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第一章 巫女ってなんなんですか
56.驚かそうとしたら Side サミー
しおりを挟むSide サミー
ゲルトに頼んでた材料が届いて小さな窯を産屋棟の側に作った。作りためたブローチやピアス、髪留めなんかを素焼きして、サヤカも一緒に釉薬の色を決めたり模様を付けたりする。サヤカが来んのは俺の日か休みの日だからたまのことだけど、一緒にああだこうだ言いながら作業すんのは楽しい。
金具は細工師に頼まなきゃなんねぇから、その仲介もゲルトに頼んだ。店に出せるか、出すとしたら値段はどんくらいかも相談する。サヤカが考えて俺が作ったいくつかが目に留まったらしく、それの細工を頼んだあと店に置いてもらえることになった。
出来ることが増えんのは嬉しいもんだ。
サヤカが来ねぇ日はサヤカに贈るピアスを、どんなんが良いか考えながら色々作ってる。
街へ出掛けた日にヴェルナーがサヤカへ贈ったピアスのことが頭から離れねぇ。俺も贈りてぇって思ってたのに先をこされちまった、あとから贈ったら真似したみてぇじゃねぇかとかグチグチ考えてたけど、サヤカが焼き上がったモンを喜んでるのを見て止めた。早い者勝ちじゃねぇし、贈りてぇから贈るんだ。俺は買ったモンじゃなく自分で焼いたピアスを贈ろうと決めた。
時間だけは無駄にあるから仕事じゃ作らねぇやたら細かい意匠を彫り込んだり、何層にもなる花びらにしてみたり、花と鳥をよく作ってたからそういうほうがいいのかとか悩んで結局、レイルードの花にした。レイルードの花の下で初めて2人で話したことを思い出して、それしかねぇって気分になったから。ヴェルナーと同じになんねぇように3つの花が重なって咲いてる複雑な形にした。土魔法で焼き物の土をなめらかに柔らかくして、形を作るときは硬さを加えて整えやすくする。細けぇ作業は難しくて良い修練になった。
ある日、神官を鬱陶しそうにしてたサヤカの態度が変わったのに気付いた。神官の目はサヤカを追って、目が合うとたまに恥ずかしそうな顔をする。完全に惚れた男の目だった。サヤカは神官みたいにあからさまじゃねぇが、チラッと投げる笑いがたまに意味深でドキッとする。
魔力が無いサヤカの世話は最初から神官がやってたから、たいてい一緒にいる。2人が今までより親しい、というより恋人同士みてぇな雰囲気になって焦った。2人を見てると心臓が嫌な音を立てるから、メシは急いで食って自分の部屋に逃げ帰るようになった。
思春期のガキでもねぇのに逃げ回ってる自分が情けねぇとは思うけど、妖精族と比べられたことを思い出して苦しくなっちまう。
悶々としてたら、ゲルトに細工を頼んでたレイルードの花のピアスが届いた。薄くて小さい花びらの重なりを作るのに苦労したんだ。我ながら良く出来てると思う。こんな良い仕事をする自分が誇らしくなり逃げ回ってんのが馬鹿らしくなった。
サヤカに直接渡すのが照れくさくて部屋にこっそり置いておこうかと考える。今日は休みの日だし、置いてあんのに気付いたら俺に会いに来てくれっかな。そうじゃなくても夕飯のときにつけてくれるかもしれねぇ。下に降りてきたサヤカの耳にレイルードの花が咲いてるのを想像してにやけた。もし気付いてなかったら俺の手でつけんのもいいな。
図書室に出掛けてるあいだに済ましてしまおうと、サヤカの部屋に入り込んだ。勝手に入んのは罪悪感があるけど妙にドキドキする。誰もいない広い部屋を見まわした。天窓を見上げて、黄色に光る精霊が昇って行く光景を思い出す。あれはなんてぇか、すげぇ幸せな気分だったな。
どこに耳飾りを置こうか迷って、洗面台に置いた。ここなら鏡ですぐ見えるし神官と一緒じゃないとき、一人のときにみつけて俺のことを思い出してほしかったから。喜んでくれるといいけど。そしたら、俺と――
『くれるたんびに調子んのって、口付けしようとしてくるからメンドーなだけだって』
嫌な声を思い出した。でも本当にそうかも。贈り物と交換みたいにほしがられるのは、気分のいいもんじゃねぇよな。俺は贈り物をしてぇと思っただけで、受け取ってもらったらそれで良いんだ。口付けは……してぇけど、贈り物とは違う話だから別のときでいい。
鏡の中の情けねぇ顔を見てたら、話し声が聞こえた。いつもより戻りが早いのか? やべぇな。いや、悪いことしてねぇし正直に話すか。
開きっぱなしの洗面所のドアからサヤカと神官が見えて、体が固まった。2人が抱き合って口付けてたから。
『妖精族みたいにイイ男なら、う~んと優しくすんのに、土の子じゃあねぇ』
あの声がまた蘇る。
神官が妖精族だから俺とはしねぇ口付けをすんのか? 他の奴らとは? 俺が土の子だからしないだけ? またかよ。
嫌な汗がジワリと滲み、手が震えた。
「みこ、みこ、ばつをください」
「リーリエは困った子だねぇ」
「だって、みこが指を撫でるから」
神官の甘えた声に驚く。あの涼しい顔した神官が?
