13 / 26
現実逃避の末
しおりを挟む「完全に閉じ込められたね」
希星がドアを開けようと頑張るが、鍵がかけられている。
「この部屋にゾンビはいないみたいだな。それだけが救いだな」
「怖い事言うなよ!……本当にいないよな?」
2人で室内を調べたが、誰もいないようだ。それに関しては安心したが………。
ぐ~
「月偉… お腹減った」
「走り回ったからな。俺も喉が渇いた」
閉店してしばらく経つ店舗には、飲み物や食料は見当たらない。蛇口を捻れど水道も止めているようで水は出なかった。地下のため、細い換気や明かり取りのためであろう窓があるだけの部屋には脱出できそうな所もなく、お手上げの状況だ。
「目的が何かはわからないが、このまま閉じ込められているだけでもマズイな」
明かり取りの窓から僅かに差し込む光が、徐々に小さくなっていく。もう少ししたら、完全な暗闇の中、水も食料もない状態で過ごさなくてはならない。2人は話し合った結果、2人目の仲間へとテレパシーで助けを求める事にした。
「上手くいくかな?」
「わからん。相性の良し悪しと相手との距離も関わってくるからな。上手くいくといいが…」
「へぇ。じゃ、月偉と俺は相性バツグンってことか」
「アホ」
月偉は触れる程度の小突きを希星すばるにし、2人目へとテレパシーを送るべく集中し始めた。
その月偉を見ながら希星はくすぐったいような恥ずかしい様な喜びを1人噛み締めていた。
希星は龍太との関係があったため、友達が出来なかった。こんなに冗談を言ったり旅をしたりする相手はいなかった。だから、こんな状況でも内心は嬉しくて…楽しくて仕方なかった。
(不謹慎だって怒られそうだから言わないけど、俺の人生の中で今が一番、正しく生きてる気がする)
そんな事を考えてる間に、月偉はテレパシーを送り終えたようだ。溜息を吐きながら疲労の色が顔に浮かんでいる。
「なぁ月偉。2人目のヒロインが、か弱い女の子だったら、ここまで来れないんじゃないか?」
「………大丈夫だろ」
(か弱いだけの奴を2人目にしないだろ)
「でも、女の子なんだよ?危なくないかな?あ~、心配になってきた」
「…………大丈夫だろ」
(こいつ、1人目が男の俺だった事完全に忘れてるな)
「ヒロインちゃんが来たら、絶対に俺よりも月偉に夢中になるだろうな。いいなぁ、美形は」
「あまり考えなくていいと思うぞ」
(絶対に希星がイメージしてる奴は来ないだろうな。ま、面倒くさいから伝えないが)
そんな会話をして気を紛らわし時間を潰した。しかし、いつまでも会話を楽しむ事はできない。
「のど、かわいたね」
「あぁ。今、何時くらいかな。あれからだいぶ時間が経ったな」
部屋の中は真っ暗だった。左肩に触れる月偉の体温だけが、自分は1人じゃないと安心させてくれる。
「助けは…来るのかな?」
希星が呟いたその時、
ドゴンッ!!!!! ブワッ! ガンッ!!!!
ドアがひしゃげながら、物凄い勢いで飛んできて希星の右側の壁へと激しくぶち当たった。そのドアを見つめながら希星と月偉は青褪め固まってしまった。
「おお!雑魚ども!生きてるか?!助けに来たぞ!」
ベリーベリーショートの髪型、グレーのツナギを着て何やらドラ○もんの秘密道具『空気砲』の様な物を持っている20代らしき女性が入口に立っていた。
「………え?あの……味方?…敵?」
「希星、たぶんアレが2人目のヒロインだ」
「……え?」
狼狽える希星。こうなるだろうなと予測し希星を慰めようとそっと希星の肩に手を乗せる月偉。
そんな2人に気づかず、2人目のヒロインは話を続けた。
「見ろ見ろ!雑魚ども!これがお前達を助けた私の大発明品、その名も『空気砲』だ!凄いだろ!」
そのまんまだな!その大発明品、未来の猫型ロボットが持ってますよ!
嬉しそうに手に持った物を撫でている女性を見つめ、希星はボソッと呟いた。
「清楚系美少女…?」
「だから、大丈夫だと言っただろ?それよりも大きな音を出したからな。ここから早く逃げた方が良い」
「おい!お前達!私の発明品の素晴らしさを…」
「うるさい。騒ぐな。希星、ゾンビが集まってくる。場所を変えるぞ」
いくぞ。月偉のその一言で3人は急いで逃げ出した。
3人は再び駄菓子屋へと逃げ込んだ。喉を潤し落ち着いた所で希星と月偉は自己紹介をした。
「希星と月偉か。よろしくな!私は櫻子、発明家だ。ちなみに好みのタイプは引き締まった細身に筋肉が美しく、凍てつく様な眼差しを持ちつつも知性が感じられる高身長イケメンだ。メガネが似合えばなお良し。いたら教えてくれ」
「「………はい」」
希星と月偉はお眼鏡にかなわなかったようだ。希星は「あれ?なんか俺の予定と違うぞ」と思いながら首を捻り、そんな希星を横目に見ながら月偉は缶コーヒーを飲んで体力回復に努めた。
「いいか、この『空気砲』は、ここから物凄い空気の衝撃波を放つ。このまま使うと自分の体にも反動で衝撃がくるから衝撃吸収のために…」
発明にしか興味がない櫻子。櫻子がひたすら語る発明品の話を聞き流しながら一晩3人で過ごし、休憩もかねて情報交換・交流を深めていった。
翌日、疲れが癒えたとは言えないが、ゆっくり休めた希星と月偉。昨日の出来事について、さっそく検証を始めた。
「この街はどうしてゾンビだらけなんだ?欲念珠の効果とはいえゾンビだらけになる欲ってなんだ?」
希星はずっとわからなかった謎をボソッと呟いた。なぜ、わざわざホラーな街を作ったんだ?
「ん?人生が嫌になったからじゃないのか?」
「は?」
当たり前のように言ってくる櫻子に、希星はキョトンとした顔を向けた。
「若い頃、嫌な事があると考えてるんじゃないか?『異世界に転生しないかな』『世界が滅べば良いのに』『目が覚めたら世界が一変してないか』とか。周りを巻き込み自分の状況をガラリと変えてやろうって。その延長線上の発想じゃないか?自己中な奴の破滅的発想だな。現実逃避、ヤケになった、復讐心、何かはわからんが、ドロドロとした負の感情には間違いないな」
なるほど。言われてみればそんな事も考えた時期もあったっけ?現実には起きないから、普通は考えるだけで終わるが、そんな歪んだ思いも実現させるのが欲念珠か。
「私は機械工学が専門だから詳しくはわからんが、欲念珠が新種のウイルスの類のものだとすると、ゾンビと化している者はすでに死んでる可能性は高いな」
「そうか…」
この状況を見て、欲望の元となった人はどんな気持ちなんだろうか。
「さて、親玉の所にある欲念珠を回収に行くんだろ?さっそく行こうぜ」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
化想操術師の日常
茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。
化想操術師という仕事がある。
一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。
化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。
クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。
社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。
社員は自身を含めて四名。
九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。
常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。
他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。
その洋館に、新たな住人が加わった。
記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。
だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。
たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。
壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。
化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。
野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる