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第一章 巫女ってなんなんですか

22.望んでる Side ヨアヒム

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ヨアヒムはヒゲありません。髭のないラスプーチン似。
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 Side ヨアヒム

 そのあとも俺の仕事やパンの話をしながら、お昼を食べた。サヤカを見ながら食べてたら、いつの間にか食べ終わってた。サヤカが帰ろうかと言うから片づけをした。サヤカの小さい足が靴を履く。小さい手が敷布を畳む。
 帰り道はゆっくり歩いた。サヤカの頭の天辺だけ見える。俺よりもずっと小さい。ゆっくり歩いたのに随分早く着いてしまった。部屋へ戻るために階段を登るサヤカを見ていたら目が合った。

「同じ高さになった」

 同じ高さの目線で俺を見て笑った。顔が近くにある気がして、そんな近くから見られてるのが恥ずかしくなって目を逸らした。顔が熱い。どうしよう。
 階段を登る、離れていく足音が聞こえて急いで顔を上げた。サヤカの後ろ姿を見送る。もう一回、俺を見てくれないかと思ったけど、そのまま部屋へ入ってしまった。しばらく待っても出てこないから諦めて自分の部屋へ戻った。

 俺を見て笑った顔を思い出す。俺のことを色々聞いてくれた。知りたいと思ってくれた? 俺のこと普通だって、驚いたら可愛いって言った。嘘には見えなかった。笑ってたから。親切だった。また夜も会える。

 夜!?

 何をするか思い出して顔が熱くなった。本当に? 俺が? 知ってるけど、詳しく知らない。どうしよう。聞く? これは問題になるかな。わからないって言ったから、嘘じゃない。嘘じゃないけど。サヤカは、サヤカは知ってるから。精霊産みを何回もしてるから大丈夫。でも、こういうことを女の人に聞いてもいいの?

 グルグルと考え続けていたら、いつの間にか夜になった。緊張して晩ご飯はわからなかったしサヤカを見ることもできなかった。
 湯浴みをして部屋に戻る。すぐに行ってもいいのか、もっと遅くのほうがいいのか聞けば良かった。でもあまり遅かったら待たせてしまう。早すぎたらサヤカの準備が終わってないかもしれない。
 しばらく悩みサヤカに聞きに行くことに決めて部屋から出た。聞きに行っても迷惑じゃない? 催促してるみたいに思われるかな? 階段を登りかけた足が止まる。でも待たせるよりはいい、たぶん、きっと。でも、ゆっくり行こう。
 ゆっくり登ったのにすぐ着いた。大きく息を吸って吐いてノックをした。やけに響いて聞こえる。ドアは開かない。湯浴みの最中? やっぱりもう少し後で、と思ったらドアが開いた。

「どうぞ」

 俺を見てすぐに目を伏せた。静かな声が胸に刺さる。
 俺を見ない。何かしてしまった? やっぱり嫌になった? どうしよう、どうしたら。

 何も言わずにソファに座ったサヤカが、お茶を入れている。どうしていいかわからないまま向かいに座った。

「どうぞ」

 お茶を出してくれたけど一度も俺を見なかった。やっぱり嫌になったのかも。手が汗でじっとり湿る。静かにお茶を飲むサヤカを見つめ続けても変わらない。
 お茶を、せっかく入れてくれたお茶を飲まなきゃ。どうしようもなく不安で手が震え、コップにぶつけてお茶をこぼした。

「あ、ご、ごめん」
「大丈夫」

 布を持って来て拭いてくれた。それなのに静かな無言の時間に恐怖が膨らむ。

「今日は止めようか」

 なんで、なんで。やっぱり、嫌になった? 俺、何かした? 笑ったのは? 俺を見て楽しそうだったのは? 違うの?

「な、んで」

 口から出せたのは一言だけ。言葉が詰まって胸が痛い。

「無理しなくていいよ」
「無理じゃ、ない」

 息を切らしながら答えた俺をサヤカが見た。俺を見て笑ったのに悲しそうでズキズキ痛んだ。傷付けた? なんで? 何か言った? 俺、何かやった?

「ごめん。俺、その、知らなくて、緊張してて。……何かした?」
「知らない?」
「あ、あの、知らなくて。いや、知ってるけど細かいことがわからなくて、それで」
「なんの話?」
「精霊産み、の」
「私の体から泡みたいに精霊が出てくるんだよ」
「いや、えっと、その前の、つくりかた、が」
「リーリエが言うところの、まぐわい?」
「……そう」

 全身から汗が噴き出した。顔に血が集まったように熱い。
 この年でこんなこと言うなんて、なんて間抜けだ。どうしよう。本当に呆れられる? どうしよう。

「したことないの?」
「……うん」

 サヤカの顔が見れない。握った手は足の上で震えた。

「嫌ってことではない?」
「嫌じゃない。絶対」

 嫌じゃない。むしろ、むしろ望んで、望んでて。

 自分の本心を自覚して頭まで熱くなる。俺なんかが、こんなこと。でも、でも笑ってた。俺を見て笑ったから。なんで、こんなこと初めてで、わかんない。

 立ち上がるサヤカの足が目に入り汗が流れた。どこに? 呆れて離れる?
 膨らんだ不安が弾けそうになったとき隣にサヤカが座り、体がビクッと跳ねた。震えを止めるのに力を入れた手にサヤカの手が重なる。
 隣にある小さい体が俺に寄り添って、触れ合ったところが暖かい。

「嫌じゃない?」
「嫌じゃない」

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