マリーゴールド 〜一瞬が永遠の異世界生活。生き延びて見せる、この世界で!〜

流風

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第4章 フォルトゥナ

狂気の玉座〜レイヴン視点〜

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 物心がつく頃には、この城が異常だという事には漠然と気づいていた。

「レイヴン様!今そちらに行ってはいけません!」

 止める侍女の声と風に乗って流れてくる鉄錆のような匂い。

(あぁ……またか)

 城内でまた誰か死んだか。

 あちこちに転がる見せしめの死体。

 いつも怯えた目をしている侍女達。

 父はその残虐さで近隣諸国へ名を轟かせていた。

(おそらく僕も遅かれ早かれ殺される)

 常に城の中を満たす血の匂いと陰惨な空気を幼い頃から感じていた俺は、死に対して無関心な子供に育った。


 そんな城内において異質な存在があった。

「ジークフリート様!ジークフリート様がお通りになるぞ!全員作業やめ!!」

 父である国王とは違い、優しく才能あふれる王太子と言われているジークフリートが姿勢良く凛とした佇まいで歩いている。
 正妃の唯一の子であり長兄であるジークフリートは俺とは違う生き物だなと見ていた。

「レイヴン!久しぶりだな!」

 幼くして次期国王としての期待を一身に受けている身でありながら、俺にも気さくに声をかけてくる。まぁ、次期国王として育てられているから殺される不安はないのかもな。呑気なものだ。

「ご機嫌うるわしゅう兄上」

 俺は右手を胸に、腰を折り礼儀正しく対応した。この兄が父と繋がっていないともわからないし、何が問題で首を刎ねられるかわかったものじゃないからな。

「レイヴン、やめてくれ。私達は兄弟なのだから、もっと普通にしてくれ。困ったことがあったりしても、いつでも相談に来てくれてもいいからな」

「……ご厚情痛み入ります。兄上」





(凄いな、あの兄は。こんな陰湿な場所でよくあんなキラキラしていられるよな)

 母の有無の違いか、俺はあんな風になれないな。とりあえず、俺は大人しく目立たないよう生きていこう。
 先日も下の弟が首を刎ねられたばかり。

(沢山いたはずの兄弟も、今やジークフリート兄上しかいないしな)

 不興を買えば死に直結する。
 それがこの城での常識だった。それは使用人のみならず、王の子であるはずの王子さえも。

(死なない為の生き方を考えないとな…)

 それから私は生き抜く為に知識をつけようと、勉学を必死に学んだ。

 
 俺が7歳の時、新しい弟ができた。それと同時に義母がいなくなった。
 母を亡くした弟。父の戦コレクションとして連れて来られ子を孕み産むと同時に殺された母。父の戦コレクションとして生まれた弟。
 それは、俺も同じだけれども…。

 誰かこの国を変えてくれないだろうか。








『はるか昔存在した霊鬼とは、魂と生命力の集合体であり、体はあれどないに等しい。突如現れ、国を滅ぼし、気づけば消えている。この世界では魔物の脅威はあれど、霊鬼ほど恐ろしい存在はない。霊鬼が現れれば、国は滅び新しい時代に切り替わる。霊鬼は時代の切り替えに現れる存在なのかもしれない』

 今日はとても気持ちの良い天気だった。薄雲がかかっただけの青空と優しい風。部屋にいるよりもこの風にあたっていたいと思い、木の下で本を読んでいた。
 今日見つけた歴史書。そこに書かれていた霊鬼という生き物。

「はるか昔に存在した霊鬼…国を滅ぼし時代を変える…か。本当かな」

 思わずポツリ呟いた。その時、ガサリと草を踏む音が聞こえ、慌ててそちらに振り向いた。

「ジークフリート兄上…」

 そこには驚いた表情の王太子が立っていた。

「ご機嫌よう、兄上。今日はとても良い天気ですね」

 不快に思わせないよう当たり障りのない笑顔と会話。

「レイヴン……それは…何を読んでいるんだ?」

「?歴史書です。霊鬼という伝説の生き物が国を滅ぼしたというものです」

「霊鬼……」

「???読みますか?」

「あぁ…借りても構わないか?」

「どうぞ」

「なあ、レイヴン、国を滅ぼして時代を変えるって出来るのかな」

(なんだ?弱音?)

 いつも微笑を湛えキラキラしているジークフリートが珍しく憂いた表情で弱音を吐いている。
 もしかして霊鬼に国を滅ぼしてもらって新たな時代を作ろうっていうんじゃないよな?困るなぁ…次期国王がそんな他力本願じゃ。

 優しく才能あふれる賢王になるんでしょ?霊鬼ではなく自分が王を殺して国を変えるくらいの気概を見せてよ。
 ぜひ、平和な世の中とやらを作って欲しいものだ。







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