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第一章 巫女ってなんなんですか

6.まぁ、悪くねぇ Side ラルフ

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 Side ラルフ

 精霊紋が左手に浮かんだときは正直、助かったと思った。冒険者家業の魔獣討伐で大ケガしたあとだったから。
 回復魔法の使い手は少ないし頼むと結構な金がかかるから、命に関わる傷だけ治療を頼んでそれ以外は薬で済ますことがほとんどだ。オレも腹の刺し傷だけ治してもらって火傷や骨折は薬にした。傷は治せても流れた血は戻らないから、しばらく休みが必要だと考えてるときに精霊紋が浮かんだ。
 儀式で神殿に拘束される一年間、衣食住は神殿もちで儀式が終われば報奨金も出る。しかも神殿にいるあいだは無償で回復魔法の恩恵が受けられる。すぐに神殿に出向いて治療してもらったのは言うまでもない。

 オレが住むことになる大神殿の産屋棟に移動して先に到着してたヴェルナーに挨拶をした。一年間、嫌でも付き合うことになるわけだから、なるべく穏便にすごしたい。
 話した感じじゃ生真面目に義務を果たそうとしてるだけに思えたのに、随分と熱っぽい目線を巫女に送ってる。気に入ったのか?
 見かけない顔立ちだけど異国情緒があって悪くねぇし、儀式のとき見た裸もおっぱいがほどほどあって良かった。でもオレが気に入ったのはオオカミ族にとって一番重要な『匂い』だ。産屋棟に戻るとき巫女のすぐ後ろを歩いて確かめた。鼻が利くから匂いが合わないとてんでダメだけど、この巫女は当たりだな。一年間は他の女と遊べなくてもこの巫女なら悪くねぇ。どうやって調べんのか知らねぇが巫女と相性が良いってのも選ぶ基準に入ってんのかね。

 ヴェルナーが自己紹介を終えたのでオレも自己紹介をする。

「オレは風のラルフ・ベック。見ての通りオオカミ族29歳。よろしく」
「よろしく」
「サヤカって呼ぶから、オレのことはラルフって呼んでくれ。異世界の巫女って聞いたけどホント? どうやって来た?」
「気付いたらあそこで寝てたからわかんない」
「自分から来たわけじゃねぇのか」
「そうだよ。私の意思なんかどこにもないよ」
「まあオレたちもだけどな。いきなりコレが光って決まったから」

 精霊紋が浮かんだ左手の甲を見せながら説明した。

「選ばれる基準とかないの?」
「聞いたことねぇな」
「お互い大変だね」
「まあな。でも精霊の恩恵は受けてるから仕方ないと思ってる。あんたの属性は?」
「……魔力ないし、精霊もいない。魔法なんて存在しない」
「えっ!?」

 オレが驚いて言葉に詰まってるあいだに、隣に座ってる土妖精族のサミーが声を上げて喋りだした。

「精霊がいねぇのか? 魔法も?」
「うん」

 そりゃあ、驚くよな。精霊産みする巫女をなんでそんなとっから呼ぶんだよ。
 太い眉毛を上げたサミーが、オレの胸の下あたりまでしかない小さい体をテーブルに乗り出して続けざまに質問する。

「妖精族は? どうやって暮らしてんだ?」
「ようせいぞく? ってなに?」
「え!? 俺と神官の連中だよ! 俺が土妖精族で神官が緑妖精族。サヤカは?」
「種族ってこと? 種族は、えー、たぶん、人族? 一種類しかいないから、こっちとどう違うのかわかんないな」
「え!?」

 今度はオレが声を上げた。

「オレみたいなオオカミ族は? あいつだってヘビ族だし」
「いない。だから驚いたんだよね、初めて見たとき」
「マジかー。オレに見惚れてんだと思ったら見たことねぇからか」

 驚いた顔で見られていた理由がわかってスッキリした。人族と全然違う見た目だもんなぁ。そうか、珍しいから見てたのか。

「うん。だから慣れるまでは見ちゃうかも。ごめんね」
「見惚れても怒んねぇよ」
「そりゃどうも」

 オレの冗談にふざけた顔で返答する。うん、良いな。気安いし正直だ。こういうほうが気楽でいい。
 色々聞きてぇけど自己紹介の途中だったと思い出し、サミーに会話を譲る。他の奴らとの話を聞きながら、まあ悪くない1年になりそうだと思った。

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