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第一章 巫女ってなんなんですか
24.ゲルトもか
しおりを挟む水の精霊は水色だった。ヨアヒムはパン職人だからか早起きで、私が起きる前から目が覚めてたらしく体から出てきた精霊に目を見張ってた。表情はあまりかわらないけど口が半開きだったから驚いてたと思う。
また眠って起きたときにはいなかった。
最初は緊張してるだけかと思ってなるべく友好的にしてたんだけど途中でわからなくなった。無表情だし、顔を背けるし。リーリエのときみたいな気分になりたくなくて、乗り気じゃないなら止めようと言ったら違った。経験なくて緊張してるだけだったらしい。
それでも疑ったけど、手を握り返してくる力が強くて緊張でパニくってるんだと思えた。ときどき夢中になってる感じもしたし。
自分のことを大丈夫か何度も聞いてくる心配な感じが自分に重なって少し胸が痛んだ。もっと優しくしたほうが良かったかもしれない。嫌じゃないみたいだし今度はもっと抱きしめようかな。
体を洗って服を着たところでリーリエが朝のお茶を持って来てくれた。髪のお手入れをリーリエに任せてお茶を飲む。
「ねえリーリエ、私にお給料出ないの?」
「賃金ですか? 何に使う予定ですか? 巫女の欲しい物は神殿が買いますよ」
「なんでも買ってくれるの?」
「あまり高価なものは買えませんが大抵のものは大丈夫です」
「次のサミーの日に街に出かけてブローチとかピアスの細工物を見る約束したの。買えるかな?」
「そうなのですね。では護衛と買い物用のお金を準備します」
「ありがとう」
その都度もらえるお小遣い制らしい。元の世界には何も持って帰れないけど楽しみはあるに越したことはない。
お昼はゲルトと外に行った。ゲルトは無口で無表情なうえにキョドらないからヨアヒムよりも分かり辛い。様子を窺うのも面倒になってきたので最初に懸念事項を確認することにした。
「ゲルトがやりたくないなら夜はこなくていいよ」
「いえ、あの、やりたくないのはそうなのですが義務は果たします。精霊は必要なので」
「そう」
「すみません。巫女のことではなく行為自体がちょっと」
「さわられるのも苦手?」
「……はい」
「経験はあるの?」
「はい」
やってみたけど好きじゃなかったってことかな。それともトラウマ? 義務を果たす、か。またリーリエ方式でいくか。嫌なセックスだ。なんでもっと、ヤってヤってヤリまくりたいノリノリな人を選ばないのか精霊王に文句を言いたい。お互い義務感だけでヤルなんて辛いもいいとこなのに。あ、ヴェルナーがそうだったわ。複数いると体がもたなそう。どっちにしろ面倒だ。
うんざりした気分を切り替えたくて別の話題をふった。
「ゲルトの実家は日用品を売るお店って言ってたけど、ブローチとか装身具も扱うの?」
「少しだけ置いてますね。夜会に着けるようなものではなく普段の外出でショールを留めるために使う、普段使いの物です」
「ちょうどいいかも。サミーと焼き物でブローチとかピアスを作ってみる予定なの。出来たらアドバイスくれない? 商人的目線で」
「わかりました」
「今度、サミーと街に行ってどんなものが人気あるか見てくるんだ。おススメのお店ある?」
「普段使うような装身具ですよね?」
「うん。それと、夜会まで行かなくてもデートのときに使いたくなるような可愛いもの」
「そうですね――――」
仕事の話なら結構しゃべるのでホッとする。こっちで人気のデザインとかオシャレ事情とか、ためになることを教えてくれた。
憂鬱な夜の時間はリーリエと同じように何も考えないように動いた。すぐに終わらせて眠る。ゲルトは謝ってたけど余計に虚しい気分になった。
産まれる精霊の光はいつも綺麗で悲しくなる。ゲルトの顔を見ないように目をつぶったまま、お休みと言ってまた眠った。
目覚めたら一人で安心する。今日はお休みだから一人で気楽だ。
図書室で本を読み、リーリエに紙とペンをもらってピアスとブローチのデザイン画を描いて、疲れたら寝っ転がってボーっとした。
夜はゆっくり湯船に浸かって一人で布団に入り肩の力を抜いた。親しくない相手とベッドにいるのは緊張する。もう精霊が産まれるところは見たんだから終わったら自分の部屋に戻ってもらおうかな。本当は戻りたいのに気を遣って泊った人もいるだろうし。
図書室の本からの収穫は今日も無し。精霊神話は面白かったけど。最初の精霊を産んだのも異世界の巫女だったとは。どこの世界から来たんだろう。ていうか、異世界から呼びすぎでしょ。自分とこでまかないなさいよ。
一年後に戻れるって言ってたけど、はたして本当に元の世界に戻れるのかな。
ため息が勝手に出た。
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