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番外編2

4.話し合い

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 次の日の朝、オリヴァが会いに来ても顔を出さなかった。夜も同じ。
 でも、まあ、話し合いは必要だ。自分の行いのどこがどう悪いのか考えておくようにと伝えてもらい、明日の夜に話そうと約束した。

 どこがどう悪いのか?
 声が聞こえちゃったのは仕方がないけど、お取込み中だなってすぐ帰るでしょ? エチケットでしょ? 覗きたいなら覗いてもいいけど、いやあんまりよくないけども、それを本人に言うのはいかがか。しかもそれで不機嫌て、どうなの?

 私が何に怒っているかというと、盗み聞きだな。うん、そう、それは良くないよね。
恥ずかしい、恥ずかしくて怒ってるんですよ。うーん、違うな。それもあるけど、オリヴァに聞かれたくなかったのが大きいかな。他の夫と楽しんでるところを知られて大いに動揺してますよ。一番聞かれたくない相手に聞かれたんだし。
なんだろ、甘えてたからかな。エーミールへのお仕置きはそんなに気にならなかったけど。

 私の怒りの焦点が決まらないと、話し合いの論点がぶれるな。取りあえず、今後の要望を決めよう。
『その場に遭遇したらすぐに立ち去る』これだ、これに尽きる。

 話し合いにやってきたオリヴァの前に顔を出した。やっぱり硬い顔をしてる。私だって緊張してる。でも、止めて欲しいことは言わなくては。

「お仕事お疲れ様、オリヴァ」
「ありがとう。ユウナギ、悪かった」
「なにが、悪かったの?」
「聞いてしまって」
「うん。次からはどうすべきですか?」
「聞かないようにすぐ帰って、出直す」
「うん、そうですね。次からはそうしてください。他の夫とのことは見られたくないので見ないでください。聞くのもダメです。お願いします」
「……わかった」

 オリヴァが立ったまま俯いてるから、仲直りの意味を込めて手を繋ぐと顔を上げた。眉を寄せて口を引き結んだ不満気な顔を。
 ええーめっちゃ納得いってない顔してる。でも聞くのはダメだって。

「オリヴァは納得いかない?」
「いつもあんなに、甘えるのか?」
「たまにだよ。もう聞かないでってば」
「私には甘えない」
「……オリヴァが甘えるから、それでいいでしょ?」
「良くない。私のことはどう思ってる?」

 私の手を強く握り、必死な顔をするから困ってしまう。好きだけど、大好きだけどミカみたいには甘えれない。なんでかな?

「好きだよ」
「なら」

 焦った声で何か言おうとしたオリヴァを遮り、エーミールが呆れた声で口を挟んだ。

「グラウ、ここで愁嘆場を演じるな。甘えて欲しいのなら、それに相応しい態度を取ったらどうだ? 今のような剣幕で迫られて甘えられる女性はいない」
「……そうだな」
「…………ごめんね」
「っ、違う、私こそすまない」

 気まずい沈黙が広がって溺れそうだ。なんだか疲れた。気疲れした。今日はもうギブアップですわ。

「オリヴァ、明日の朝、森に帰るから送ってもらってもいい?」
「ああ、もちろん。……今夜は?」
「1人で眠るから」
「……私とは?」
「明日の朝、迎えに来てくれる?」
「なぜ? 許してくれたのではないのか?」
「許したよ。でも1人で眠りたいときもあるの。お願い」
「……わかった」
「ありがとう。お休み」
「お休み」

 不満そうな顔をしたオリヴァが消えて、ホッと息をついた。緊張した。

「ユウナギ、私の隣に。ワインを飲もう」
「うん、ありがとう」

 長椅子に座ってるエーミールの隣に行き、ゴブレットからワインを一口飲む。
 肩を抱き寄せられ、耳にキスを受けた。

「援護してくれてありがとう」
「私はいつでも妻の味方だ」
「頼もしいね」
「グラウと違って、な」

 からかうように言って笑った。
 エーミールさんは精神な余裕があるから安定感が違うな。軽く寄りかかったらため息が出た。

「困った。どうしたら満足してもらえるの?」
「なんで他の夫のことを気にしていると思う?」
「え、うーん、独占欲が強い?」
「それもあるが、暇なんだ。自分の役目が分からなくて暇だから、他が気になる。そういう奴には役目を与えた方が良い。自分が必要とされてると思えて安心するし、たまに褒美をやれば認めてもらえたと大喜びする」
「役目……、誰も役目とかないけど?」
「炭焼きはユウナギの保護役だろう? 私は相談役だ。森番は遊び相手。グラウだけ何もない。強いて言うなら連絡係だが、ユウナギ相手じゃなく全員の連絡だからな」

 だから、甘えられるのが羨ましいの? 自分が何かしてるって思えるのが良いのか? 他の人が何かしてるのに自分だけぼさっとしてると落ち着かない、みたいな感じか。
そんなもんかと思いながら、エーミールを見たら笑われて、鼻の頭を撫でられた。

「グラウにユウナギの世話をする役目を与えてやれ。そうしたら、少しは落ち着くはずだ」
「これ以上、お世話されたいことないけど考えてみる。ありがとう」
「礼に1人で眠るのは取り消してくれるか?」
「エーミールのベッドに1人で眠るけど、誰かが隣で寝ても気にしないよ」
「クッ、ハハハッ、詭弁が上手くなったな」

 美味しいワインと軽くスパイスの効いた鶏肉料理を食べながら、神殿の女性がどんなお世話を夫にしてもらってるか聞いた。着替えさせてもらうとか、髪のお手入れしてもらうとか、いいのかそれ? みたいなことばっかりだった。されるほうも面倒なんだけど。

 食事のあとは一緒に浴室に入り、一緒にベッドに入った。1人で眠ってるところにエーミールが来て邪魔しただけだから。エーミールが勝手に抱きしめただけだから。

 翌朝、エーミールの部屋で髪を結ってから帰る。送ってもらったら、オリヴァの部屋に飛ばれた。そうだわ、この人はこういう人だったわ。

 オリヴァに切ない顔で懇願されると切なくなるし、情熱的にキスされるとスイッチ入っちゃうし、私ってどうしようもないな。
それで、押し倒されて喜んでしまう。オリヴァの顔が好み過ぎるのがいけない。良くないと思いつつ押し負けしてしまう。

 好きなのに大好きなのに、迫られて嬉しいのに、なぜか亀裂が見えている。
 好きだけで終われないのが辛い。継続的な人間関係って難しい。


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