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第1章 召喚
満腹テーブル
しおりを挟む「マリーはどうすれば私と来てくれるか……。生活面は私が一生保証する。信じてくれ。王城についても私がマリーの世話をする。約束しよう。他もマリーの望む通りにしよう。希望はあるか?」
………王子が私の世話?
そんなの、お世話をされることはあっても、世話をすることなんてないだろうから不安しかない。
胡乱げな私の視線に気付いたのか、ロワクレスは今夜から私の世話をするので、とりあえずそれから考えてほしいとお願いされた。
そんなの無理だろう。
王子がこんなボロ宿に住む気か?もしかして、私の部屋に…?無理無理!王子がこんな平民以下の女と同室なんて問題になる。私の首が飛ぶ未来しか見えない!
もしかして……世話をするためにって領主館に連れて行かれるとか…。そのまま王城行きの未来しか見えない。
よし。無理!
「私の希望は……く~きゅるるる…」
タイミング悪っ!
成長期の体に木の実と果物だけではやっぱり足りない。くっそ~!締まらない私の腹!恥ずか死ぬ!
「なんだ、腹が減っているのか?」
「大丈夫です!今から食事の予定だったので!」
「今から?しかし、この部屋には何もなかったぞ。荷物も持ってなさそうだし…」
家探し済?!乙女の部屋を物色したの?!確かにこの部屋に物はない。今あるのは、ロワクレスの物であろう大きなリュックが一つあるだけだ。
「食べ物は…」ボトボトッ
部屋にある小さなテーブルの上に両手一杯分の果実。精霊が用意してくれたんだろうけど、今じゃなかった…!
「……これが食事か?」
くそッ!憐れみのこもった目で見られている。
「……王族の方にはわからないでしょうが、貧乏人には食べれるものがあるだけでもラッキーなんです。実際、これがなければ私は今頃餓死してますよ」
「………餓死」
「さぁ、私は今から食事です。早く出て行って下さい。世話など不要です!」
背中をグイグイ押すけどびくともしない。体格いいな!服越しにも筋肉がわかる。
権力持ってて金持っててイケメンで筋肉ムキムキって、どうすればいいのよ!
「よし、まずは食事からか」
「へ?」
両脇に手を入れられたかと思うと、ひょいっと抱え上げ椅子に座らされた。
呆然としている私を横目に確認しながらも扉を半分開けてなにやら話をしてすぐ戻ってきた。部屋の外にロワクレスの護衛か侍従かいるのだろう。
「そう警戒するな」
扉を背にしてロワクレスが此方の様子を窺ってくるが、近づいてはこない。きっと私に扉に近づいてほしくないんだろう。
「マリーは何歳だ?」
「…………15歳です」
「15歳か。まだ若いマリーに大変な苦労をかけてしまった。あの時見抜けなかった己の不甲斐なさに怒りすら覚える。これからマリーの事を知っていきたい。気にかけたいし理解したいと思っている」
「………………は」
何言ってんだこいつ。どうせ言葉だけだろ。
おっと、いかんいかん。顔に出てしまったかな。
「あなたの立場で気軽に言って良い言葉ではないでしょう。聞かなかった事にしとくので、どうぞ出て行ってください」
「……所詮王族が何を言っても信じられないか?」
「……そうですね」
さあ出て行け。ドアを指差しそう言おうとした私の言葉を塞がれた。
「私はこれから、私の覚悟を見せていくつもりだ。マリーに手放させてしまったものを、かけた苦労を補うように」
一歩詰めて来て真剣な表情で語るロワクレスから、何故か目が離せない。
「マリー、お前に私の全てを預けてもいい」
「…………はぁ?」
なんなの?この犠牲的精神のセリフ。
「もしかしてマリーはこの街に好いた男でもいるのか?」
「…………」
唐突に尋ねられて、なにを聞いてくるのだと眉間に皺が寄った。確かに恋に浮かれる年齢だとは思うが、色恋沙汰などしてる余裕、私にはなかった。生きるか死ぬかの日々だったから。
ジトリとロワクレスを睨めば軽く肩をすくめられた。
「すまない。だが普通、第三王子である私が迎えに来て王城へ招待されたら喜び勇んでついてくるだろう。マリーと一緒に召喚された少女など、城で我儘し放題だぞ」
「え?精霊を目覚めさせてないのに?」
「あぁ。自分が愛し子で世界の救世主だと言い張ってな。日々王城で遊び暮らしている」
「うわぁ…」
凄いな。私もこの国のためにって活動する気はないが、流石に彼女のように協力もしていないのに養ってもらう気はない。
「だからこそ、マリーの言動が不思議なんだ。広い部屋・高級寝具に綺麗なドレスも最高級の料理も提供する。それでは私と共に来る気にはならないか?マリーの好む物をこれからしっかり知っていこう」
所々追求する言葉ではあるが、あまり気にしていないのがその態度から判る。食事が運ばれるまで私が外に出るのを阻止するためか。
十分後くらいにドアがノックされ、ロワクレスが少しだけ扉を開けて身体を少し外に出す。
そしてそこで食事と明かりのランプを手渡されたのか、器用に両手でお盆を一つずつ持って扉を閉めた。
テーブルにそれぞれお盆を置かれたが、カトラリーが何故か1組しかない。「食いたいなら一緒に来い」と脅す気か?
ギリィっとロワクレスを睨んで、私はさっき精霊に貰ったブルーベリーのような果実を取り出した。
「こら、それは後で食べろ。まずはこっちの料理だ」
目の前に置かれたのはよく煮込まれたシチューとパン。まだ暖かいのか、物凄く良い匂いとともに湯気が出ている。しかもきちんと2人前ある。
こっちの世界に来てから、暖かい料理なんて食べていない。しかも、こんな調理された食事なんて……。
「まともな食事を取っていないみたいだからな。消化に良さそうな物を用意した。確認してなかったが、嫌いな物とかなかったか?」
「嫌いな物はないけど……」
くきゅるるる
お腹がなって恥ずかしさのあまり下を向く。今絶対顔が赤い自信がある。
「さぁ、食事をしよう」
椅子がないためベッドに座ったロワクレスが此方に寄り、一組しかないスプーンを持ち、音もなくシチューを掬うと、あろうことか私の口元にそれを向けた。
「は?!わ、私、一人で食べられます!」
「しかし、世話をする約束だ」
「世話の範疇を越えてます!」
「遠慮をするな」
「私は子供じゃないです!」
「??? 城にいるもう1人の召喚者はよく『食べさせて』と言ってくるぞ。しかも同じカトラリーで食べさせてもらうのが良いと。女はこんな風に世話をされると喜ぶのではないのか??」
何それ?!どこの女王様よ!
「それはその子が特殊なだけです」
「そうなのか?しかし、カトラリーを1組しか用意しなかったからな。今夜はこれで食事しよう」
断っても引き下がる気配なし!
嫌がる私に世話をするのは約束であると念を押し、スプーンで掬った料理を運んでくるから匂いに負け、顔を真っ赤にしながらも口を開ければ「良い子だ」と褒められる。
口の中に入ってきたシチューはまだ暖かくてとても美味しかった。ほんのり甘いシチュー。喉を通って食道に流れていく感覚は、まるで寒い冬の日に、あたたかいミルクを飲んだ時の安らぎにも似ていた。
喉から胃から、全身に温かさが広がっていくような感じがして、空腹のためか怠くて手足を動かすのすら億劫だった身体に、力がみなぎってくるようだ。私、こんなにも飢えてたのか。
じわり
涙が溢れてくる
泣くな
この男に情け無い姿は見せるな
耐えろ
キュッと口を引き締めて目の前のロワクレスに視線を向ける。
一瞬、少しだけだが驚いた表情をした気がするが、無表情のロワクレスに再び向けられたスプーンを見て恨み言なんて飛散して、シチューを無心で咀嚼する。
美味しい
ある程度腹が落ち着くと、自分の状況を思い出し、給餌されている記憶が一気によみがえってきて、私のほっぺたはびっくりするほどに熱くなっていく。
これではダメだ!パンだったら手で千切れるしそれを手にとり自分で食べていると「パンも食べさせるぞ」とロワクレスは首を傾げた。無表情ながらも少しずつ何を考えているのかわかってきたな。
「自分で食べれます」と伝えるが「遠慮するな」とお世話をやめないようで、パンを咀嚼するとすぐにシチューを口に運ばれた。
ちまちまパンを食べる私に思案していたロワクレスは私の食べかけのシチューをパクリとその口に入れた。
私がポカンとしていると無防備だった口にシチューがつっこまれた。
「世話というのも楽しいものだな。初めて知った」
…………表情筋はないんじゃないかという無表情の男が微笑んでいる?
あれは……微笑んでいるって表現でいいのかな?
きっと常日頃使ったことがないものだから、今一つ表情筋の動きが良くないんだ。
強張っていて、歪んでいる。
でも、やっぱり、あれは、きっと笑っているんだ。
使わないと筋肉って硬くなるもんな。
使い方すら忘れるもんなんだ。
ロワクレス、笑顔の表情筋をきっと初めて使ったのかな。
毎日朝起きたら、鏡の中へにっこり笑うって、大事だよな。うん。
ほら、今私の顔を覗き込んで、にぃーって……。
ん?いや違う??あれ?笑顔じゃなくて悪人顔?!
なんか、悪だくみしている時の、やらしい笑みに見える!
なまじ顔がいいから、とっても怖いっ!
あれ?この人、よくわからない。
ご機嫌?なロワクレスに開いた口が塞がらない私が意識を飛ばしている内にしかっりと夕飯を手ずから給餌されてしまった。
知らない内に満腹になっていて、気付いたらテーブルは綺麗に片付けられていた。
この王子、手際が良すぎる。どこかで経験でもあるのだろうか。そうか、もう一人の召喚者だっていうメアリーって子の教育の賜物か。
食事だけでガッツリと精神を削られた私はさっさと寝てしまおうと思っていたのだけど、荷物を整理していたロワクレスが椅子に座る私の傍にやってきて、予想外の発言をしてきた。
「さて、女性の風呂の世話とはどうすれば良い?」
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