3 / 51
第1章 召喚
現れし魔の断罪者
しおりを挟む足元の魔法陣らしき円が突然激しく光り始めた。その光のあまりの眩しさに思わず目を閉じてしまった。
目を閉じても痛烈な光は続いて、足元がぐらつく。まるで落とし穴に落ちたような浮遊感。そんな不思議な感覚に陥り、フワフワした感覚がなくなりやっと瞼の外の光が落ち着いたのだと判りそっと目を開けた。
「……?」
煙に包まれているように視界が悪い。
窓からの風だろうか、その煙が薄れ視界が明るくなってきた時に、私の目の前に信じられない光景が広がっていた。
足元には魔法陣。その魔法陣をぐるりと囲むように目深に被ったローブを着た魔導師風の人達。ほぼ倒れている魔導師を更にぐるりと中世ヨーロッパの貴族を彷彿とさせる服装の人達が囲み、その奥、階段の上に設えられた椅子に座り此方を眺めるいかにも王様・王子様風の人。
そして、私のすぐ隣に居る…フワフワのピンク色のドレスを着た少女。
ーーー え?
どこかのクラスの出し物?文化祭でこの規模の出し物?っていうか、ここ、どこの教室?
召喚されたなんて発想、普通は出てこない。しかも文化祭当日のこの状況に、私は文化祭の出し物と考えてしまい、行動が遅れた。
文化祭?これ、騒いだら後でキャッキャ笑われるやつ?と状況を整理することに集中して静かにしていたら、脇に控えていた騎士がピンクドレスの少女を守る様に周りを固め、私に抜き身の剣を向けてきた。
「……?」
演技うまいなぁと思いながら、ポカンとしていると、騎士が私に向かって吼えた。
「この、化け物が!!」
「悪魔だ!悪魔の化け物だ!」
そして納得した。
私、今、ゾンビのコスプレの真っ最中だった。
私を速攻排除しようとしてる騎士に、王様っぽい人の側に立っていた派手な刺繍のローブを着たおじさんが焦ったように声を上げた。
「お待ちください!精霊の愛し子様を呼ぶこの場所で殺生などとんでもございません!お考え直し下さい!万が一精霊の機嫌を損ねたら加護が…寵愛がもらえません!!」
必死の叫びに王様っぽい人が考えるように顎に手を置き、王子様っぽい人に指示を下した。
王子っぽい人は階段を降り、魔法陣を踏み此方にやってきた。均整のとれたがっしりとした体格の若い男で、背が高い。二メートルはあるだろう。
顔を見上げた私は、映画の撮影現場なのかと思った。
ちょっと見ないほどの整った顔をしている。整いすぎてて人形みたいな人だ。表情が乏しい。それでも立っているだけでも絵になる色男だ。きっと名高いスターなのだろう。あいにく、私は知らないが。
頬を染めポーッと見つめるピンクドレスの少女を騎士同様背に庇い、私に向かって口を開いた。
「この場で王都から去ればなにもしない。言葉が通じるのならさっさと去りなさい」
ーーー 私は今、何を試されているのだろうか。
見た事もないような美形による迫力ある演技と凝った会場作り。どう演技するのが正解かわからない。しかも「精霊の愛し子を呼ぶための召喚」「精霊の加護や寵愛」って設定もしっかりしている。
どうして良いかわからないまま、無難に無言でコクリと頷いてこの広間の扉から出た。ザワザワとざわめきが聞こえる。私を殺すべきだという声も背後から聞こえた。
扉を出ると、目の前には長く続く廊下。その廊下には誰もいない。
私はだんだん不安になってきた。窓から外を見ると、外はすでに夜。暗い夜空を照らすように、満月が煌々と輝いていた。
「満月……夜?!……え?」
おかしい。文化祭のレベルじゃない。プロジェクションマッピング?いやいや違う。明らかに本物の夜空だ。しかもうちの学校にそんな予算はない。
夢?いや、夢にしてはザラつく石壁の手触りも、夜風の感覚もリアルすぎる。
ふと視線を動かすと、絵本で見たコロポックルのような生き物がフワフワと漂いながらやってきた。そういえば、さっきの部屋でも少し離れた場所でぼんやり光が漂っていたな。
「……もしかして、精霊さん?」
さっきの派手なローブの人が言ってたな。精霊の愛し子がどうのこうのと。
驚いた。本当に精霊いるんだ。
精霊に驚いたが、それよりも先に私は考えないといけない事がある。さっきまで私を殺すべきと言っていた人達が演技ではなく本当に殺しにくるかも…ということだ。
夢ならいいけど現実だったら…?
