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10.笑っちゃう Side リディア
しおりを挟むSide リディア
頑丈だから私で良かったって言われて、あぁまたかって思った。働かせるなら丈夫なほうがいいに決まってる。私は奴隷だから。そんなこと知ってたのに、スッとお腹が冷えた気がした。
でも、違った。違ってた。そういうんじゃなくて、ただ力加減が面倒だって。ジェイクらしくて気が抜けて笑ってしまった。
働き者だから嫁にきてほしいって言われたのは『働き者』だから。畑仕事はキツイし、働かないと食べていけないから当然だ。子供を売るくらい貧しいんだから余裕はない。知ってるし、私もそう思う。でも、私より力がなくて私より働かない女たちも愛されてた。大事にされてた。私は働いてもダメだったのに。
そういうことを思い出してたのに、ジェイクはぜんぜん見当違いなことを言うから、なんかびっくりしちゃう。
反応ないって落ち込んでるから、慌てて『気持ちいい』って言っちゃって、私は恥ずかしいのにまったくわかってないし。私みたいのが感じてるって、恥ずかしくて我慢してたのに。なんで顔が赤いのか聞くし。私を小さいって言うし。ジェイクが変すぎて話通じなくて大変だった。
それに、『ヘタクソなヤロー』だって。
偉そうだった夫があまりにもあっさりこき下されたから、呆気にとられたあとで笑いがこみ上げた。
そうよ、あんな偉そうにしておいて、本当に下手くそだった。散々私のことバカにしたくせに、自分こそ大したことないじゃない。大したことないどころか、ぜんぜんダメじゃないの。
私に覆い被さっていた大きくて暗い影が、ジェイクの言葉に吹き飛ばされてちっぽけなものに変わった。
だいたい、私と結婚したくないなら自分の親に言えばいいのに、親に反抗できないからって私に当たってさ。妹が好きだったみたいだけど、妹に迷惑がられてたし。
私のことゴツくてデカいって言ってさ、自分が小さいだけでしょ。本当に嫌な男だった。
ふふっ、ヘタクソだって。ふふふっ。本当にヘタクソ。
湧き上がった怒りも笑いに溶けていった。すごくおかしくて、すごく心が軽くなる。
そのあとで、ジェイクが私を呼んだ。熱い息と一緒に私を呼んで、燃える目で私を見た。ギラギラした銀色に射すくめられて、体に突き刺さったみたい。
『かわいい』って本当? 驚いてたらもう一度言われて、甘く痺れた。
ジェイクの優しい指と舌で体が動く。声を聞きたいと言われて頭に血がのぼった。そのあとは分からないけど、ジェイクにされること全部が気持ち良くておかしくなったと思った。何度も名前を呼ばれて、恥ずかしくて嬉しくて幸せで、何かがいっぱいになって体の中で弾けた。
あんなに出すのが恥ずかしかった声も、ジェイクが喜ぶと嬉しくて我慢ができなかった。動いてしまう体もどうにもできない。ジェイクに抱きしめられて求められて夢中になった。
いつの間に眠ったのか起きたら朝だった。
抱き上げられてシャワー室に入り、そこでも求められた。明るくて恥ずかしいけど、ジェイクはぜんぜん気にしてなくてただ私を抱く。夢中になって抱かれるってすごく幸せだと知った。
ジェイクが出掛けたあとは、いつも通り掃除をした。たまに『ヘタクソ』を思い出しては笑う。私はけっこう根に持つほうなのかもしれない。
ジェイクは獣人だからか、お金持ちだからか、ぜんぜん違っててわけわからない。だから話さなきゃいけないんだと思った。
やらなきゃいけないことを、ちゃんとやってればそれでいいって思ってた。一生懸命働いてればそれでいいって。でも違ったのかもしれない。もっと相手と話し合ったり、どうしたいとか聞くことも必要だったのかも。
知らないことがたくさんある。それを知りたい。新しい風が吹き込んできたみたいだ。
ジェイクの帰ってくる時間が近づくと、落ち着かない気分になった。昨日も今朝もあんな声出した自分が恥ずかしい。変だったと思うけど、ジェイクが出せって言うから。
ジェイクが私を呼ぶ声を思い出して、顔が熱くなった。
いつもより遅い時間に返ってきたジェイクは布を一巻きかかえていた。
「お帰りなさい」
「おう。これ」
「ありがとう、……私の服の?」
「自分で縫うんだろ。これでいいのか? 足りなかったら言えよ」
「大丈夫。こんなに……、ジェイクの服も作れそう」
「俺のはいらねぇ。自分のモンを好きなだけ作れよ。一着じゃ足りねぇだろ」
「……ありがとう」
私のために用意された、たっぷりした柔らかい布。自分のために全部使っていい、私だけの布。昨日言ったばかりなのに、当たり前のように買ってきてくれた。
ジワリと涙がこみ上げて、瞬きしたらこぼれた。あとからあとから出てきて止まらない。
「おい、なんだよ、なんかダメか? 違うモンがいいのか?」
ジェイクが焦ってオタオタしてる。私のことでこんなに慌ててくれるのが嬉しくて、涙を拭って笑った。
「……私のためにってもらったことないから、嬉しくて」
「それなら、いいけどよ」
「本当にありがとう」
この人は昨日から、ううん、最初から私に嬉しいものをくれる。美味しい食事も、温かいシャワーも、気持ちを軽くする言葉も、心配してくれる優しさも。
「私、ここにきて良かった。ありがとう」
感謝を込めてお礼を言ったらジェイクに抱き上げられて、ベッドに連れ込まれた。手に持ってた布を取られて、テーブルの上に投げられるのを肩越しに見る。
私の布……。
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