お願い事は唱えなきゃ

流風

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願いを流星にのせて

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 とっても内気な男の子。

 言葉にするのが、声に出すのが苦手な男の子。

 お父さんと、お母さんと、年の離れたお兄ちゃんと4人暮らし。

 お父さんは仕事であまり家にいない。

 お母さんはパートのお仕事をしてる。僕の学校が終わる頃には家にいるけど、いつもスマホを見てる。僕の話を聞く時もスマホを見てる。

 僕の大好きなお兄ちゃん。よく遊んでもらったのに、最近、スマホを買ってもらってから、ずっとスマホ見てる。
 お母さんと一緒だね。

 僕にはスマホがない。

 だから、いつもみんなを見てる。

 でも、皆んなは僕を見ていない。



 一人でテレビを見ていると流星群が流れるってニュースが流れた。
 以前、お兄ちゃんと家の隣の公園で見たな。あの時は流れ星2つしか見れなかったけど。二人でホットココアを飲みながら見に行ったんだ。
 隣の公園だったけど。
 親がいない、お兄ちゃんと二人だけで夜の公園に流星群を見に行ったのは、小さな僕には大冒険でドキドキしたんだ。

 また、一緒に見に行ってくれないかな。

「お兄ちゃん」

 お兄ちゃんを見ると、イヤホンをしてスマホを見ている。

 諦めよう。

 やっぱり難しいな。
 口に出して誰かと会話するのは。誰かに僕の考えてる事をわかってもらうのは。



 一人で夜の公園に来てみた。誰にも言わずに出てきたけど大丈夫だろう。隣の公園だし。
 夜の公園は寂しいな。やっぱり、お兄ちゃんに一緒に来てもらいたかったな。

『今年は一人で来たんだね』

 誰だろ?

「うん。今年は一人なんだ。君も一人?」

『そうだよ。僕も一人。ねぇ、一人で来て寂しくない?』

 ーーー寂しいよ。

 僕は思わず無言で俯いてしまった。
 寂しいって言えなかった。寂しいって認めちゃダメなんじゃないかって思った。寂しいって認めても、どうにもならないって思ったから。

『そんなことないよ』

「え?」

『寂しいって認めてもいいんだよ。自分の思いを、考えを大切にして。口にして相手にわかってもらうのを諦めないで』

 空を指差し、優しい声音で僕に言ってきた。

『本当はどうしたかったの?流れ星に願い事をすると叶うんだよ。さぁ、声に出して言ってごらん。お願い事は、まず唱えなきゃ』

 その瞬間、空に大量の流れ星が流れた。

 ーーー流星群だ。

『さあ!早く!』

 目の前の信じられない光景。僕は思わず涙を流しながら叫んだ。

「昔のように、またお兄ちゃんと一緒に流星群が見たいよ!!」

「なんだ、お前そんな事思ってたのか?」

「え?」

 さっきまでいた子はいなくなってた。
 かわりに、お兄ちゃんがそこに立っていた。

「こんな時間に外に出るなよ。いないから心配したぞ。なんだ、流れ星でも見たかったのか?」

 そう言いながら、お兄ちゃんは僕の隣に立って空を見上げた。まさか、お願い事が叶ったの?

「うん。今日は流星群が流れる日なんだって」

「流星群か。2年前に一緒に見たな。よし、もう少し暖かい格好して一緒に見るか」

 暖かくして、椅子も持って来て、お兄ちゃんと並んで星を見る。
 今、お兄ちゃんの手には僕と同じホットココアが握られてる。

「あ、また流れたぞ。今年は多いな、流れ星」

 お兄ちゃんの目は、僕と同じ星空を見つめている。

「うん。流れ星たくさんだね。あのね、流れ星にお願い事を唱えると叶うんだって」

「じゃあ、早口で言えるように頑張らないとな」

 お兄ちゃんの耳は、僕の声を聞いてくれる。


 本当にお願い事が叶うんだよ。だって僕、叶ったもん。
 誰だかわからないけど、あの子の言ったとおりにして良かった。あの子のお願い事も叶ってるといいな。

 僕は唱えるよ。諦めず、きちんと、声に出して。

『お願い事は唱えなきゃ』

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