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序章
第0話 出会いの伝道師リヒト
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【みんなの出会いのギルド ラヴ・クエスト】
そう書かれた手作りの看板を持ち、リヒトは閉店後の酒場にやってきた。
「よし……完璧な出来栄えだ。場所を貸してくれてありがとな、おっさん」
彼が看板を壁に取り付ける様子を不思議そうに見ているのは、大衆酒場“ビッグハット亭”の店主。
“おっさん”ことアーウィンである。
「いや俺は良いんだが……出会いのギルドなんて聞いたこと無いぞ? 本当にうまくいくのかね?」
「任せとけって、おっさん。俺は東京じゃTinterとタッフルで無双してたんだからよ」
「と、とーきょ? なんだそれは」
「俺の故郷だよ。前にも言ったろ?」
「あぁそうだったっけ」
“トーキョ”などという国は聞いたことが無いが、恐らく遠い所から来たのだろうとアーウィンは納得しておいた。
「それになんと、俺はただのユーザーじゃなかったのさ!」
「というと?」
「マッチングのアルゴリズムからマネタイズの仕組みまで、全てを研究し尽くしたプロフェッショナルだったのだよ。分かるかい? おっさん」
「……分からん」
東京からこの世界に転移してきたリヒトとアーウィンが出会ったのは、三ヶ月程前のことだった。
***
とある夜。
仕事帰りのアーウィンは、井戸の中で溺れかけている人影を発見した。
得体のしれない彼を、アーウィンはとりあえず家に招き入れて世話することにしたのである。
「俺の名前はリヒト。21歳の好青年だぜ……って、ここは一体どこだ?」
言葉は通じるものの、この国の事を何も知らない上、黒髪に黒眼という珍妙な風貌。
どう見たって怪しい男を家で養うと決めた理由は、アーウィンの優しさに他ならなかった。
彼は罪人や浮浪者にも無条件で手を差し伸べる、そういう男なのだ。
リヒトと名乗る青年は、この世界のことを勉強し始めた。
そして外に出て人々と話し、急速に街に馴染んでいった。
持ち前のコミュ力を活かしてコネクションを広げ、気付けばリヒトはここ東区13番街ではかなり顔の広い存在となっていた。
そして数日前、アーウィンの経営する酒場”ビッグハット亭”の一部を貸して欲しいと言い出したのである。
「カウンター席の端っこ、今は使ってないんだろ? 俺が新事業のために使っても良いか?」
何か目標があるのは良いことだし、その新事業とやらがうまくいけば酒場も繁盛するはず。
そう考えたアーウィンは快くカウンターをリヒトに提供し、今に至る。
***
「“ラヴ・クエスト”……略して“ラヴクエ”。我ながら最高のネーミングセンスだぜ!」
リヒトはカウンター上部の看板を眺め、満足そうに腕を組んで笑った。
「俺には何だかよく分からんが……やるからには頑張れよ、リヒト」
「おう。おっさんも協力頼むぜ」
やがて国をも巻き込む大事業となるマッチングサービス”ラヴクエ”の伝説が、今ここに始まろうとしていた。
(序章 完)
そう書かれた手作りの看板を持ち、リヒトは閉店後の酒場にやってきた。
「よし……完璧な出来栄えだ。場所を貸してくれてありがとな、おっさん」
彼が看板を壁に取り付ける様子を不思議そうに見ているのは、大衆酒場“ビッグハット亭”の店主。
“おっさん”ことアーウィンである。
「いや俺は良いんだが……出会いのギルドなんて聞いたこと無いぞ? 本当にうまくいくのかね?」
「任せとけって、おっさん。俺は東京じゃTinterとタッフルで無双してたんだからよ」
「と、とーきょ? なんだそれは」
「俺の故郷だよ。前にも言ったろ?」
「あぁそうだったっけ」
“トーキョ”などという国は聞いたことが無いが、恐らく遠い所から来たのだろうとアーウィンは納得しておいた。
「それになんと、俺はただのユーザーじゃなかったのさ!」
「というと?」
「マッチングのアルゴリズムからマネタイズの仕組みまで、全てを研究し尽くしたプロフェッショナルだったのだよ。分かるかい? おっさん」
「……分からん」
東京からこの世界に転移してきたリヒトとアーウィンが出会ったのは、三ヶ月程前のことだった。
***
とある夜。
仕事帰りのアーウィンは、井戸の中で溺れかけている人影を発見した。
得体のしれない彼を、アーウィンはとりあえず家に招き入れて世話することにしたのである。
「俺の名前はリヒト。21歳の好青年だぜ……って、ここは一体どこだ?」
言葉は通じるものの、この国の事を何も知らない上、黒髪に黒眼という珍妙な風貌。
どう見たって怪しい男を家で養うと決めた理由は、アーウィンの優しさに他ならなかった。
彼は罪人や浮浪者にも無条件で手を差し伸べる、そういう男なのだ。
リヒトと名乗る青年は、この世界のことを勉強し始めた。
そして外に出て人々と話し、急速に街に馴染んでいった。
持ち前のコミュ力を活かしてコネクションを広げ、気付けばリヒトはここ東区13番街ではかなり顔の広い存在となっていた。
そして数日前、アーウィンの経営する酒場”ビッグハット亭”の一部を貸して欲しいと言い出したのである。
「カウンター席の端っこ、今は使ってないんだろ? 俺が新事業のために使っても良いか?」
何か目標があるのは良いことだし、その新事業とやらがうまくいけば酒場も繁盛するはず。
そう考えたアーウィンは快くカウンターをリヒトに提供し、今に至る。
***
「“ラヴ・クエスト”……略して“ラヴクエ”。我ながら最高のネーミングセンスだぜ!」
リヒトはカウンター上部の看板を眺め、満足そうに腕を組んで笑った。
「俺には何だかよく分からんが……やるからには頑張れよ、リヒト」
「おう。おっさんも協力頼むぜ」
やがて国をも巻き込む大事業となるマッチングサービス”ラヴクエ”の伝説が、今ここに始まろうとしていた。
(序章 完)
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