「リーリエ、自分で出して。目くらましも脱いで見せて」
「はい、みこ」
「自分でさわるんだよ。気持ち良い?」
「みこ、きもちいい、です、ああ、あっ、みこ」
ソファに座って見えなくなった2人が気になって、ドアの隙間から角度を変えて覗く。上着を捲り上げた神官が、自分でしごきながら喘ぎ声を上げる姿は衝撃だった。
繁殖期じゃねぇのに? 自分から欲しがってたよな? どうなってんだ?
サヤカが体を移動させて床に座り、神官の太腿を舐めている。俺がされてねぇことばっかりだ。いつもそんなことしてんの?
神官に視線をうつしてギョッとする。顔半分が爛れて酷いことになってる。回復魔法使えんのにおかしいだろ。傷痕なのか? それにしたって酷過ぎる。子供のときは魔力少ないからか? でも妖精族なんだから光属性いるはずなのに。
驚いてるうちに、神官が叫んで出したようだった。また抱き合って口付けてる2人をぼんやり眺めてると、体を離して振り向いたサヤカと目があった。俺は慌てて浴槽の影に転がり込んで隠れる。やべぇ、これじゃ覗きじゃねぇか。俺なにやってんだよ。冷や汗を流してたら、洗面所の中に入っている足音がした。何も言わないのは、みつかってないってことか? いや、目が合ったし。なんなんだ。
「リーリエ、おいで。手を洗って」
「はい、巫女」
怯えて隠れながら、2人が手を洗って出て行くのを待った。神官が出て行って部屋のドアがしまると、軽い足音が洗面所に入ってきて隠れてる俺の近くで止まる。
「サミーは何してるのかな?」
「あ、いや、ちがう、覗くつもりじゃなくて、おどろいて」
「うん? 何で部屋の中にいたの?」
「……洗面台に」
最悪だ。こんなふうに贈り物を渡すなんて最悪過ぎる。
「あ、可愛い。私に?」
「ああ」
「ありがとう、嬉しい。スゴイ、こんな小さくて複雑な焼き物できるんだ。可愛いね」
褒められてもお礼を言われても、まったく嬉しくない。自分のしでかした覗きでドン底まで落ち込んだ。
「似合う?」
ピアスを付けたサヤカが俺の目の前に座って笑いながら聞いた。最悪なのに、笑ってくれたから泣きそうになる。
「……似合う。悪ぃ。置いてすぐ出ようと思ったら、2人がきて、それで」
「ありがとう。こっそり置いておくつもりだったの?」
「ああ。2人が、その、それで……出ていけなくなって」
2人が抱き合って口付けてた姿が頭にうかんだ。自分の覗きを棚に上げてサヤカを責めたい気持ちが湧き上がる。でも、自分が相手にされてないだけなのかもと思うと顔を上げられない。
「……いつも? 神官と、あんなこと」
「最近だよ。リーリエがほしがるときだけ」
「神官が? 妖精族なのに?」
「妖精族のできそこない、なんだって自分で言ってた。だから秘密にしてあげて」
「傷痕も?」
「うん。差別されるから目くらましかけてるんだって。妖精族って大変だよね」
「ああ」
でも、サヤカに好かれてるだろ。欲しい女に可愛がられてるじゃねぇか。あんな傷痕あってもいいなら、俺は? 半分だけでも綺麗だから俺は敵わねぇのか?
「……俺は?」
「なにが?」
「……いや、いい」
「はっきり言って」
サヤカがまっすぐ俺を見る目に射貫かれる。
そうだった、はっきり言う女のほうがいいと思ったんだ。男もそうか。言ってスッキリサッパリしちまったほうがいい。
それでも怖気づいた俺は目を見れなくて俯いた。
「く、口付け、をしてた。好きなのか?」
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