【R18】豹獣人の3兄弟~保護してもらうかわりに体を使って頑張ります!

象の居る

文字の大きさ
上 下
24 / 29

24.私にできること

しおりを挟む
 
 近くの村に避難すると言われ、ヴィリとヴィム交互に抱えられて移動した。私を抱えてないときに交代で仮眠を取って追いつくという方法で休まずに進んだ。私は運ばれながら眠る。ひたすら申し訳ないので、水分補給は最低限にしてトイレ回数を減らすよう努めた。

 2日目の朝に一番近くの村へ着き、村長さんのところへ行って魔獣の説明をする。この村がそういう被害に合うのは初めてらしく、急いで柵の補強をしたり堀を掘ったり、石を集めたりを始めた。ヴィリとヴィムも村人に混じって作業をしてる。私は村の女たちと、魔獣に荒される前に食料になる野原の野草摘みをした。
 虎姿の村人たちがたくさんいる光景は圧巻で、あんまり顔の区別がつかない。人間種は珍しいらしく、初めて見たという人もいて、好奇心旺盛な子供は私の顔やら手やらを触りまくって面白がっていた。明るい触れ合いは緊張と不安をほぐしてもらえて有難い。
 村外れの小屋の住人が死んでそのままになってるので、そこに泊めてもらえることになった。ベッドもあるけど全員で寝れないから、床に野宿用の敷布を敷いて眠る。避難のあいだの食料は塩に突っ込んで持ってきた魔獣肉とフニの干し肉、干し肉と物々交換してもらった野菜やなんかのスープ。

 2日もすると魔獣がやってきた。初日は様子見なのか少数だったから追い返せたと聞いた。明日の夜はもっとやってくるだろうということも。
 戦える村人は柵の前に集まった。戦えない人は邪魔になるから、家に籠って戸締りをする。私はこっち。離れた場所から聞こえる、魔獣の吠える声が耳障りで、不安だけが膨らんだ。
 眠れずに過ごして迎えた夜明け前、小屋のドアが叩かれてヴィリの声が聞こえた。無事だったと急いでドアを開けたらローガーもいた。視界いっぱいに大きな体が映る。驚いていたら抱きしめられて、汗とケモノの臭いに包まれた。臭いのに、湧き上がる安心で心臓が忙しく脈打つ。

「あ゛ーーー、疲れた」

 そう言ったローガーはベッドに倒れ込んですぐ、大きなイビキをかき出した。

「ほとんど寝ないで走ったんだ。シュロを見て安心したんだね」

 ヴィムが笑い、ヴィリも笑った。私もホッとして笑う。この大きな人がいるだけで安心感がぜんぜん違った。ヴィムもヴィリも雰囲気が和らいでる。

「2人とも怪我はない? 疲れたでしょ?」
「大丈夫。兵団がきてくれて助かったよ」
「ホントだよなぁ」

 みんなでご飯を食べて、くっついて眠った。目が覚めたのは昼頃で、眠ってるみんなを起こさないように家を出て、村に着いた兵団を見に行った。
 柵の外側に幕屋がいくつも張られてる。村の中にも一つ。広場にいた村人が治療用の幕屋だと教えてくれた。村の井戸を使うから近くに張ったらしい。

 じっとしてるのは落ち着かないから手伝いにいこうかと考える。包帯の洗濯とかできることがあるかもしれない。活動前の今は誰もいないので、夜にまたこようと決めて小屋へ帰った。
 日が落ちるころから開始だって言ってたから夕方に起こすことにして、スープを作る。途中でヴィリとヴィムが起き、スープができてからローガーを起こした。みんなで穏やかに食事をする。避難してからフニの干し肉が大活躍してる、たくさん作っておいてよかったとか普通の話をした。

 食事が終わってしばらくしたら3人が立ち上がり、雰囲気が一変した。キリっとした顔に緊張感をみなぎらせてる。
 その変わりように心臓がうるさく跳ねた。

「気をつけてね」
「大丈夫だ、そんな顔すんなよ」
「うん」

 ヴィリとヴィムが私を抱きしめて頬を舐め、ローガーが頭を舐めた。

 3人が村の柵から出て兵団の幕屋へ行くのを見送る。怖い。返り血が付いてたのは、それだけ近い距離にいるってことだ。それだけ危ない。そして、戦えない私が今3人にできることはない。
 歯噛みをして深呼吸する。仕方ない。自分にできることをやろうと、気持ちを無理矢理切り替えた。

 医療用の幕屋へ近づいたら、入り口付近に患者と先生らしき人がいたので恐る恐る声を掛けた。

「すいません、何かお手伝いす」
「おーーー、いいとこ来た。こっちきて手伝え」

 言い終わる前に、年取ってるっぽい虎に手招かれた。松明の灯りの中、うつ伏せに寝てるオオカミ兵士の足元に座ってる。

「人間種は器用だって言うからな。こいつの足に刺さった棘を抜いてくれ。細かくて手が震えるわ、目が霞むわで」

 返事をする前にトゲ抜きを渡されて、トゲだらけの足の前に座らされる。

「この阿呆がションベンついでに棘の草むらに足を突っ込んだらしい。戦闘前にこんな怪我して」
「それはまた大変ですねぇ」
「……スンマセン」

 虎のだみ声に返事をしながら細くて硬いトゲを抜く。抜くのはいいけど松明の灯りだと揺れてムラができるから見づらい。全部抜いてから、オオカミの足を上に伸ばしてもらい、見逃しがないか確認した。