朝だったはずが夜。地球人そのものに見えるのに、まるで過去にでも戻ったかのような文化形態。そして、精霊。
非常識なあり得ない事態ではあるけれど、私はとりあえず現実を受け入れることにした。
マスク取って「人です!」って言うべき?いやでも、ピンクドレスの少女がいたし、召喚って言ってたけど、召喚したかったのはあの少女でしょ?私はオマケ?召喚失敗作?
それって私、邪魔なんじゃ……。邪魔者って排除されるのかな?そういえば「殺せ」って言ってた人がいたし…逃げるべき?
「でも、どうやって逃げれば……」
撫でるような風が吹き、私の目の前に精霊がやってきた。しきりに窓を指差している。
「わわっ!」
廊下の窓を指差され、大きなその窓を開けば、背に風があたったかと思うとフワリと体が浮き空に舞う。
精霊の力なのかフワフワ浮いても飛ぶ感覚がわからず、一旦中庭に足を着けたら、そこにいた精霊が私の肩にまた乗ってきた。
「えいっ!!」
降りた反動でもう一度ジャンプすれば次は問題なく空を飛べた。
私、ゾンビの格好で空飛んでるよ。
空飛ぶゾンビって作品、見た事ないな。
斬新!
しかし夜で良かった。満月で明るいが、まだ昼間よりかは目立たないだろう。マスクを外すと頬にあたる夜風が気持ちいい。
ピーターパンになった気分だ。
「思わず逃げてきたけど、これからどうしよう」
私の呟きに、私と並行して飛んでいる精霊が目の前を指差して身振り手振りで何か言っている。
「あっちに行けばいいの?」
広大な森が見える方角。仕切りにそっちを指差す精霊。声は発せないようだから察するしかないが、おそらくあってると思う。
頼れる知り合いもいない中、徐々に増えてる小さな同行者に頼るしかない。
ーーー 夢ならいいな。
もし、夢じゃなかったら?着の身着のまま、カバンも何もない今の私がもし帰れないのなら、この世界で生きるためにどうすればいいのだろう。
「今日は食事当番だったのに、作れないかなぁ」
夜遅い両親の代わりに、兄と夕飯を作っていた。今夜は私の番だったのに……。
「どうしよう…お兄ちゃん……」
知らない世界。
味方などいない。
孤独の世界に連れて来られた。
「ん?あぁ、皆んなはそばにいてくれるの?ふふっ、ありがとう」
精霊達が交互に飛んできてはキスしたり目の前でアクロバティックな飛行を繰り返している。可愛い。可愛いけど…でも……
夢じゃなかったら……
生きてさえいれば、帰れる日だってくるかもしれない。会えるかもしれない。
私の家族にーーー
「それにしても、私はどこにいるんだろう」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~
山鳥うずら
ファンタジー
東京に勤務している普通のおっさんが異世界に転移した。そこは東京とはかけ離れた文明の世界。スキルやチートもないまま彼は異世界で足掻きます。少しずつ人々と繋がりを持ちながら、この無理ゲーな社会で一人の冒険者として生きる話。
少し大人の世界のなろうが読みたい方に楽しめるよう創りました。テンプレを生かしながら、なろう小説の深淵を見せたいと思います。
彼はどうやってハーレムを築くのか――
底辺の冒険者として彼は老後のお金を貯められたのか――
ちょっとビターな異世界転移の物語。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる