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第3章 ヴェルリナの森

西へ

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「うわああああ!」

 フレク達が言っていた西へと向かっている途中、前方から叫び声が聞こえてきた。洞窟組も含めて全員での移動は人数が多く、岩山の移動で足場は悪いが、全員ものともせず進んでいる。
 そんな時聞こえてきた叫び声。

「なんだ?!」

「全員、警戒!」

 洞窟組も一瞬動揺を見せたが、ロワクレスの一言で瞬時に臨戦体制に入る。さすがはこの地で生き延びたメンバーだ。

 注意深く視線を向けていると、1人の冒険者が顔面蒼白で逃げてきた。

「た…たすけてくれ…!こんなはずじゃ…!」

 私達の横を擦り抜け逃げだそうとする男を「確保」とシースさんに伝え、男が来た方向へと駆け出す。

 少し行った所で異変は起こった。

 視線の向こう、開けた砂漠地帯に黒い靄が炎のように揺れている。靄は地面から直接噴き上げているように見えた。
 私はその靄を見た瞬間、何故か恐怖と焦燥に一瞬我を忘れそうになった。

 その異様な空気を感じロワクレスへと声をかけようとした瞬間、足元の地面を割って青紫の毒々しい色をした植物の蔓のようなものが伸びてきた。
 はっとして視線を周囲に向けると、離れた場所に同じような青紫の塊があった。あの中に人間がいれば、ちょうどそのような形となるだろう代物。さらに向こうの方にも一つ。見慣れてみると、同じような物が全部で3つ転がっていることに気づく。

 蔓が足先に触れてきた。とっさに精霊が力を使ってそれを弾いてくれる。今までにない精霊達の形相に、この物体がよくない物だというのは知れた。

「うわっ!」

 ペトレが蔓に捕まったが、瞬時にオディロンが切り離し事なきを得ていた。

「全員、距離を取れ!」

 キルビスさんの声と同時、ぼこっと地面が盛り上がり、青紫の蔓が伸びてくる。
 蔦との格闘で地面に転がっていたロワクレスが身体を無理やり起こすと蔓から逃れ、先ほど見た蔓の塊へと走った。

「…………!」

 蔓が絡み合った間から、人間の姿を認めた。意識はとうにないらしい。生きているかどうかもわからない。皮膚が干からび、骨が突き出ていた。この蔓に生命を吸収されたのだろうか。

 しつこい蔓は少しでも留まっていると、すぐに地面を割って先端を伸ばしてくる。ロワクレスはさらに走って、その向こうに見えた他の塊へと行った。

「助けて……」

 風に乗って微かな声が届いた。ロワクレスも気づいたのか、声のした蔓に向かって駆け出そうとするが、キルビスさんに阻まれる。

「ロワクレス様!いけません!もう手遅れです!」

「しかし、助けを呼ぶ声がした!」

 ロワクレスは絡みつく蔦に手を掛け引きはがそうとした。剣も使い犠牲者の頭部が見えるまでに除けて、そこで愕然と手を止めた。
 蔓は口からも耳からも穴と言う穴から体内へと入り込んでいた。おそらく身体の内外全てに入り込んでいるのだ。

「もう助けることは無理だ!マリー様を巻き添えに死にたいのか!!」

 キルビスさんの声に苦渋の顔を見せながらもロワクレスは引き下がった。

「マリー様!精霊に頼んでこの辺一帯を燃やしてください!」

「わかりました!」

 私は犠牲者に心で語りかけた。

『助けられなくてごめんなさい。せめて安らかに…』



「みんな!出来る限り遠くに逃げて!」

 精霊にお願いし、火魔法と風魔法を駆使して一帯を燃やす。蔦の一本、根も残さないように。
 燃え盛る炎のハリケーン。そんな炎が目の前に立ち昇る。まずは1つ目の蔦に…そして2つ目の蔦にも…。それをみんなが複雑な気持ちで眺めていた。
 次は3つ目の蔦…と思ったその時、蔦で木の形が作られていたその枝先から、大きくて黒い実がボトリと落ちた。そこに炎の柱が燃え上がる。

 直後、ぞくりと背が悪寒に震える。
 炎が立ち昇る向こうから、黒いものが滲むように姿を現した。

 私を認識し目標にしてやってくる。
 炎の外へ出てきて、それが霊鬼という事がわかった。
 日の光に照らしだされた姿は、開けた場所で見ると改めて巨大だと思う。
 猪なんて可愛い物じゃない。確実に小柄なゾウぐらいはありそうな巨体。あんなのに暴れられたらたまったもんじゃない。
 
 それがこっちに走って来る。「まずい!」と思った瞬間、フレクに手を引かれ走り始めた。霊鬼にはロワクレス率いる騎士達と洞窟組年長者が攻撃をくらわす。
 数の暴力。
 叩きつけられた剣によりぐしゃっと嫌な音がして黒い靄が飛び散る。完全に靄が霧散したから再生はまず無理だろう。

 いったい、何が起こっているのか?
 異世界出身でここの仕組みを知らない私には、見当がつかない。

「なんだったんだ…あれ…?」

「わからん。とりあえず、もう残っていないかこの辺一帯を調査。その後、あの逃げていた冒険者から話を聞こう」


 炎が消えた後を回って見ると、そこには黒ずんだ大地しかなかった。
 蔦に囚われた者たちはなぜ、あんなことになったのだろうか?
 


 
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