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1章 出会い
【ファナエルSIDE】 早く叶ってほしい幻想
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「あの時のアキラの顔、緊張してて可愛かったな。人間の照れ顔を見たのなんて何年ぶりだろ、30年ぶりかな?」
アキラからの告白を受けて3時間ぐらいが経った頃。
家に帰った私は冷蔵庫の中で寝かせていたクッキーの生地を鼻歌交じりに取り出している。
「勇者となる人間は我々を見ても態度を変えぬ無礼者である……初めて聞いたときは何言ってるんだって思ってたけど、案外間違ってない格言なのかもね」
生地をこねて伸ばし、丸い形にくりぬく。
いつもは無心でクッキーを作っているのに、今の私の心はどこか浮かれている。
叶いもしない幻想に身をゆだねて行動を起こすのは滑稽極まりないことだって事を、私はよく知っている。
行動を繰り返せば繰り返すほど現実にならない私の理想、幻想に何度も打ちのめされて他人に希望を持つこともしばらく忘れてしまうほどに。
けれど、今の私はアキラに大きな期待を寄せているのだ。
いつか彼が私に告白して……私と同じ存在になってくれることを受け入れてくれる幻想を。
私の恋人になってくれる人間なんて誰でも良かったはずなのに。
あのクッキーを食べて起こる体の変化に適応できる人間だったら誰でも良かったはずなのに。
「できればアキラが私の恋人になってくれたら……フフ、こんなことを思う日が来るなんて思いもしなかったな」
私は形を整えたクッキーをバットに移し、廊下を少し歩いた先にある隠し扉をゆっくりと開ける。
キッチンにあるのとは違う2つ目のオーブンがある秘密の調理場に続く地下への階段を、私はゆっくり、ゆっくりと歩いて行った。
カツン、カツンと音が響く階段の中で考えていたのは相変わらずアキラの事ばかり。
アキラが告白しに来た時に聞こえてきた、彼の心の声の事ばかり。
『私に拒絶されるのが怖い』と考えていた彼の事について考えていた。
「間違いない……アキラはきっと私の理解者になってくれる」
きっと私が今までして来たことも、私がアキラにしようとしてることも理解してくれる。
『ねぇお願い、私の助けになりたいって言うのなら……私の為になることをしてあげたいって言うなら受け入れてよ!!』
『ファナエル……きっと今の君は狂ってしまったんだ。大丈夫、父さん達も皆も君の味方だ……だからその物騒な刃物をしまっておくれ』
『痛くなるかもしれないから怖いの?大丈夫、そんなに痛くないよ。自分の体で試したんだから間違いないよ』
『ああ、なんてこと。誰か早くこの子を助けて!!』
100年前のあの日とはきっと違う結末を、アキラと一緒なら迎えられる気がする。
「今は焦らず、ゆっくりゆっくりアキラの身体を変えていこう」
地下のキッチンにたどり着いた私は、机の上にクッキーの生地が入っているバットを置く。
そして、近くに置いてあった私の赤い血液が入った瓶を取り出してクッキーの生地へかけてゆく。
人間の血は時間が経つと黒くなるらしい、まるで私とは真反対。
自分の血がかかったクッキーを地下のオーブンに入れながら私は願う。
私の理解者になりえるアキラが早く私と同じ存在になってくれますようにと。
『ハネナシ、ドコダ。ハネナシ、ドコダ!!』
楽しい妄想をしている私の頭の中で、鬱陶しい声がこだまする。
諦めもせずまだ私を追ってるんだ……まったくめんどくさい。
「厄介な追手も近くまで来てるみたいだし、これからアキラに集中するためにも少し身を潜めないといけないかな?」
私は呑気にそんな言葉を口にしながら、地下室に隠していた黒いガムを取り出すのだった。
アキラからの告白を受けて3時間ぐらいが経った頃。
家に帰った私は冷蔵庫の中で寝かせていたクッキーの生地を鼻歌交じりに取り出している。
「勇者となる人間は我々を見ても態度を変えぬ無礼者である……初めて聞いたときは何言ってるんだって思ってたけど、案外間違ってない格言なのかもね」
生地をこねて伸ばし、丸い形にくりぬく。
いつもは無心でクッキーを作っているのに、今の私の心はどこか浮かれている。
叶いもしない幻想に身をゆだねて行動を起こすのは滑稽極まりないことだって事を、私はよく知っている。
行動を繰り返せば繰り返すほど現実にならない私の理想、幻想に何度も打ちのめされて他人に希望を持つこともしばらく忘れてしまうほどに。
けれど、今の私はアキラに大きな期待を寄せているのだ。
いつか彼が私に告白して……私と同じ存在になってくれることを受け入れてくれる幻想を。
私の恋人になってくれる人間なんて誰でも良かったはずなのに。
あのクッキーを食べて起こる体の変化に適応できる人間だったら誰でも良かったはずなのに。
「できればアキラが私の恋人になってくれたら……フフ、こんなことを思う日が来るなんて思いもしなかったな」
私は形を整えたクッキーをバットに移し、廊下を少し歩いた先にある隠し扉をゆっくりと開ける。
キッチンにあるのとは違う2つ目のオーブンがある秘密の調理場に続く地下への階段を、私はゆっくり、ゆっくりと歩いて行った。
カツン、カツンと音が響く階段の中で考えていたのは相変わらずアキラの事ばかり。
アキラが告白しに来た時に聞こえてきた、彼の心の声の事ばかり。
『私に拒絶されるのが怖い』と考えていた彼の事について考えていた。
「間違いない……アキラはきっと私の理解者になってくれる」
きっと私が今までして来たことも、私がアキラにしようとしてることも理解してくれる。
『ねぇお願い、私の助けになりたいって言うのなら……私の為になることをしてあげたいって言うなら受け入れてよ!!』
『ファナエル……きっと今の君は狂ってしまったんだ。大丈夫、父さん達も皆も君の味方だ……だからその物騒な刃物をしまっておくれ』
『痛くなるかもしれないから怖いの?大丈夫、そんなに痛くないよ。自分の体で試したんだから間違いないよ』
『ああ、なんてこと。誰か早くこの子を助けて!!』
100年前のあの日とはきっと違う結末を、アキラと一緒なら迎えられる気がする。
「今は焦らず、ゆっくりゆっくりアキラの身体を変えていこう」
地下のキッチンにたどり着いた私は、机の上にクッキーの生地が入っているバットを置く。
そして、近くに置いてあった私の赤い血液が入った瓶を取り出してクッキーの生地へかけてゆく。
人間の血は時間が経つと黒くなるらしい、まるで私とは真反対。
自分の血がかかったクッキーを地下のオーブンに入れながら私は願う。
私の理解者になりえるアキラが早く私と同じ存在になってくれますようにと。
『ハネナシ、ドコダ。ハネナシ、ドコダ!!』
楽しい妄想をしている私の頭の中で、鬱陶しい声がこだまする。
諦めもせずまだ私を追ってるんだ……まったくめんどくさい。
「厄介な追手も近くまで来てるみたいだし、これからアキラに集中するためにも少し身を潜めないといけないかな?」
私は呑気にそんな言葉を口にしながら、地下室に隠していた黒いガムを取り出すのだった。
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