俺にヒロインは訪れない

流風

文字の大きさ
上 下
7 / 26

新たな街へ

しおりを挟む



 希星すばるは、ラブストーンが指し示す方角へ向かって再び移動を開始し、都市へと辿り着いた。

「うわぁ…。大きな街だなぁ。俺、こんな所初めて来た」

 たくさんの建物と、人、人、人。そして、たくさんの布製品が並んでいる。どうやらこの都市の名産品のようだ。上を見上げても、横を見ても色とりどりの布が目を楽しませてくれる。
 通り過ぎて行く人達も皆、おしゃれな服装をして楽しそうにしている。明るい雰囲気に包まれているこの街では、問題は起きてないようだな。そう思いながら、腹を満たし情報も得られる食堂へと足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ!」

 可愛い看板娘が元気に出迎えてくれた。いい…。良いよ!

 昼の混雑の時間を少し過ぎたくらいの時間で、店内もゆとりある空気が漂っている。空いてるカウンター席に座り看板娘に日替わりを注文する。希星すばるすばるは料理が来るまで水を飲みながら周りの会話に耳をすませてみた。

「最近、うちの子が反抗期で…」
「腰が痛くてよ~」
「また、女の子が行方不明らしいわよ」
「そこの角の占いの館の美人占い師さん、行方不明になったって。あぁ…私の目の保養が…」

 どうやら、この街では誘拐事件が発生しているようだ。美人占い師さんかぁ。気になる。

「お待たせしました。今日の日替わり定食です」

「ありがとう。ねぇ、今この街に来たばかりで教えてほしいんだけど、誘拐事件が発生してるの?」

 可愛い看板娘の顔が曇ってしまった。

「…はい。1週間くらい前から人が行方不明になる事件が発生してて…。神隠しだって言う人もいるんですが。いなくなった子は皆んな若くて美しい人ばかりで…。もっと賑やかな街だったんですが、みんな怖がってしまって、少しずつ活気も減ってきているんですよね」

 これより賑やかだったのか。希星すばるは今でも人混みに酔いそうなのに…。そうか。これ以上賑やかなのか。
 生活できないな。
 仕事が残っているという看板娘に礼を言い、希星すばるはそっと水を飲み食事をしながら再び耳を澄ませることにした。



 特に新しい情報も得られないまま、食事を終え、食堂を出て近くの占いの館に行ってみた。人気の占い師だったらしく、店付近で占い師を心配する声がよく聞こえた。占いの館に辿り着いたが、当然店は閉まっていた。

 店前で主婦であろう数人の女性が、路上にたむろして年齢に見合わない黄色い声で高笑いし、井戸端会議をしていたが、希星すばるが横を通りかかると、意味不明なドヤ顔で舐めまわすように見てきた。

(うざっ)

 主婦達の視線は無視だ。無視。
 しかし、占いの館前で店舗の様子を伺っている希星すばるの姿を見て、主婦達は会議を中断した。

「あら…あなたも占いに?残念だけどルイ様は神隠し事件に巻き込まれたみたいで留守なのよ」

 片手を頬に当てながら心配そうに言っている。占い師はルイちゃんっていうのか。可愛い名前だな。
 主婦は…特に井戸端会議をしている主婦は情報をかなり握っている。希星すばるはこの主婦達から話を聞き出す事にした。

「そのようですね。残念です。いつから行方不明なんですか?」

「2日前からよ。最後に白いローブの人と一緒にいたっていう噂もあってね…。占い師仲間とどこかに行ってるだけならいいんだけどね」

「白いローブですか…。凄く美しい人だって聞いたんですが…」

「「「そうなのよ!」」」

 主婦達は声を揃えて凄まじい剣幕で喋り始めた!

「あんな綺麗な人見た事ないわ!」
「綺麗で長い黒髪を横に流すように編み込んで…」
「神秘的な美しさがまた…」
「「「サイコーなのよね~」」」

 彼女達はすでに希星すばるの存在を忘れてしまっていた。再び占い師について井戸端会議を開始し始め………どこか出てきたんだ?!一人が菓子を取り出し、皆んなに配り、食べながら井戸端会議を続けている。凄いな…!家に帰って座って話せばいいのに。しかも会話の内容がとりとめがなく、理論がなく、果てしない話だ。

 女性のパワーの凄まじさを見せつけられ、引くように希星すばるは占いの館を後にした。



 日も落ち始めてきたため、希星すばるは安宿を探し、チェックインを済ませた。この街に来るまでそれなりの移動距離だった。食事なしの宿だったため、屋台で買った物で夕飯を済ませ、疲れた体を共同浴場で清め、希星すばるは早い時間に就寝する事にした。


 するとその夜、不思議な夢を見た。

 ーーーたすけて

 ーーーつかまってる

 ーーーせかいを すくうと よげんされた

 ーーーわたしは うらないし

 ーーーびきちょう にいる

 ーーーおんなのひと たくさん つかまってる

 希星すばるは飛び起きた。夢?夢なのか?ビキチョウ?世界を救うと予言?もしかして、ヒロイン3人のうちの一人からのSOSか?占い師って言ったな。もしかして、美人占い師?
 いやいや、ただの夢だしなぁ。

 そう思いながらもチェックアウトの際に宿の主人にビキチョウを知っているかと聞いてみると、

美祈町びきちょうだろ?ここから続く谷間を越えた所にある町だな。行くなら注意しろ。変な宗教が流行ってるらしくて、行くと勧誘されるぞ」

 宗教勧誘か…。気をつけよう。
 しかし、夢に出てきた町が実在するとは。やはり、あれはただの夢じゃなかったのかもしれない。気になるな。
 もし、ヒロインが美人占い師だったらどうしよう。颯爽と救出してカッコいいところを見せないといけないな。

 希星すばる美祈町びきちょうを目指す事にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

望月何某の憂鬱(完結)

有住葉月
キャラ文芸
今連載中の夢は職業婦人のスピンオフです。望月が執筆と戦う姿を描く、大正ロマンのお話です。少し、個性派の小説家を遊ばせてみます。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...