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70.一人の夜

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2話投稿 1/2


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翌朝、見送った。冷たい目で見られたら、傷ついた目で見られたら。怖くて仕方がなかったけど、最後だから、もう会わないからと自分に言い聞かせて、家を出るギリギリに起きて見送った。二人は振り返らず、いつもより早足で遠ざかった。

でも、私、ちゃんと最後の挨拶できた。頑張った。あとはオリヴァだ。髪を結ぶ約束した。目が腫れぼったいけど仕方ない。どうにもできない。
櫛とリボンを用意してオリヴァを呼ぶと、すぐ現れた。ひどく嬉しそうに笑っているので、ホッとして私も笑うと、強く抱きしめられた。

「おはよう、オリヴァ」
「おはよう、ユウナギ。会いたかった」
「うん、私も。・・・編むから座って」

大人しく座ったオリヴァの髪を櫛で梳かす。サラサラしていて綺麗な髪をリボンと一緒に三つ編みしていく。

「オリヴァの髪は綺麗だね」
「ユウナギに編んでもらうから綺麗に洗って香油も付けた」
「うん、良い匂いがする。・・さあ、できた」
「ありがとう。ユウナギ、座って」

私の髪も結ってもらう。オリヴァは器用だ。三つ編み覚えたばっかりなのにスイスイ編める。でき上がったのでオリヴァが帰るかと思いきや、もう少しいると駄々を捏ね、チュッチュッとキスをして何とか帰った。
この調子で続けたら早晩飽きるんじゃないかな、私に。
・・・こんなこと考えなかったのに。
悲しかった。忘れたかった。でも、もうここを出て行くんだ。
自分のカバンに詰め込んで行く。アルとベルから沢山貰った。服も櫛もナイフも食器もスープの作り方も敷き藁の草も水汲み場所も。

行く場所がなかったので、荷物を持って池に行く。食べ物がないので黒パンとチーズを一切れずつ貰った。捨てられないのでカバンに入れっぱなしだったペットボトルに水を入れて出発する。
少し泣きながら、池に着いた。
せっかく贈り物の準備をしたんだから作ってしまおう。作って、置いてきたらそれでお終い。そしたらやり残しがなくなって、気に掛ける要素が一つ減るはず。名前の刺繍はイニシャルだけにしようか。うん、そうしよう。その代わり丁寧に。

たまに水を飲みながら黙々と刺す。あまりお腹は空かなかった。一口ずつ食べる。トイレは場所を決めて茂みにした。草を抜いて空いた穴を使う。使ったら抜いた草を置く。おしり拭き葉っぱも持ってきた。明日から自分で摘みに行かないと。
薄暗くなったので刺繍は中断する。この調子だと明日には終わるな。夜はオオカミ来るかな?他の動物は来るかな?シカは近付かないだろうけど他に何がいてどうなのか全然わからない。
木の上?木登り無理。幹にナイフで傷つけて足場作る?・・・幹、硬っかっったっ。もっと柔そうで枝が下にもある木は無いのか!?

そのあと、滅茶苦茶苦労した。思いつくこと全部やって物凄く苦労して登った。そして、木の上じゃ眠れないことに気付く。

寝たら死ぬ案件じゃん。死なないかもしれないけど骨折って苦しむ、苦しんで五日かけて死ぬくらいの高さじゃん。一番取れるぐらい嫌な死に方だな。縄で体縛りつけないと無理じゃない?あーあ、夜の間中ここに居るの?寝ないで何すんの?意味わかんね。

木に登るのに滅茶苦茶苦労したあいだに真っ暗になって、青い月が見えた。月は綺麗で、青くて、ただそれだけで悲しかった。逃げ出したいと泣いたけど、追い出されるとは思わなかった。自分は逃げたいのに相手からの好意が変わるなんて考えなかった。傲慢すぎる。
何がダメだったかも教えてくれなかった。小さいことが積み重なり過ぎたのかな。小さいことって言い辛くて、でも小さいからあちこちで溜まって、いつの間にかいっぱいになってしまう。

私、言われないとわからない。アルは優しいから言えなかったのかな。夫だからって夫の責任感で背負って背負いきれなくなったのかな。わからない。お前調子に乗り過ぎなんだよ!とかアルは言えなさそうだし。偉そうなんだよ!とか、上から目線かよ!とか。あーあ、最悪じゃん、私。

明日、オリヴァの髪結いどうしようか。オリヴァの部屋に行って結ぶのが良いかな。なんか逢引き臭いな。ははは。
オリヴァの部屋に住みたいと言ったら、きっとすぐ住める。そうしたら、もう森には住めない。アルは魔法使いのところに行けって言ったけど、本当に行ったらもう二度と顔向けできないだろうな。アルは私を森から排除するのかな。そしたら、どの道、森にいれない。

ミカちゃんには会えるかな。ミカちゃんは森の眷属だからどうなるんだろう。ミカちゃんとも離れないって約束した。でも、もう違うかも。必要かどうか、確認しなきゃいけない?そんな辛いこと。必要ないって言われたら、息が苦しそう。その場で泣き出すな。

夜は長いな。酒も無いのに。お酒で誤魔化せないよ。ただ辛いだけだ。

転移する前のことを思い出す。したこと、しなかったこと、言ったこと、言わなかったこと、逃げたこと、あんな態度だったこと、できなかったこと、あんなこと、ボロボロと零れるように思い出す。
無神経で無責任で自分勝手なことだらけだ。私は加害者の立場で、気付いたときには後の祭り、謝れもしないまま。申し訳ないと思ってもそれが相手に対してなのか、自分のやらかしを軽減するためなのか分からない。自分が加害者だということに苦しんでいる。
どこまでも、自分のことだけだ。
今度は気を付けようと思ったのに。折角、最初からやり直しできたのに。同じだった。

泣いたり、ため息をついたり、夜は長かった。月は煌こうと青く無機質で、ただそこにあるだけ。


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