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第4章 フォルトゥナ
捻じ曲げられた未来
しおりを挟むーーーロゼ王女が死んだ。
その話を聞いてレイモンドは激しい後悔に苛まれた。
ーーー もしもあの時、戦に負けなければ
今となってはもう遅い。ロゼ王女は死んでしまったのだから。
ロゼ王女が嫁いだ際に、フォルトゥナ国の騎士団にこっそり入隊したレイモンドは、ロゼとフレデリクの状況については知っていた。上手く狂王に取り入ったロゼ王女を流石だと感心し安心していた。今は亡きオルヴァ国の血筋がこのフォルトゥナ国で続いていく。フレデリク王子が王となればオルヴァ国の再建も……。
そう考えていた時期もあったが、ロゼ王女と狂王の訃報の知らせ、ジークフリート殿下の即位について情報が流れてきた。しかも、フレデリク王子が戦闘奴隷に出されるという情報も。
せめて、せめてフレデリク王子だけでも助けられないだろうか。
レイモンドは異例の速さで出世し、騎士団の新任副団長として参加した長期遠征から帰ったばかり。
それでも疲れを感じさせない早い足取りで、レイモンドは騎士団長室を久しぶりに訪れた。
騎士団長の執務室をいつもと違い真剣な表情で訪れたレイモンドをユリウス騎士団長は一瞥し、重要案件か何かと察し執務室の人払いをしてレイモンドと対峙した。
騎士団長は剣ばかり握っているわけではなく、実は書類仕事が多い。いつも書類仕事ばかりしているユリウス団長。
久しぶりに対面したユリウス団長だが、今日は眉間の皺が深すぎてちょっと怖いくらいだ。以前はもっと心の余裕があったはずだが、いつの間にか追い詰められた顔になっている。追い詰められはじめたのは、ちょうど国王陛下達が亡くなった頃あたりなのだろうか……。
騎士団の演習で長期に渡り留守にしている間になんて顔してやがる……。レイモンドはそう思いながらユリウス団長を見ていると、不意に顔を上げたユリウスと目が合う。
とりあえず本題に入るかと、レイモンドは小さくため息を吐き、口を開いた。
「ユリウス騎士団長、フレデリク殿下が戦闘奴隷になると聞きました」
「あぁ、そうらしいな」
「フレデリク殿下を騎士団で預かれないでしょうか……」
「は?冗談なら出て行け。俺は忙しい」
眉間の皺を深め、再び書類へと視線を向けようとするユリウス。やはり難しいかと思いながらも、このままでは目的が達せられないとレイモンドは慌てて言葉を続けた。
「しかし、王族の…しかも王子殿下の血を奴隷という形で外に出すのですか?」
「それが王の決定だ」
「そうですが…しかし…」
「レイモンド、貴様は王家の考えに背きたいのか?」
「いえ、ただ…念の為、フレデリク殿下はお手元に隠しておいた方が良いのではないかと」
「………騎士団預かりにして、どこに置くというのだ?」
フレデリク殿下は奴隷になるとはいえ元王族。普通は騎士団預かりと聞くと当然国王直轄の金軍を思い浮かべるだろう。だが、現状王家に近づけるわけにはいかない。
「赤騎士団です」
「は?」
嘘だろ?と顔全体で表しながら、ユリウスがレイモンドを見つめる。
「赤騎士だと?あの、ひたすら魔物と戦い続ける平民ばかりの集団だぞ。そんな危険なところに、仮にも元王子という身分の者を置くのか?」
赤騎士は実力はあるが素行が悪い。腕っ節に自信のある平民ばかりの集団なのだから、口も態度も悪い。よく団員同士での諍いも絶えない騎士団に元とはいえ王族が入るなど聞いたことがない。
勤務先も王都外の小さな村か山の中。同じ騎士でも内容や待遇は全然違う。騎士の墓場とも言われている場所だ。
「ひたすら魔物と戦い続ける場所に、まだ8歳の子供を預けるのか?」
「はい。私もそちらへ移籍します」
「お前も…?いやしかし…」
「赤騎士だからこそ、万が一王にバレた時に言い訳ができ、王侯貴族とも引き離す事ができます。それに貴族ばかりの騎士団にいれたら、それこそ何がおこるかわかりません。大丈夫です。赤騎士の団長は口は悪いが面倒見の良い男と評判ですし、私も行きますので」
ユリウスは訝しむように顔を顰め、嘲笑った。
「……フレデリク殿下にそこまで気を回して、お前にどんな利益があるのか正直に言ってみろ。何か隠してるんだろう」
猜疑心に満ちた視線に、レイモンドは胸が苦しくなった。
「利益っていうか、子供を一人あんな所に置いておくのが忍びないのです。親を亡くし、暮らしが一変する。大人が子供を守ろうと考えただけです」
(楽な暮らしはさせられないけど……大きくなるまでは、なんとしてもどうにか……まともな生活を送れるようにしてやりたい)
レイモンドは訝しむユリウスから許可をとるまで、決して引き下がらなかった。
小さなため息一つ。ユリウスの口から「許可する」の一言をもらった後、レイモンドは急ぎ奴隷商の元へ向かった。
母親を亡くしたばかり。フレデリクがどんな状態か気がかりだった。
奴隷商の入口近くにある部屋。レイモンドはその部屋でフレデリクと対面した。
ロゼ王女に似た顔立ちと髪紐で一つに束ねた金髪。よほどショックだったのか表情筋が麻痺したのではないかと思われるほど顔面が動かない。それでも…
(へぇ…。思ったよりいい目をしているな)
強い目。母親が亡くなった事で生に絶望しているのではと不安だったが杞憂だった。怒り・憎しみそんな類の感情だろうが、それでも目は死んでいない。
「はじめまして。私は騎士団副団長レイモンド。今日は貴殿を赤騎士団へとお連れするために来ました」
「赤……騎士団?」
「そうです。主に王都外、地方の村や森の中で魔物を討伐する騎士団です」
「僕は……ここから出て行くのか?」
「はい。奴隷という立場で戦場に立ちます。王都にはもう戻れないかと」
最初は威嚇する猫のような目を向けてきたフレデリク。奴隷商から出て行くと聞かされ、動揺したのか青い目が彷徨いている。
「ここは出たい。母も死んでしまったし、僕が王都にいる理由はない。ただ、貴様の目的はなんだ?」
「それは、旅の道中にお話しします」
「わかった。元より僕に決定権はない」
「赤騎士団は魔物討伐が主体となります。団員は平民ばかり。お上品な場所ではないし、命の保証はありません。そんな場所ですが、私が必ずお守りします」
「わかった。赤騎士団へ行く」
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