「ほー夜目が効かないのか。人間種も一長一短だな」
「そうですね。残ってませんか? 痛いところは?」

 オオカミは自分の足の裏を揉んで確かめ、大丈夫だと言って外の幕屋へ走って行った。私は虎のお爺ちゃん先生に向き直る。

「何かお手伝いをさせてもらいたいんですが」
「ああ、頼む。村人にも頼んでるが、器用なのがいると助かるな。怪我人が出ないのが一番なんだが、さっきみたいな阿呆もいるから」

 話してるうちに2人村人がやってきて、みんなで色々と説明を聞いた。

「そういや、名前聞いてないな」
「失礼しました。大背黒棕梠<おおせぐろしゅろ>です」
「え? シュロちゃん家族名あるの?」
「え? ありますよ?」
「なんで、奴隷と、まさか、……無理矢理?」
「え!? シュロちゃん、大丈夫?」

 なぜか、おおごとみたいな空気になってアワアワする。

「いやいやいや、えーと」
「大丈夫だ、奴隷紋があるから無理矢理はできん。しかし、あんた、いい家の娘か」
「え、いえ、ぜんぜん」
「あー没落か。まあ、家族名じゃ呼びにくいからシュロでいいだろ」
「はい、大丈夫です」

 手伝いでも仕事だからちゃんと名乗ろうとしたら、意外と大変なことになってしまった。こっちは家族名のない文化か、そっか。
 でも、それより引っ掛かることが。

「奴隷は、無理矢理はできないんですか」
「そりゃそうだろう。まあ、その手前まではできるけどな。なんだ? 脅されてるのか?」
「いえ、他の奴隷に嫌がらせされたことがあって」
「ああ、からかう程度なら奴隷紋も効かないしなぁ。弱い人間種なら痛めつけられると思ったのかもなぁ。まあ、本気で嫌がれば紋が発動するから大丈夫だ」
「……結構ギリギリじゃないですか」

 返事をしつつも、先生の話が頭でグルグルする。無理矢理はできない? ローガーが最初に無理矢理でもって言ったのは脅しだった?
 胸の中がモヤついた。でも取引に応じたのは私だし。うーん。無理矢理やらなくたって、ご飯と交換って言われれば自分から寝てただろうし、別に同じことかと思う。なのに、なんだろう。うーん、騙したから? 嘘ついたから? うん、そこかもしれない。ちょっと裏切られた気持ち。でも、あのときは会ったばっかりで信頼関係ないし。今は? あるのか?
 そこまで考えると、自分が一方的に信じてるだけなのかもと思い至る。私の身体的に危ないことから守ってくれるけど、それ以外はそうでもないのかもしれない。結構ショック。

 そのあとも雑談して、物々交換したフニの干し肉が美味しいという話になり、食べてみたいという先生に明日持ってくると約束した。
 和やかにお茶をすすってたら、遠くで爆発するような音がした。立て続けに花火が上がるようなそんな感じの。先生の顔が引き締まる。

「なんかやらかしたみたいだな。忙しくなるかもしれんから、準備して外にいるか」

 水を入れた桶や道具を置いたお盆いくつも用意して、布を敷いて待機する。緊張していたら、人を抱えて走ってくる兵士がいた。

「先生っ、次々運ぶんでよろしくお願いしますっ」
「おう」

 次々運ばれてくる患者を先生が診て、私たちにどうするか指示を出す。

「強めに押さえて血を止めろ」
「患部を水で洗え」
「この薬を塗って包帯巻いておけ」
「おい、シュロ。この傷口の周りの毛を剃っておけ」

 有無を言わさぬ先生から剃刀を受け取って言われた通り手を動かす。
 血塗れの人たちの中に3人はいない。でも、一歩違えばこうなってしまう。心臓がうるさいから、何度も深呼吸して集中した。目の前のやるべきことだけを見る。

 しばらくして落ち着き、空の向こうが薄っすら白み始めたころ、腕を押さえてヴィリが来た。

「……ヴィリ! 怪我したの? 血を、止めなきゃ」
「血は止まった。シュロは?」
「手伝いだよ。みせて」

 ヴィリの腕の血を洗い流して先生に診てもらい、傷口の毛を剃ってから薬を縫った。そこまで酷くない。ホッとして包帯を巻いた。

「今日はもう引き上げだ。兄貴たちも戻ってる。シュロも帰るぞ」
「片付けするから先に帰ってて」
「待ってる」

 動きそうにないヴィリを見て、先生が帰れと言ってくれた。治療に使った道具を片付けてから幕を出る。
 ヴィリは私の手を握って早足で歩いた。無言でちょっと不機嫌だ。

「ヴィリ、お疲れ様。どうしたの?」
「早く戻ろう、シュロ。すぐ抱きたい」
「え、あ、そう」

 戦いのあとは血が騒ぐんだっけ? ヤクザ映画かなんかで見た気がする。

 小屋に戻るとローガーが低い声だすし、ヴィムも気が立ってるみたいだし、戦いというのはそういうものなのかも。あんな怪我する人もいる。ちょっとの違えばすぐに命の危険があるから。
 血と呻き声を思い出してまた心臓がドキドキする。

 できるだけ気の済むようにしてあげたい。それは、守ってもらうだけの私にもできることだと思った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...