✳︎✳︎…Dust BOX…✳︎✳︎

ナナナ

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2-1


「SV、バツ1の31歳とLineしません?」
大きな目をくりくりさせて、まゆみは言う。


長い髪は後ろで編み込み。
目の下にはピンクのアイシャドウ 。
まゆみは、流行りのメイクを自分に落とし込むのが上手だ。

オレンジリップの口元を少しだけ上げて微笑む。


「趣味は釣りでー真面目で優しい人ですよ。
いい人なんですけど、奥さん浮気して出て行っちゃったみたいで。

気軽にLineから初めてみません?」


なぎさは苦笑いをした。

「うーーん。年下かぁ。
しかも、一度人生の大きなご決断もされて…
大先輩だなぁ。

こんなアラサーギリギリの彼氏いない歴14年。

お相手も嫌だと思う」



「SVは考えすぎなんですよー。
見た目も全然若いし。34になんて見えないですよ。

旦那の職場の先輩なんですけど、
めちゃくちゃ良い方で‼︎

でも、その方も奥手だから‼︎

奥手同士SVと気が合うんじゃないかなぁー…と思って」

まゆみはミートボールを頬張りながら言う。


「なんだかねー…
30になる前に友達が紹介してくれた男性も何人かいたんだけど…


結局、続かなくって…

もともとプライベートの男の人が少ないLINEのアカウントに
顔も知らない男性の名前が増えていくことが
ちょっと情けなくなっちゃって…



それに、わたし。


もともと結婚願望ないから。
まゆちゃん、ありがとね。」


なぎさは、そう言って弁当箱の蓋を閉じた。


とうとう10も年下の女の子に心配されるようになってしまった。
周囲に気を使わせてしまうお荷物のようになってしまったような、申し訳ない気持ちになった。



「分かりました!
でも、気が変わったら言ってくださいね。
いつでも連絡とりますから。」


控えめに微笑むまゆみを見て、
人間関係の良好さに感謝した。












2-2


海沿いの工場地帯になぎさの勤める会社はある。

グレーの飾り気ない建物に、
地味な制服と背広姿のおじ(い)さん達。


そこは、地元スーパーの本部で
日々の販促や店舗管理をなぎさは任されていた。



入社当時は、気持ちまで曇ってしまう
この景色があまり好きではなかったが、
高校を卒業してからすぐに入ったこの会社で
仕事を覚えていくうち、だんだんと好きになっていった。


部署移動で店舗に勤務したり
人手不足で経理や事務、
折り込みチラシのデザインを全て行ったりして
気づけば34歳。

14年が経とうとしていた。


高卒では初となるSVに抜擢されてから
今年で5年目だ。


「まゆちゃん、来週末のイベント、SNSの反応どう?」


「アクセス数大分増えましたー!
昨日、インスタのストーリーと連携したのが聞いたかももです!」


まゆみの言葉に、
なぎさもインスタをタップする。



「わー‼︎かわいい!
壱山店の高橋店長のところだよね?
ディスプレイ上手になったね!
写真も!前は手ブレ凄かったのに笑

まゆちゃんの加工の感じもいいし、
リンクも飛びやすい。
これは来ちゃうね。うちの時代‼︎

休憩まだあるし、タバコ吸いがてら高橋店長にもLineしてみる。」











売れしそうに笑うまゆみと別れ
なぎさは屋上へと向かった。


グレーの階段を上り重たいドアを開くと
真上にある太陽とキラキラ光る海に照らされた。

海岸沿いにはテトラポッドが並んでいて
そこにいる釣り人達が時折
竿を上げて投げなおしている。



ベストの小さなポケットから出したタバコに火をつけるとフゥーと息を吐いた。



ズクン。忘れていた下腹部の痛みに加え胃痛までしてきた。



水無しで飲める胃薬と鎮痛剤を反対のポケットから取り出した。



「今日は事務作業だけだから。」
そう呟いた。


この年になって思うことは耐えることが上手くなった。
たまには子供のように大泣きして無理だと
布団に包まって嵐が過ぎ去る時を待ちたいこともあったが

その気持ちを周りに悟られてしまうと
周りは安心して自分に頼ることが出来ない。
自分が頼れるのは泣き言を言えるのは自分だけだ。


そうして積み重なってできた信頼関係が
今までの自分に対しても何よりの努力の証のように感じる時もある。

それぞれたくさんの 人達がぶつかって傷付いたりして、出会って出来上がった今の組織がなぎさは大好きだ。



選んできたことに間違いはないと信じている。


ただ、年と共に変わってくることに不安を覚える。
特にこんな日は、自分の身体がかわいそうになる。

結婚して子供を産むことを当然のように
自分の身体は毎月準備をしているのに
当然のようにその可能性を拒み続ける。


目の前のワクワクとドキドキの好奇心が未だ捨てきれずにいるのだ。


34歳を迎えてそれを迷っていた。


きっと今朝の夢もその影響だろう。


iPhoneをタップして壱山店に電話をかけた。


きっと高橋さんも、そんな不安と好奇心の中で
夢中で売り場を作っているのだろうと
その努力もなぎさは知っていた。
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