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第一章 巫女ってなんなんですか

51.リーリエの本当の姿

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「し、神官、ではない、私なら、す、好きになってくれますか?」
「……わかんない」
「でもっ」
「見てからでいい?」
「……はい」

 部屋に入ってきて立ち尽くしたままのリーリエは見てわかるほど震え、冷や汗を流している。だいぶ様子がおかしいので私も動揺してる。
 どうしよう。神官じゃないリーリエって何? それに、いつの間に『好きになる』話になったんだろ。ヨアヒムみたいに受け入れるのが好きになるってことでいいのかな。

 なんだかよく分らない状況に戸惑ってる私の目の前へ、白くて細いつややかな右手を勢いよく差し出した。

「手をっ、手を見て、いてくださいっ」
「うん」

 リーリエが大きく息を吐くと、目の前の美しい手に皮膚の引き攣った痕が浮き出てきた。目がおかしくなったかと思って何度も瞬きしても変わらないどころか、変色した部分もあらわれてどんどん酷くなっていく。袖口から先の右手はいつの間にか引き攣りと変色に覆われてしまった。

「……これは?」
「わっ、私の、手、です」
「今まで見えてたのは」
「目くらまし魔法、です」

 ―――― なんか、びっくりし過ぎて。

 怪我の痕? 痛そう。

「痛みは?」
「は? はっ、あ、ありません」
「良かった」

 痛みがないのは良いことだ。

「手だけ?」
「あ……」
「他の部分も?」
「あ、ありま、す」

 袖に隠れてる部分までつながってそうだもんね。なんで見せたんだろ? 『神官じゃないリーリエ』って目くらましかけてないリーリエってことなのかな。
 本物の右手を両手で握ってリーリエを見上げるとひるんだ顔をした。いつもの輝くような美しさは鳴りをひそめ、陰をおとした顔に汗の粒が浮いている。怯えて落ち着かない目があちこちに視線を彷徨わせていた。

「ヨアヒムみたいに受け入れるって、どういうこと?」
「あ、あの、まぐわいが。……ゲルトと、してた、ように」
「リーリエはお勤めじゃないまぐわいがしたいってこと?」
「――っ、……はい」
「嫌じゃないの?」
「……はい」

 俯いているリーリエは手も声も震えていた。

「リーリエ」

 静かに呼ぶと、体をビクリとさせて逃げようとする。

「どんなことするか分かってる?」
「は、裸で、抱き合って」
「そういうことしたいの?」
「……っ、はい」

 また震え出した右手を頬に当てキスをした。震える手は逃げ出さずに私の手の中で大人しくしてる。何度もキスをして嫌がらないか確かめてから、舌を這わせた。怯える手を掴んで私に向けられた手の平を舌で何度も舐める。人差し指と中指の股を舌先でチロチロ舐めると、手に力が入るのに逃げようとはしなかった。中指の付け根から指先まで舌で撫でてから口に含む。舌で舐めまわせば、爪は根元にしかなく、あとは硬くなった皮膚だった。
 上目づかいでリーリエを見たら、耐えるように顔を歪めて浅い呼吸を繰り返しいる。私を見る目は潤んでいて、半開きの口はなにかを期待しているように見えた。口に含む指を二本に増やし、音を立てて吸い付くと小さな声を零した。
 嫌がってるようには見えないし、裸で抱き合ってまぐわいたい、と。
 ヨアヒムみたいに好きになってほしい? だから神官じゃない、傷痕が残るリーリエを見せた。

 こんなに怯えて震えながら?
 よくわからないけど、切実だってことはわかる。私に好かれるために見られたくない隠しごとを見せた。それがすごく怖いってことも。
 重くて悲しい。胸が痛くて泣きそうになる。

「リーリエ、全部、見せて」
「……っ、あ、でも」
「脱いで、リーリエ」
「……あ」

 俯いててしまったリーリエにたたみかけた。こうなったら最後までとことん行かないとどうにもならない気がする。
 震えながら抱き合いたいって言ったリーリエをちゃんと抱きしめたいと思った。

「裸で抱き合いたいんでしょ? 脱がないとできないよ」
「はい」
「脱いで、リーリエ。全部」
「……はい」

 右手を離すと、ノロノロと神官服を脱ぎ出した。袖なしチュニックを脱いでシャツのボタンを外す。脱いだ服は椅子の背にかけた。ためらいがちにズボンを脱ぐと、薄い下ばきの前が盛り上がっている。
 性欲薄いんじゃなかったっけ? でもまぐわいたいらしいから、それなりにあるのかな。
 俯いたリーリエが下ばきも脱いで全裸で立つ。右手の傷跡は腕の途中で消えていた。

「目くらましも脱いで」
「……っ、はい」

 サラサラした銀髪に縁どられた綺麗な顔を強張らせて、歯を食いしばっている。じっと見ていると、右半身全体的に引き攣りと変色が浮き出てた。
 かなり大ケガでしょ、これ。見てるだけで痛そう。小刻みに震えるリーリエを軽く抱きしめたら、発作のように体を揺らした。

「こっ、これでっ、これで、好きになって、くれますよね!? 見せましたっ。私は、私を見せました。や、約束ですっ、巫女っ、これで、私をっ」
「リーリエ」
「だって、わ、たしはこれで、だって、ぜんぶです、みこ。すきになってくれるって、みこ、わたしを」
「リーリエっ!」

