出会い系アプリの無い異世界は退屈すぎるので、俺が作ります!

ラケット

文字の大きさ
上 下
10 / 12
第2章 傷と愛に走る

第9話 忘れられない人

しおりを挟む
 とある昼下がり。
 大衆酒場”ビッグハット亭”にて。

「はぁ~……」

 ため息をつく男の名はカイン。
 オレンジ色の髪が、今日は心なしかくすんでいるように見えた。

 “ぱ”というニックネームの少女と熱い夜を過ごしたのが昨晩。
 今朝目覚めた時には、隣に彼女の姿は無かった。

(名前だけでも知りたかったな……)

「カインさん、今日ずっとあんな感じッスねえ~」

 机に肘をついてぼんやりと宙を見つめるカインを、ウリルは心配そうに見た。

「ねぇねぇ~リヒトのアニキってばぁ」
「大丈夫だって。心配すんな」
「……というと?」
「カインはウチの上客だ。そう簡単に見捨てたりはしねえよ」

 カインは既に充分、ラヴクエの売上に貢献している。
 そろそろラヴクエを卒業して幸せになっても良い頃だと、リヒトは考えていた。

「……というと?」
「これ以上は教えらんねえなぁ」
「えーッ!? もったいぶらないでくださいッスよ! あっ、まさかネズ──」
「さっさと配達行けって」

 ダダをこねるウリルを黙らせておいて、リヒトは酒場の裏口へ向かった。
 目立たない裏口を出ると、酒場から出たゴミや予備の資材が乱雑に積んで置いてある。

「……ネズミ、いるか?」

 リヒトがそう呼んだ途端、ローブをまとった人影がすぐ傍にすっ飛んできた。
 フードを深くかぶり、口元には布を巻きつけて顔を隠している。
 性別も年齢も分からないが、体格はとても小柄である。

「ひとつ調べて欲しいことがあるんだが──」
「……了解」

 リヒトが耳打ちすると、ネズミと呼ばれた影は頷き、素早い動きで走り去った。

***

 数日後。
 カインはまだあの調子だった。

 ここ数日、カインはラヴクエの掲示板を毎日チェックしているが、”ぱ”と同一人物だと思わしきクエストは無い。
 悩む自分が気に入らなくて、カインはかぶりを振った。

(ったく、俺らしくねえぜ。女一人と連絡取れなくなったぐらいで……。さてと、次の女でも探してパーッと楽しみますか)

 複雑な気持ちのまま掲示板を見るが、やはり“ぱ”のことが気になって内容が頭に入ってこない。
 そのとき、後ろの方でガヤガヤ喋っていた客たちの会話が耳に飛び込んできた。

「まあまあ良かったぜ? 頬に火傷痕があるのがちょいとキズだがな」

(頬に火傷……?)

 カインは瞬時に振り返ると、酒を飲んでいた男たちの一団に突っ込んだ。

「おいアンタ! その娘について教えてくれねえか!?」
「な、何だよいきなり?」

 突然現れたカインに、男たちは若干引き気味であった。

「だからさっき言ってた、火傷跡の女の話さ!」
「あ、あぁー売春宿の娼婦だよ。興味あるのか?」
「売春宿だって……?」

 カインは耳を疑った。

「どんな女だった!? 他に特徴は?」
「えーっと髪は紺色で──」

(間違いない)

 カインは確信した。
 と同時に、ある違和感を覚えた。

 娼婦がラヴクエを使っている場合、それはほぼ100%の確率で新規顧客を見つけるため、つまりは営業なのだ。
 だがカインは彼女から営業を受けた覚えなど無いし、そもそも名前も、連絡先すら交換していないのだ。
 それでは利益に繋がらない。

(普通の娼婦とは何かが違う。ひょっとして、あの娘は俺に惚れ……いや、期待しすぎか)

「で、どこの売春宿だ?」
「東区6番街の“マーメイド・ドリーム”ってとこだが」
「ありがとう!」

 カインはものすごい勢いで酒場を飛び出していった。

「何か元気出たみたいで、良かったッスね~」

 ウリルは、メッセージを客たちに渡しながら呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...