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第3章 ヴェルリナの森

森を散策

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 ヴェルリナの森はそこまでの山道ではなく、獣道はゴツゴツと石が飛び出ていたりチョロチョロと湧き水が流れていたりする。風化し砂漠と化してきているが、それほど乾燥もしていない。砂漠の割に過ごしやすい所だった。思ったより難所ではないが、精霊がいなくなって一番荒れた場所なので霊鬼があちらこちらに存在している。それでも精霊が安全なルートを教えてくれるので、そこまでの危険もなく進むことができた。

 それにしても、歩くたびに少しずつ背後の精霊と緑が増えていくのが気になる。一気に草原が広がるのではなく、岩の隙間とかから少しずつ顔を覗かせる程度だが。
 これが以前、ロワクレスが言っていた『愛し子が通った後に道ができる』か。すでに荒廃した大地だけど、この調子で回復していけばいいな。

 それにしても冒険者として騎士として、ロワクレスが先を歩いてくれている。危ない箇所は注意をするように促してくれる。

「でも、マグレイブの地の…精霊は起きているわけですよね?…それを、不思議に思う人はいないのですか…?」

 はぁはぁと喋りながら歩くには多少しんどいくらいの山道を進む。
 私が進めば進むほど、挨拶をしてくる精霊が増えていく。
 マグレイブではどこにでも精霊はいて、それが当たり前だと思っていたけれど、世間ではそうではないらしかった。

「一般には召喚の影響だと思われていたようだ。しかし、精霊視を持つ騎士団長達がおかしいと調査し、マリーに行き着いたわけだ」

 それだったら、どうして私が精霊の加護を受ける者だと気付いたのか。普通だったら、城で救世主だと言っている少女の力のすごさに圧巻される場面だろうに。

「詳しく調べた結果…どうにも精霊の起きている場所がおかしい。誰かが歩いた場所をなぞる様に精霊が目を覚ましている」

「メアリーが、はぁ…魔法で何かを飛ばした流れに沿っているのかも、しれないじゃないですか」

「それは可笑しなことだ。メアリーには精霊が近づかない。寧ろ…いや、そこで不審に思った私が直々にやってきたというわけだ。精霊視を持つ騎士は少ないからな」

 ロワクレスはひょいひょいと道を歩き、私に危険がないか探りつつ、霊鬼にすぐに対処出来るよう右手は剣をすぐに引き抜けるよう空けている。
 息も整っていてこれが経験と体力差かと内心ガックリとくる。冒険者としてあの体格は羨ましくて仕方がない。女としてはムキムキマンにはなりたくないが。

「そこでこのマグレイブに新しくやってきた変り種はいないかと門番やギルドで聞いたところ、マリーの名が挙がった。そして、見つけた。精霊に加護されているマリーの姿を」

 その時、新しくやってきた精霊が私の額にキスをしていた。
 そっとロワクレスの左手が私の前髪に触れた。

「陛下は勿論のこと、私も王族の一員だ。マリーには過酷を強いているが、もう少し辛抱してほしい」

 左手がゆっくりと下がり、私の頬を優しく包む。
 まるで愛しいものをみるみたいな視線に耐えられなくなって、ささっとその手を避けるように道を進む。
 目の前にいるの精霊がこっちと手招きをしているからそっちに休憩場所でもあるとみた。

「ねぇロワクレス、大丈夫?」

 斜め後ろを歩くロワクレスにそう声を掛けると、息の切れた私と違い余裕ありそうなロワクレスがニヤッと笑った。

「マリーの方が辛そうだけど」

「あ、うん。疲れた」

 強がってもへばるだけ、と思った私は、素直にそう答えた。瞬間ロワクレスが吹き出す。

「マリーは素直だな。特に危険もなさそうだし、そこの平場で休憩するか」

 よし!許可も取ったしさっそく休憩!
 そそくさとロワクレスから離れて精霊が待っている場所へ足早に赴き、平たんな場所で休憩が取り易いそこへと向かった。

 二人が座れるくらいの場所に敷物を敷いて、硬いパンと干し肉をを受け取る。そして手際よく湯を沸かしスープを作る様子は王族とは思えない手際の良さだ。

「……そういえば…」

「どうした?」

「いや、エカテリーナ嬢に誘拐された時も周りに精霊がいなかったんですよね。城にいるメアリーもエカテリーナ嬢も、精霊が寄りつかなくなる何かがあるのかなと思って」

「精霊が寄りつかなくなる何か…?」

 しばらく考え込んでいたロワクレスが、片手を上げると、目の前に黒ずくめのネイが現れて思わずパンを落としそうになった。
 ロワクレスが何やら耳打ちすると、そのまま音もなく消えていった。

「今のは…?」

「ネイに使いを頼んだ」

「あぁ…ネイさん……え?影?サマンサさんの仲間……? あ、ありがとう。凄く手際よくスープ作るんだね」

 ロワクレスは私にスープを渡しながら、説明をしてくれる。
 
「私は王族としての義務を放棄して、騎士団に所属している。陛下の無理難題を押し付けられる小隊の隊長をしているから、遠征はよくあることなのでな。野宿とかも多いんだ」

「ロワ自ら遠征に行くんですか?」

「そうだ。しかし、王族ということもあり、実力など求められることもない。見栄えのいい飾りとしての騎士にも飽きて、ギルドで名を挙げた。お陰で侮られることもなく、こうしてマリーを迎えにこれた」

「私を?」

「そうだ。王命により内密にことを運ばねばならなかった。だから、影と呼ばれる隠密5人と私のみの特別部隊だ」

「なるほど…隠密か」

 イメージは忍者だな。凄いな。

「…さて、もう少し歩こうか。予定より進んではいるが、この辺りは水場もない。テントを張るに適した場所があればいいのだが…」

 広げていた荷物を片付け、午後の活動が再開した。
 息が切れるけど、そこまで大した疲労じゃない。目を覚ました精霊達が挨拶に来るたびに回復してくれているのかもしれない。
 てっぺんに昇っていた太陽が随分と下がり、そろそろ夕焼けになりそうな時間帯に漸くテントを張れるくらいに広くて、平たんで地面の岩も出ていない場所に出た。

 シースさんが背負っていた鞄からテントを取り出し、手際よく組み立てていく。
 私はその間に辺りに散らばっている枯れ木を拾い集めている間に、ロワクレスが石を集めてコの字に組み、かまど組み立て焚き火を作る。
 キルビスさんとサマンサさんは付近の警戒をしているようだ。

 精霊にお願いして魔法で火をつけて、鍋に魔法て水を入れてもらい、ロワクレスが仕留めた魔物の肉と干し肉、野菜を取り出し、具沢山のポトフを作った。
 スープの匂いに釣られたのか、ロワクレスがテントからひょこっと顔をだして、香ばしい匂いの元を辿ろうとして、私とパチリと目があった。

「もう少しでご飯出来ますが、どうします?」

「此方もあらかた終わった所だ。頂こう」

 匂いに釣られたのか恥ずかしかったのか、少し俯き加減のロワクレスだったがそれからの行動はとても早くて私の隣に椅子代わりの木を置いた。

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