1 / 29
1.持ちつ持たれつ
しおりを挟む「なんでお前を助けたと思う?」
「……親切、ではない?」
「親切じゃねぇなぁ。わかんねぇか? メスだからだよ」
「メス」
「まあ、ムリヤリじゃ俺たちも気分良くねぇから、こうして話してんだ」
「ムリヤリ」
「お前は外で魔獣に食い殺されずにすんでメシと寝床を手に入れる。俺たちはメスを抱ける。良い取引だろ?」
目の前に座るデカくてゴツイ豹が悪い顔で笑ってる。その後ろに立ってる細マッチョの豹は丸い目で無邪気に笑い、その隣にいるフワ毛の豹は戸惑ってるように見えた。
外を歩いていた私はいつのまにか、豹が動いて喋る世界線にきてしまったらしい。
大きい犬みたいな生き物に襲われそうになった私を颯爽と助けてくれたのは、豹頭の人だった。
剥製の全身タイツ!? マジヤバい、ヤバすぎるヤツに姫抱っこで運ばれてる! と震えてたら、ギュッと抱きしめて『もう大丈夫だ』って言ってくれた。いや、お前が大丈夫じゃねぇよと心でツッコミつつ、大きい体に大事に抱えられてる感じは心地よく、落ち着いた声が相まって安心感が湧く。
だから危ないと思った。全部がヤバいのに、この人を信用しそうになってる。わけわかんな過ぎて危機感メーターが壊れてる。
私が運ばれたログハウスみたいな小屋にはもう2人、豹の剥製を着てる人がいて息が止まった。状況がヤバすぎて固まってたら、自分たちは豹獣人だと言い、顔を触らせてくれたり口を開けてくれたりした。
やっと本物だと飲み込めた私に、3人兄弟がご飯を分けてくれた。囲炉裏みたいなかまどで串に刺した肉を焼いてて、その周りに敷物敷いて座ってる。肉は臭くて硬くてまずかった。湯呑みたいな木のコップでハーブのお茶を出してくれたのはありがたい。遊牧民ぽい生活様式かなと思う。知らんけど。知らんけど、文明開化の香りはまったくない。灯りがロウソクで、水瓶の水だから。
夜になる森で豹に保護された私は、電気も水道もガスもお風呂もトイレットペーパーもない場所にきてしまって頭を抱えた。控え目に言って最悪だと思う。
なんでココにいるのか聞かれたけど私だってわけわかんないし、知らない場所でどうしていいかわかんないし、ヤケになってそのまま話したら長男の豹が私に取引を持ち掛けた。
衣食住は保証するから抱かせろって。断ってもムリヤリ抱くから覚悟しておけってことかな。当面の衣食住を確保できるなら寝るぐらいお安い御用だ。というか、どっちかというと私がお願いする立場だと思う。なんでもするから置いてくれって。外に放り出されて生きていけるスキルの持ち合わせはない。
デカくてゴツイ豹と細マッチョな豹×2の3人なら、私なんかどうとでもできる。相手を好き放題できる状況で、こうして断りをいれてくれるのは随分マシな話だ。機嫌がいいだけかもしれないけど、それなら今のうちに交渉しておくほうが良いと変に冷静な頭で考えた。
「乱暴にしないでほしいんだけど」
「頷いてくれりゃ乱暴する必要ねぇ。優しくするさ」
「うん、はい、わかりました。優しくお願いします」
「わかってんじゃねぇか。賢いメスで助かるぜ」
「いつまで?」
「俺たちが飽きるまで、って言いてぇけどな。春になったら流刑地の担当官に引き渡してやるよ」
流刑地!? 担当官!? 恐る恐る囚人なのか聞いたら詳しく教えてくれた。
ぽっくり死んだ父親の、ギャンブルで作った山ほどの借金が発覚したせいで、3人まとめて借金奴隷に落とされたらしい。ここで魔獣駆除を13年やれば解放にされる。流刑地って言ってるのは、ろくな獲物がいなくて誰もこない場所だからだそうだ。
「狩りっていろんな素材が取れてお金になるんじゃないの?」
「ここの魔獣は金にならねぇから誰も狩りにこねぇ。なのに、繁殖力と食欲がやたら強いから駆除しねぇとそこら中、丸裸になるんだ」
ふーん、イナゴの大群みたいなもんか。やたらに増えて食いつくす。それは大変だ。
「話はもういいだろ。ほら寝床いくぞ」
「もう?」
「もうじゃねぇよ。外で襲われなかっただけ感謝しろ」
そうだね。説明してくれるなんてとっても親切。見た目に合わず紳士的とは口に出さない。だって豹だし。これが冗談として通じるものかどうかもわかんない、ポリコレ的に。沈黙は金というしね、うん。
「手と股間を洗ってね」
「はぁ?」
「綺麗にしてないとすぐ病気になるから。傷付きやすいから爪が伸びてたら触っちゃダメ。傷ができたらそこから病気になる」
「人間て、めんどくせぇな」
「臭いから体も洗ってほしい」
「……くそ、わかったよ。ったく、うるせぇの拾っちまった」
ガリガリ頭を掻きながらため息をつき、大きな桶を用意してる。ブツブツ言いつつも、お願いを聞いてくれるとはいい人だわ。見かけは悪そうだけど、押しはそこまで強くない。病院なんてないだろうから、取引材料のアソコは大事に扱わないと。
試しにした強気の交渉が大丈夫だったので、少し安心する。私から積極的に動いたほうが問題も少なくすむかもしれない。うん、そうしよう。
11
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

二人の彼に溺愛されて [異世界は突然に……Anotherstory]
あみにあ
恋愛
私はある日突然この世界へ召喚されて、新しい世界で暮らす事になった。
そこで出会ったのは、俺様な王子様と、意地悪な魔導師、影のある騎士、王都の医者、そして聖獣。
女性が生まれなくなってしまった歪な世界。
右も左もわからぬ中、彼らと共に過ごした。
だけれども色々あって、私は別の場所へ飛ばされることになってしまった。
そこは普通では到達できない場所。
だから彼らにもう一度会うことは出来ない、そう思っていた。
でも目覚めると、そこには居るはずのない二人の姿があった。
※すでに投稿しております《長編:異世界は突然に……》のキャラが登場します。
※ストーリー性は薄いです。
※長編のストーリーを読んでいなくても、わかるようになっております。
以前コメントを頂いた際、ご要望頂いた二人と主人公を書いてみました。
現在進んでいるストーリー上では、到底作れそうになかったので、別の短編として投稿しております。
ご了承下さい。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる