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第2章 傷と愛に走る
第9話 忘れられない人
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とある昼下がり。
大衆酒場”ビッグハット亭”にて。
「はぁ~……」
ため息をつく男の名はカイン。
オレンジ色の髪が、今日は心なしかくすんでいるように見えた。
“ぱ”というニックネームの少女と熱い夜を過ごしたのが昨晩。
今朝目覚めた時には、隣に彼女の姿は無かった。
(名前だけでも知りたかったな……)
「カインさん、今日ずっとあんな感じッスねえ~」
机に肘をついてぼんやりと宙を見つめるカインを、ウリルは心配そうに見た。
「ねぇねぇ~リヒトのアニキってばぁ」
「大丈夫だって。心配すんな」
「……というと?」
「カインはウチの上客だ。そう簡単に見捨てたりはしねえよ」
カインは既に充分、ラヴクエの売上に貢献している。
そろそろラヴクエを卒業して幸せになっても良い頃だと、リヒトは考えていた。
「……というと?」
「これ以上は教えらんねえなぁ」
「えーッ!? もったいぶらないでくださいッスよ! あっ、まさかネズ──」
「さっさと配達行けって」
ダダをこねるウリルを黙らせておいて、リヒトは酒場の裏口へ向かった。
目立たない裏口を出ると、酒場から出たゴミや予備の資材が乱雑に積んで置いてある。
「……ネズミ、いるか?」
リヒトがそう呼んだ途端、ローブをまとった人影がすぐ傍にすっ飛んできた。
フードを深くかぶり、口元には布を巻きつけて顔を隠している。
性別も年齢も分からないが、体格はとても小柄である。
「ひとつ調べて欲しいことがあるんだが──」
「……了解」
リヒトが耳打ちすると、ネズミと呼ばれた影は頷き、素早い動きで走り去った。
***
数日後。
カインはまだあの調子だった。
ここ数日、カインはラヴクエの掲示板を毎日チェックしているが、”ぱ”と同一人物だと思わしきクエストは無い。
悩む自分が気に入らなくて、カインはかぶりを振った。
(ったく、俺らしくねえぜ。女一人と連絡取れなくなったぐらいで……。さてと、次の女でも探してパーッと楽しみますか)
複雑な気持ちのまま掲示板を見るが、やはり“ぱ”のことが気になって内容が頭に入ってこない。
そのとき、後ろの方でガヤガヤ喋っていた客たちの会話が耳に飛び込んできた。
「まあまあ良かったぜ? 頬に火傷痕があるのがちょいとキズだがな」
(頬に火傷……?)
カインは瞬時に振り返ると、酒を飲んでいた男たちの一団に突っ込んだ。
「おいアンタ! その娘について教えてくれねえか!?」
「な、何だよいきなり?」
突然現れたカインに、男たちは若干引き気味であった。
「だからさっき言ってた、火傷跡の女の話さ!」
「あ、あぁー売春宿の娼婦だよ。興味あるのか?」
「売春宿だって……?」
カインは耳を疑った。
「どんな女だった!? 他に特徴は?」
「えーっと髪は紺色で──」
(間違いない)
カインは確信した。
と同時に、ある違和感を覚えた。
娼婦がラヴクエを使っている場合、それはほぼ100%の確率で新規顧客を見つけるため、つまりは営業なのだ。
だがカインは彼女から営業を受けた覚えなど無いし、そもそも名前も、連絡先すら交換していないのだ。
それでは利益に繋がらない。
(普通の娼婦とは何かが違う。ひょっとして、あの娘は俺に惚れ……いや、期待しすぎか)
「で、どこの売春宿だ?」
「東区6番街の“マーメイド・ドリーム”ってとこだが」
「ありがとう!」
カインはものすごい勢いで酒場を飛び出していった。
「何か元気出たみたいで、良かったッスね~」
ウリルは、メッセージを客たちに渡しながら呟いた。
大衆酒場”ビッグハット亭”にて。
「はぁ~……」
ため息をつく男の名はカイン。
オレンジ色の髪が、今日は心なしかくすんでいるように見えた。
“ぱ”というニックネームの少女と熱い夜を過ごしたのが昨晩。
今朝目覚めた時には、隣に彼女の姿は無かった。
(名前だけでも知りたかったな……)
「カインさん、今日ずっとあんな感じッスねえ~」
机に肘をついてぼんやりと宙を見つめるカインを、ウリルは心配そうに見た。
「ねぇねぇ~リヒトのアニキってばぁ」
「大丈夫だって。心配すんな」
「……というと?」
「カインはウチの上客だ。そう簡単に見捨てたりはしねえよ」
カインは既に充分、ラヴクエの売上に貢献している。
そろそろラヴクエを卒業して幸せになっても良い頃だと、リヒトは考えていた。
「……というと?」
「これ以上は教えらんねえなぁ」
「えーッ!? もったいぶらないでくださいッスよ! あっ、まさかネズ──」
「さっさと配達行けって」
ダダをこねるウリルを黙らせておいて、リヒトは酒場の裏口へ向かった。
目立たない裏口を出ると、酒場から出たゴミや予備の資材が乱雑に積んで置いてある。
「……ネズミ、いるか?」
リヒトがそう呼んだ途端、ローブをまとった人影がすぐ傍にすっ飛んできた。
フードを深くかぶり、口元には布を巻きつけて顔を隠している。
性別も年齢も分からないが、体格はとても小柄である。
「ひとつ調べて欲しいことがあるんだが──」
「……了解」
リヒトが耳打ちすると、ネズミと呼ばれた影は頷き、素早い動きで走り去った。
***
数日後。
カインはまだあの調子だった。
ここ数日、カインはラヴクエの掲示板を毎日チェックしているが、”ぱ”と同一人物だと思わしきクエストは無い。
悩む自分が気に入らなくて、カインはかぶりを振った。
(ったく、俺らしくねえぜ。女一人と連絡取れなくなったぐらいで……。さてと、次の女でも探してパーッと楽しみますか)
複雑な気持ちのまま掲示板を見るが、やはり“ぱ”のことが気になって内容が頭に入ってこない。
そのとき、後ろの方でガヤガヤ喋っていた客たちの会話が耳に飛び込んできた。
「まあまあ良かったぜ? 頬に火傷痕があるのがちょいとキズだがな」
(頬に火傷……?)
カインは瞬時に振り返ると、酒を飲んでいた男たちの一団に突っ込んだ。
「おいアンタ! その娘について教えてくれねえか!?」
「な、何だよいきなり?」
突然現れたカインに、男たちは若干引き気味であった。
「だからさっき言ってた、火傷跡の女の話さ!」
「あ、あぁー売春宿の娼婦だよ。興味あるのか?」
「売春宿だって……?」
カインは耳を疑った。
「どんな女だった!? 他に特徴は?」
「えーっと髪は紺色で──」
(間違いない)
カインは確信した。
と同時に、ある違和感を覚えた。
娼婦がラヴクエを使っている場合、それはほぼ100%の確率で新規顧客を見つけるため、つまりは営業なのだ。
だがカインは彼女から営業を受けた覚えなど無いし、そもそも名前も、連絡先すら交換していないのだ。
それでは利益に繋がらない。
(普通の娼婦とは何かが違う。ひょっとして、あの娘は俺に惚れ……いや、期待しすぎか)
「で、どこの売春宿だ?」
「東区6番街の“マーメイド・ドリーム”ってとこだが」
「ありがとう!」
カインはものすごい勢いで酒場を飛び出していった。
「何か元気出たみたいで、良かったッスね~」
ウリルは、メッセージを客たちに渡しながら呟いた。
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