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41.決心 Side グラウ

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Side グラウ

森番の家の中、私だけが夫ではなかった。
夫は彼女を腕の中へ迎え、彼女は夫を受け容れる。

ヘルブラオが婚姻してから彼女の送り迎えは私の役目になった。ヘルブラオの妻の座はやっかみを生む。私はヘルブラオに興味がないから丁度いいそうだ。

実際、他の連中から煩く横やりが入った。ヘルブラオがいきなり婚姻したことは驚愕され、派閥争いが好きな奴らは必死に相手を探った。ヘルブラオに色目を使ってた奴らもしつこかった。筆頭の妻の座が奪われたんだ、狙ってた連中は随分と腹を立てていた。
私が送迎しているのは明らかだから、しつこく付き纏われた。ヘルブラオに直接聞けとあしらい、無視もしたが随分と面倒だった。

それでも彼女の送迎は私の気持ちを浮き立たせた。
彼女に触れることが出来るなら、なんでも良かった。飛ぶ為に素手で触れる必要はない。必要ないが、私は触れたかった。もう一度、あの柔らかく暖かな手に。
送り迎えのたびに触れた。理由を付けて何度も。

彼女はいつも俯いていた。私が怖いのだろうか?彼女の手は私の手の中でじっとしている。微かに震える時もある。
夫とはしっかりと手を握り合っていたのに。私が彼女に手を握り返してもらえることはない。

彼女の手に触れた部分に口付ける。欲望は膨らむ。彼女に触れた手で自分を慰めた。彼女に触れられたい。彼女の手で私を慰めて欲しい。

ヘルブラオが彼女に口付けた。
そうだ、手だけじゃない。彼女となら口付けも出来る。唇の隙間に舌を差し込むことも。肌を合わせることも。体の奥に隠された部分へ入ることも。彼女となら出来る。

治癒魔法が使えるから医療についても習った。女性の体の構造も分かる。どうやって性交するかも分かる。隠れて性交してる見習い達を見たことがある。男同士だったが、同じ様なものだろう。だから、私にだって彼女を抱くことが出来る。

彼女の暖かい肌が欲しい。暖かい手で抱いて欲しい。寂しい。一人で眠るのは寂しい。こんなに、こんなに触れたいと思うなんて。
やっと分かった。周りの連中が寝て歩くわけが。やっと分かった。妻を乞う気持ちが。

私の気持ちに気付いて欲しい。彼女に振り向いて欲しい。自分の手に口付け、彼女の手を握る。私の口付けが彼女に移るように。
私の方を見て欲しい。私にも笑い掛けて欲しい。夫達にするように。彼女が私を見て、笑って、駆け寄って、抱きしめてくれたら!どれほど嬉しいだろう。どんなに幸せだろうか。

彼女が俯き体を強張らせるたび、悲しみが胸に渦巻く。私の想いは伝わらない。

一目見たくて、昼間、石の元へ飛んだことがある。彼女は夫と昼食を食べていた。顔を見合わせて微笑み、触れ合いながら。
私はそれをただ見ていた。木陰に隠れて。

幸せそうな光景が、私の胸を締め付けた。私は一人で、隠れて、部外者だった。

食事が終わると二人は口付けを交わした。とても愛しそうに。そして、夫の手が彼女の体に這わされ、彼女は声を上げた。
目が離せなかった。喉がヒリ付いて、体中が膨らんだようで動けず、ただ二人を見ていた。彼女の足が露わになり、夫と重なり合う。愛を囁き合い、歓喜の声が上がる。
体の中を嵐が吹き荒れ、二人が睦まじく去った後も動けずにいた。しばらく後、我に返り、体が震えているのに気が付いた。

上に休みを伝え、すぐに自室に籠もった。体は熱いのに冷や汗が流れ、下着はドロドロで気持ち悪かった。お湯を用意して体を擦り、湯船に沈む。彼女の声と彼女の足と、愛しげな微笑みが浮かんでは消えた。彼女の体温は、この湯温くらいだろうか?
鳥肌が立ち湯船から逃れる。床に蹲って震えても幻影は去らなかった。彼女の声を彼女の体の動きを思い出して、夢中で扱いた。何度吐き出しても熱の塊は腹の中で蠢き、胸の痛みはキリキリと私を絞り上げた。

虚しく、フラフラと立ち上がり顔を洗って後始末をした。
溜め息と共に掛布に包まる。苦しみで啜り泣いた。彼女に会いたくて会いたくなくて会いたくて、わけが分からなくて、触れたかった。私も、私も彼女に触れたい。

小指の婚約者はいなかった。
小指の指輪に口付けていたのは、なぜだ?以前の婚約者の指輪?以前の夫?忘れられない相手なのか?
私の指輪をしてくれるだろうか?

ヘルブラオが五人目を探すと言った。彼女はこれ以上欲しくないと言った。
欲しくないのだと。

でも、五人は必要だ。なら、私でもいいのではないか。ヘルブラオにだって敵対していない。派閥に属さず、誰とも付き合いがない。しかし、ヘルブラオには益がない。あいつは私の求婚を許可しないだろう。私はこのまま黙って、あいつの選んだ婚約者の元へ彼女を運ぶのか?今のように?

ゾッとして、皮膚にビリッと魔法が走った。

どうにかして彼女に求婚を受けて貰いたい。ヘルブラオじゃダメだ。あいつがいない時に彼女に会わないと。彼女の送り迎えの時?でも、大抵彼女一人だ。求婚は夫の前じゃないと無効にされてしまう。いつもは嬉しいのに不利になるなんて。
こんなこと知られたら、彼女の送り迎えから外されるかもしれない。
ああ、彼女が受け取ってくれなかったら?もう、二度と会うことができなかったら?

焦燥に苛まれ、頭がおかしくなりそうだった。

求婚できる機会があれば逃さず求婚すると決めた。彼女の左手を取る練習をする。
『手を』と言うと静かに手を差し出してきた。飛ぶために必要だと思っているのだろう。飛ぶたびに手を握っていたのだから。必ず左を指定する。その時の為に。


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