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第一章 巫女ってなんなんですか
43.相談と後悔 Side ゲルト
しおりを挟むSide ゲルト
翌日、ラルフに見張りを頼むため巫女の部屋に集まった。
「で、なんの話?」
「ゲルトと寝るときの見張りをお願いしたくて」
「見張り?」
「ゲルトが自制できなくて暴れることがあるから、もしそうなったときは押さえてほしいの」
「暴れる? どんな状態だ?」
「……暴走する、というか。以前、噛み付いたことがありました。昨日も力づくで押し倒して。意識が戻って離れたけど周りが見えなくなるんです」
「今まで何ともなかったけど昨日はちょっと危なかったから見張りをお願いしたくて」
「重なってんのを引き剥がすんだろ? 剣で切っていいなら簡単だけどケガさせねぇようにってんなら、オレ一人じゃ難しいな」
「意識取り戻させるだけだから魔法でどうにかできない? 口に風を送りこんで息苦しくさせるとか」
「あー、そうだな、それならいけるか」
ラルフがあごを掻き思案気に答えた。自制できないなんて話、恥ずかしくて情けない。いたたまれなさを誤魔化したくてお茶をすすった。
「もしものために神官もいたほうが良いんじゃねぇの?」
「そこまで必要かな? リーリエは妖精族だから人のを見聞きするのも嫌なんじゃない?」
「そうなんねぇようにオレがいるけど、殺すより安全確保のほうが難しいんだよ。使わねぇとは思うけど万が一のためにな。待機するだけだから離れた椅子に寝かしとけばいいだろ」
「見張りのラルフが言うならそうしたほうがいいね」
「俺から頼んでおきます」
「おう、頼んだ。サヤカ、協力すんだからオレにもご褒美くれんだろ? 見物だけってことねぇよな?」
「無事に乗り切れたらね」
笑いながら話す親しい2人のやり取りに入っていけない。
近付かないようにしていたから仕方がない。胸がチリチリするのは疎外感のせいだろうか。今すぐ押し倒して俺を見ろと言いたい。目に映すのは俺だけにしろと言いたい。これじゃ酷い嫉妬だ。好きでもないのに嫉妬なんか馬鹿か俺は。それとも好きなんだろうか。寝れるからってだけで好きになるのか? 相手にしてもらったから? どれだけ単純なんだ。
黙ってお茶を飲み終わり、話が終えて自分の部屋へ戻るとラルフもついてきた。一緒に中に入ってドアを閉めると、さっきとは違う鋭い目で俺を見た。
「噛み付いたときのこと、最初から最後まで詳しく教えろ」
初めての娼館で起こした問題を洗いざらい話した。黙って聞いていたラルフが、組んでいる腕を叩いていた指を止めて口を開く。
「獣化したのも無意識か?」
「押さえつけたいと思ったけど獣化は無意識でした」
「ふうん。サヤカと今までどうしてたんだ? 昨日、突然暴れたんだろ?」
「今までは扱いてから上に乗ってもらってすぐ出してました。すぐ終わるから緊張してられたし、触りもしなかったから何も起こりませんでした。昨日は、……扱かずに」
「なんで変えたんだ?」
「……俺の前にリヒターと会ってたんです。巫女とリヒターの様子が、その、恋人同士みたいで責めたくなって」
「嫉妬に狂ったってか?」
「いえ、なんか、私はできないのに、羨ましくて」
「八つ当たりか」
そうなのかもしれない。いや、きっとそうなんだと思う。
「さっきもおかしい目つきしてたぞ」
「え?」
「とって食いそうな目でサヤカ見てただろ」
「……違います。さっきは、さっきは嫉妬でしょうか」
「随分とメチャクチャだな。獣化して理性吹っ飛ぶのはよく聞くけど、獣化する前に吹っ飛ぶのは初めて聞いた。興奮しやすいのか、溜め込み過ぎか。まあ、欲求不満ってのは間違いねぇな」
誰からも相手にされない事実を見透かされ、惨めでたまらなくなった。
「一回、飽きるまでヤリまくったらどうだ? ヤリたくないってくらいさ。中途半端だから欲求不満になんだよ」
「……巫女を傷付けたくありません」
「そういう気持ちは一応あるわけか」
試された? 俺だって好きで暴れるわけじゃない。でも嘘ついたんだから疑われても当然か。
「まあ当分は無理かもしれねぇな。昨日のサヤカの様子は?」
「押し倒したときは怖がって、でもそのあとは優しく慰めて」
「あー、ちょっと厳しいかもな」
何を言いたいのかよくわからず、渋い顔をしたラルフの話の続きを待った。
「今は平気でもあとからくるんだよ。魔獣の狩りでもたまにある。怖い思いをして、そのときは必死だから乗り切れるし本人も平気だと思ってる。でも次の狩りに出たときに恐怖を思い出して体が竦むんだ。その相手だけがダメなら避けるだけでいいけど、狩りそのものが怖くなるときもある。恐怖を認められなくて逆にムチャクチャ暴れることもあるな。サヤカはどうなるか」
俺のせいで?
体から血の気が引いた。
「サヤカを恨むなよ。お前のせいなんだから」
「……はい」
恨むのは自分自身だ。
わかってなかった。娼館を出入り禁止になってそれで解決じゃなかった。相手には恐怖がずっと残る。人族の体はヘビ族よりずっと弱い。自分より強い相手に何されるかわからないなんて、そんな怖ろしいこと。……俺がしたんだ。
「サヤカの前で落ち込むなよ。これ以上気を遣わせんな」
「はい」
「あとは? 隠し事ねぇか?」
「ありません」
「一応、その場は作るけど期待すんなよ。できねぇって思っとけ」
「はい」
落ち込むのはあとにしてラルフが帰ったあと神官の部屋に行き、待機を頼んだ。
「そういうわけで、巫女の部屋で待機してもらいたいのです。いいでしょうか?」
「はい。万が一のためですから大丈夫です。こういった問題に対処するのもお勤めの一環ですから、遠慮せずに言ってください」
「ありがとう。よろしくお願いします」
快く頷いてくれた神官にお礼を言って部屋に戻る。
謝りたい。何度でも。でもそれも俺の甘えだ。近づくだけでも怖いかもしれない。今は平気でもあとからそうなるかもしれない。
昨日の慰めは俺が何しでかすかわからないからだろう。実際、俺は洗面所でしたんだ。あんなことしたすぐあとなのに、またやりそうだったから。
自分が憎い。
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