出会い系アプリの無い異世界は退屈すぎるので、俺が作ります!

ラケット

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第2章 傷と愛に走る

第11話 幸せの見返り

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 さて、時は前日に遡る。

 まだカインが酒場でうなだれている頃である。
 リヒトは単身、売春宿“マーメイド・ドリーム”にやって来ていた。

「こんちはー、ドリドのおっさんいる?」
「おーうリヒトじゃねえか。久しぶりだな、今日はどうした」

 今やここにいる娼婦の半数以上が、営業のためにラヴクエを使っている。
 それに釣られるようにして、男性会員の課金も増えた。
 マーメイド・ドリームはリヒトからすれば言わば“お得意様”であった。

「ここに火傷の痕があるヤツいるだろ。確か最初に登録した娘だったような……」
「いるぜ、パールのことだろ」
「そうそう思い出した。確か“ぱ”って名前で登録してたはずだ」
「おかげさまでアイツも多少利益上げててよ。本当、ラヴクエ様には頭上がらねえな! あ、ケムリ吸う?」
「じゃあ一本もらおうかな」

 リヒトはタバコを受け取ると、近くに灯っていたランプの火を移して吸ってみた。

「うッ……コホッ、おえッ」

 肺への刺激と臭気が想像より強かったので、リヒトは思いっきりむせた。
 ドリドはその様子を見て「がははは」と笑っている。

「おめえにゃまだ早かったか!」
「ゴホッ……これ、普通のケムリそうじゃねえだろ」
「よく分かったな。”マリーリーフ”って言ってよ、闇ギルドから仕入れた上物だぜ?」
「ったく変なもん吸わせんじゃねえよ……」

 リヒトは灰皿に火を押し付けて消した。

「んで、本題なんだが。パールはどういう事情でここで働いてんだ? 借金か?」
「まぁーそうだな」
「元金はあとどのくらい残ってる? 額によっては俺が全額返済してやるぜ」

 ドリドはタバコを置き、リヒトを睨んだ。
 そして近くに人がいないのを確認すると、顔を近づけて小声で答えた。

「実はもう、返済はとっくに終わってる」
「……そんなことだろうと思ったよ」
「アイツは薄給で働く上に、雑用も手慣れてるからな。色々と都合が良いんだよ……まあおめえさんが引き抜きたいってんなら良いぜ、代わりはたくさんいるし」

(ほぼ奴隷じゃねえか)

 リヒトは心でそう毒づきながら、財布から金貨を取り出した。

「んじゃ手切れ金ってことで、金貨8枚でどうだ?」
「ふーん……おめえには世話になってる。金貨4枚で良いさ」
「ありがとう。じゃあこれで、パールちゃんの借金はチャラってことで」

***

 そんなことがあった翌日。
 知らぬ間に借金の消えたパールとカインは、無事結ばれたのであった。

「おーっすリヒト」

 つい先日までうなだれていたカインは、今日はもうすっかり元気になっていた。

「聞いてくれよリヒト、俺ちゃんとした彼女出来たんだよ!」
「へー良かったな」
「なんだよその返事……もうちょい驚けよ」

 リヒトはいつもそうだ。
 どんなことが起きても、まるで最初から全部知っていたかのような反応をする。
 いや、もしかしたら本当に全て知っていたのかもしれないと、カインは直感した。

「リヒト……。やっぱりお前なのか?」
「何が」
「だからその……お前がパールちゃんの借金を……いや、やっぱやめとこ。どうせ聞いても答えないんだろ」

 リヒトは返事をせず、半笑いのまま手元の資料をペラペラとめくっている。
 カインは言葉を続けた。

「俺、自分の人生変えたくてさ」
「……ほう?」
「今までは女遊びばっかりで、定職も持たずにフラフラしてた。けど、やっとちゃんとした彼女ができたんだ。これを機にちゃんとした仕事について──」
「ウチで働くか?」

 カインの言葉を遮って、リヒトは言った。

「……あ? いや違う違う、俺はただ人を紹介してくれねえかな、なんて……ほら、リヒトは顔広そうだし」
「じゃあ言い方変えるわ。ウチで働けよ、カイン」

 ニヤリと笑うリヒトを見てカインは確信した。
 パールの借金を片付けて売春宿を辞めさせたのは、この男であると。
 それは同時に、自分には立場上、拒否権が無いということでもある。

「おう、リヒトがそう言うなら……でも何の仕事を? 俺はカジノのバイトぐらいしかまともにやったこと無いぜ?」
「カイン、お前は今日からウチの”モテ講師”だ」
「講師だぁ? 教えられる事なんて何も……」
「大丈夫大丈夫。お前はモテるからな。それに、俺がこれからみっちり仕込んでやるさ」

 リヒトはより一層口の端を歪ませ、とても不気味に笑った。

(第二章 完)
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