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1.持ちつ持たれつ
しおりを挟む「なんでお前を助けたと思う?」
「……親切、ではない?」
「親切じゃねぇなぁ。わかんねぇか? メスだからだよ」
「メス」
「まあ、ムリヤリじゃ俺たちも気分良くねぇから、こうして話してんだ」
「ムリヤリ」
「お前は外で魔獣に食い殺されずにすんでメシと寝床を手に入れる。俺たちはメスを抱ける。良い取引だろ?」
目の前に座るデカくてゴツイ豹が悪い顔で笑ってる。その後ろに立ってる細マッチョの豹は丸い目で無邪気に笑い、その隣にいるフワ毛の豹は戸惑ってるように見えた。
外を歩いていた私はいつのまにか、豹が動いて喋る世界線にきてしまったらしい。
大きい犬みたいな生き物に襲われそうになった私を颯爽と助けてくれたのは、豹頭の人だった。
剥製の全身タイツ!? マジヤバい、ヤバすぎるヤツに姫抱っこで運ばれてる! と震えてたら、ギュッと抱きしめて『もう大丈夫だ』って言ってくれた。いや、お前が大丈夫じゃねぇよと心でツッコミつつ、大きい体に大事に抱えられてる感じは心地よく、落ち着いた声が相まって安心感が湧く。
だから危ないと思った。全部がヤバいのに、この人を信用しそうになってる。わけわかんな過ぎて危機感メーターが壊れてる。
私が運ばれたログハウスみたいな小屋にはもう2人、豹の剥製を着てる人がいて息が止まった。状況がヤバすぎて固まってたら、自分たちは豹獣人だと言い、顔を触らせてくれたり口を開けてくれたりした。
やっと本物だと飲み込めた私に、3人兄弟がご飯を分けてくれた。囲炉裏みたいなかまどで串に刺した肉を焼いてて、その周りに敷物敷いて座ってる。肉は臭くて硬くてまずかった。湯呑みたいな木のコップでハーブのお茶を出してくれたのはありがたい。遊牧民ぽい生活様式かなと思う。知らんけど。知らんけど、文明開化の香りはまったくない。灯りがロウソクで、水瓶の水だから。
夜になる森で豹に保護された私は、電気も水道もガスもお風呂もトイレットペーパーもない場所にきてしまって頭を抱えた。控え目に言って最悪だと思う。
なんでココにいるのか聞かれたけど私だってわけわかんないし、知らない場所でどうしていいかわかんないし、ヤケになってそのまま話したら長男の豹が私に取引を持ち掛けた。
衣食住は保証するから抱かせろって。断ってもムリヤリ抱くから覚悟しておけってことかな。当面の衣食住を確保できるなら寝るぐらいお安い御用だ。というか、どっちかというと私がお願いする立場だと思う。なんでもするから置いてくれって。外に放り出されて生きていけるスキルの持ち合わせはない。
デカくてゴツイ豹と細マッチョな豹×2の3人なら、私なんかどうとでもできる。相手を好き放題できる状況で、こうして断りをいれてくれるのは随分マシな話だ。機嫌がいいだけかもしれないけど、それなら今のうちに交渉しておくほうが良いと変に冷静な頭で考えた。
「乱暴にしないでほしいんだけど」
「頷いてくれりゃ乱暴する必要ねぇ。優しくするさ」
「うん、はい、わかりました。優しくお願いします」
「わかってんじゃねぇか。賢いメスで助かるぜ」
「いつまで?」
「俺たちが飽きるまで、って言いてぇけどな。春になったら流刑地の担当官に引き渡してやるよ」
流刑地!? 担当官!? 恐る恐る囚人なのか聞いたら詳しく教えてくれた。
ぽっくり死んだ父親の、ギャンブルで作った山ほどの借金が発覚したせいで、3人まとめて借金奴隷に落とされたらしい。ここで魔獣駆除を13年やれば解放にされる。流刑地って言ってるのは、ろくな獲物がいなくて誰もこない場所だからだそうだ。
「狩りっていろんな素材が取れてお金になるんじゃないの?」
「ここの魔獣は金にならねぇから誰も狩りにこねぇ。なのに、繁殖力と食欲がやたら強いから駆除しねぇとそこら中、丸裸になるんだ」
ふーん、イナゴの大群みたいなもんか。やたらに増えて食いつくす。それは大変だ。
「話はもういいだろ。ほら寝床いくぞ」
「もう?」
「もうじゃねぇよ。外で襲われなかっただけ感謝しろ」
そうだね。説明してくれるなんてとっても親切。見た目に合わず紳士的とは口に出さない。だって豹だし。これが冗談として通じるものかどうかもわかんない、ポリコレ的に。沈黙は金というしね、うん。
「手と股間を洗ってね」
「はぁ?」
「綺麗にしてないとすぐ病気になるから。傷付きやすいから爪が伸びてたら触っちゃダメ。傷ができたらそこから病気になる」
「人間て、めんどくせぇな」
「臭いから体も洗ってほしい」
「……くそ、わかったよ。ったく、うるせぇの拾っちまった」
ガリガリ頭を掻きながらため息をつき、大きな桶を用意してる。ブツブツ言いつつも、お願いを聞いてくれるとはいい人だわ。見かけは悪そうだけど、押しはそこまで強くない。病院なんてないだろうから、取引材料のアソコは大事に扱わないと。
試しにした強気の交渉が大丈夫だったので、少し安心する。私から積極的に動いたほうが問題も少なくすむかもしれない。うん、そうしよう。
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