも、私はアキラの口から聞きたいな」
彼女は右耳のあたりにある不自然に切れた自分の髪をいじる。
この仕草は『大丈夫、見捨てないよ』と伝えるサインであり、俺が愛の誓いを遂げたことを再認識するサインでもある。
「本当に変な夢なんだ……ファナエルの髪の毛が俺の身体に抱きつく夢」
「素敵な夢だね。特に抱きつくって表現が素敵で大好き」
コトン、と傾けた顔を俺の肩に乗せるファナエル。
瞬間、彼女の匂いが俺の鼻孔をくすぐった。
「私は幸せだよ、夢の中でも私を思ってくれる彼氏がいるから」
「俺も、ファナエルが彼女になってから毎日幸せだよ」
彼女と付き合い始めてからの日々は、今までの人生が何だったのかと思えるぐらいに楽しいものだった。
変な夢を見るようになったとか、ファナエルが鳥頭の化け物と何らかの因縁があるとか、不安なことが一切ない訳ではないが……そんな不安も俺と彼女を繋げる架け橋になっているような気がしてかえって愛おしい。
「もしかしたら今夜もおんなじ夢を見るかもな」
「アキラは嬉しい事言ってくれるね~。お礼に明日は美味しいお菓子でも作ってあげようかな?」
彼女はそう言ってポケットから取り出した黒いガムを口の中に放り投げる。
二人で笑みを浮かべながら廊下を歩いていくその最中、俺はひっそり『この幸せが永遠に続けばいいな』と願うのだった。
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