マリーゴールド 〜一瞬が永遠の異世界生活。生き延びて見せる、この世界で!〜

流風

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第2章 葛藤

旅立ちの決意

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 ロワクレスとのんびり話をする時間が持てたのは良かったかもしれない。

 この世界に無理矢理召喚され、放置されて辛かった。

 でも、ロワクレスが来て…。

 楽しかった。嬉しかった。でも、怖かった。不安だった。もし、捨てられたらって…。

 色々考えさせられた。ロワクレスから放置されたらどうなるだろう、とか。いっそのこと、この街を出てどこかに逃亡してしまおうか、とか。
 そうすれば会わなくなり、いずれ期待しなくなり、寂しさなんてものも感じなくなるはずだから。ロワクレスと出会う前の、強い自分に戻れる。

 ……今だけだ。会えなくて寂しいと感じるのは、きっと今だけ。

「おい、今何考えてる?」

 痛い!痛い!その筋肉でアイアンクローはマジで痛い!

「な、なにも…」

「マリーは顔に出るからな。今、何かよからぬ事を考えていただろう?私と離れて1人何処かへ行くとか」

 何故わかった?王族ってそんなのも凄いの?!まぁ、たしかに対人との駆け引きとかあるだろうけど、私相手にその力を発揮しなくても…。


「あぁ、手荒にしてすまない。でもこれからは、苦しい時や哀しい時、不安な時もちゃんと泣いて、私に伝えてきて欲しい。無理に溜め込んだ挙げ句、私を拒絶しないでくれ……お願いだから」

 言われてみれば、私はロワクレスを思いっきり傷付けてしまったのか。自分の感情制御でいっぱいいっぱいだったが、拒絶されたロワクレスも同じくらい、もしかしたらそれ以上に心が荒れたのかもしれない。

「ん……ごめんなさい」

 心を乱して変な事を言った自覚はある。素直に謝ろう。
 それと、私はロワクレスと共に王城に行こうかと思っている。とても心が揺れている。

 薄々気づいている。

 この人はきっと裏切らない。

 あの時はきっと『愛し子を守る』という事に必死で短慮だっただけで、きっと根は真面目なのだろう。

 普段はきっと傷つけない。

 平民だからと差別しない。

 そういう人だと薄々気づいている。

(裏切られるよ)

 心の中で心配性の私が呟く。

 否定してきたものを認めるのは難しい。

 そうだと信じて生きてきた自分を否定しなくてはいけない。

 でも、こんなにまっすぐに私を見つめてくるこの人を否定するのも辛くなってきた。


 もう、辛い。


「ねぇ、精霊さんは仲間を目覚めさせて欲しい?そのために、私は王城に行くべきかなぁ」

 私の近くを飛ぶ精霊達へと声をかける。ここまで私を導いてくれたのは精霊達だ。意見を聞くべきだと思う。なのに、ロワクレスは何故そんな驚いた顔でこっちを見てくるんだ?そんな変な事言ってる?

 精霊は小さな体で腕を組み、コテンと首を傾げて何やら悩んでいる。

「精霊さんの仲間達が目を覚ました方がいいって思ってる?」

 質問を一つに絞り再び聞く。すると、これにはコクリと首を縦に振った。

「じゃあ、私が王城に行くのは反対?」

 この質問にも精霊はコクリと首を縦に振る。仲間は目覚めさせて欲しいけど、王城には行かないで欲しいか。

「私がロワクレスと一緒に行動するのは反対?」

 ブンブン。この質問には首を横に振る。つまり……

「私が、王城に近づいてはいけない……。王城に私にとって危険な何かがあるという事……?」

 これには激しく首を縦に振った。

「…………王城が危険な場所なの?」

 コクリ。首を縦に振り、私の頬へとキスしてくる精霊。そうか、王城が危険なのか。それは場所が問題なのか、それとも人か……。

 チラッとロワクレスの顔を見る。精霊達は最初こそ私を追い出した危険人物と見ていた節があるが、今はビクビクすることもなく、普通に漂っている。

「………本当にロワクレスと一緒にいるのは問題ない?」

 こっそりと精霊すると、コクリと可愛らしく頷いてくれる。うむ、本当に問題はないらしい。

 その一連の行動を見られていたのか、苦笑しながらロワクレスが話しかけてきた。

「まさか、精霊に相談するとは思わなかった」

「??? この世界に来た私を導いてくれたのはこの子達です。だから相談はしますよ?」

「そうだな。流石愛し子と言った所か。だがな、普通、精霊に相談とかしないがな」

 なるほど。普通はしないのか。でも他の人には見られないように気をつけているから、大丈夫だろ。

 不安だった。誰かに背中を押して欲しかった。だから精霊に尋ねた。

「ロワクレス」

「ん?」

「…………信じてもいいですか?」

 ふわり。優しく頭を撫でる大きな手。

「私の側にいて、私の力になって欲しい。私もマリーを裏切らないし、マリーを信じる」

 柔らかく撫でられる手のひらの感触。疲れた。苦しかった。もう、休みたかった。
 だから、この人の側で少し休もう。

「………ロワと一緒に精霊を目覚めさせるのは承諾します。でも、お城には行かないという条件付きですけどいいですか?」

 このまま、この王子様を避けて生活するのは精神的にも限界がある。

「ありがとう。王城へは行かず、寝泊まりする場所は別に構えると約束しよう。それと、先程の精霊達の反応を兄上達に伝えようと思う。構わないか?」

 それくらいなら別に私に害はないだろう。是の意味を込め頷き返した。

「よし、ならば明日は旅の物資の買い出しだな。馬車の準備も考えると…3日後にこの街を旅立とう」










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