 焦点の合わない目を見開いて口だけ笑ったようなリーリエが、震えながら話すのを止めたくて大声を出した。体を跳ねさせて言葉が途切れる。リーリエの早くて荒い呼吸が部屋に響いた。
 リーリエの頬を両手で挟んで顔をしっかり見る。
 左目は金色、右目は金色に白い濁りが混じって眉毛もまつげもまばらだった。鼻は右側だけ少し崩れて小鼻がさがり、右側の唇は引っ張られたように引き攣って境目が乱れていた。
 目を見開いたまま瞬きもしないリーリエと目を合わせる。

「今はどこも痛くないの?」
「……はい」
「どうしてケガしたの?」
「子供のころ、狩りで魔獣の炎に巻かれて」
「痛かったね」
「……はい」

 ぎゅっと強く抱きしめたら、少しだけ力が抜けたみたいだった。

「これが神官じゃないリーリエ?」
「そうです、っこ、これで、私にも」

 唇にそっとキスをした。下唇と上唇を交互についばんで、引き攣った右の口角から下唇のきわを舌でゆっくり舐める。上唇のキワもゆっくり舐めると、息を吐いて少し開いた唇の隙間に舌を差し込んだ。下唇の粘膜をゆっくり往復して、下のツルツルした歯列と歯茎に舌を這わせた。リーリエの両手が私の背中にまわって弱弱しく抱きしめる。私は意思表示のために、リーリエの頭を強く抱き寄せた。

 荒い呼吸を繰り返すリーリエの舌を誘う。柔らかな舌を弾くように撫でるように舐めていたら、舌先が私の方へ向かってくた。舌先同士でチロチロとむず痒い舐め合いをしていると、リーリエの舌がもっと欲しいというように突き出される。唾液を口の端から零しながら全体を合わせるように絡めた。一緒に舌を捏ねまわせば息と水音が部屋に響く。リーリエの舌に吸い付いて唇で甘噛みすると、鼻にかかった喘ぎ声を出した。
 いつの間にか私たちは強く抱き合って、硬く立ち上がったリーリエのペニスが2人の間に挟まっている。唇を離して見つめると、いままで見たことない蜂蜜みたいな蕩けた目をしてた。
 抱きしめた背中を撫でたら違和感がある。かさぶた?

「リーリエ、背中の傷はいつの?」
「あ、あの、罰です」
「なんの?」
「欲望の」

 ギュッと目をつぶり小さな声で言った

「誰にされたの?」
「いえっ、自分でっ、自分でしたので、誰にも、誰にも言わないでください」
「背中なのに?」
「ムチで、できるのです」
「ホントに自分で? 欲望の罰って何?」
「本当です。……妖精族は、その、欲望が薄いのです。年に一度の繁殖期もひと月で終わります」
「うん」
「……私は、おかしいのです。妖精族なのに、欲望が湧く、できそこないなのです」

 私の体にしがみつき、体を強張らせた。

「今も、口付けで、こんな」
「これがダメなの?」

 リーリエのさっきより柔らかくなったペニスを撫でると、呻いて身じろぎをした。

「……繁殖期じゃないときにも、そうなるなんて、おかしい、できそこないなのです。でもっ、もうっ、見せましたっ。巫女に、好きに、好きになってもらえれば、きっと精霊がもっと生まれて、私だってちゃんとお勤めできるとっ、わかってもらえます」
「リーリエ」
「こんな、こんな姿で、なかみも、おかしくて。でも、おつとめはできるのです。できるって証明したいのです。私は、巫女、みこっ、わ、私を」

 目を見開き、金色の目と白く濁った目から涙を零すリーリエがたまらなく痛かった。握った手は冷たく汗ばんでいて、悲しくなる。
 リーリエの手を引いてベッドに寝かせ、私もパジャマを脱いでリーリエの上に乗った。布団を肩まで引っ張って二人でくるまる。

「巫女、みこ、見せました。みせたから、みこ」

 どこかうつろな目で繰り返し同じことを言うリーリエを抱きしめる。
 引き攣った唇を何度も啄むと、リーリエも応えた。息継ぎをしている隙間に舌を入れて、口の中をていねいになぞる。上の歯列を、上顎のデコボコも、下あごの筋も、柔らかな頬肉も。中を這いまわる私の舌に縋りつくように、くっついてくるリーリエの舌を撫でる。それだけで声をこぼし、唾液を飲み込んで胸を大きく上下させている。柔らかな舌を絡め合い、吸い付くと、またお腹のあいだにあるペニスが膨らんだ。触れたらビクリと体を跳ねさせ、ゆっくりと撫でれば小さな声を上げる。

「今は、お勤めだから、おかしくないでしょう? 巫女。っあ、みこ、今はだって、こうならないといけないから、だから、だいじょうぶでしょう?」
「そうだよ、大丈夫」
「巫女、私は? みこ、こんな姿でも、口付けをくれたでしょう? みこ、私を」
「リーリエ」
「巫女、みこ、だって、見せたらって、みこ」
「好きだよ、リーリエ。好き」

 抱きしめたい気持ちを込めてリーリエの唇を食みながら何度も呟いた。


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