その日暮らしの自堕落生活

流風

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新しい生活

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 今日は何を採取できるかな。と考えながら、門のほうに歩いていく。


 横に5人くらい平気で人が並べるほどの門と小さな門の二つが並んでいる。馬車用の門と歩行者用の門は、大抵の場合は開け放たれている。その代り、門番が常駐し、何か犯罪を犯して指名手配されてる者や明らかに不審な者が街に入らないか監視している。

 その門番に見守られながら、今日も一人と一匹がのんびりと歩いていく。


「こんにちは」

「やあレイ。今日も採取か?なんだか森のほうが怪しいから気を付けろよ」

「うん、わかった。でも怪しいって何かあるのかな。ってダリルさんちょっと顔色悪くない?」

 小柄なレイと真っ白子犬のフィオのコンビは、ガタイが良くむさ苦しい野郎だらけの門番達の中では癒しの存在として人気があり可愛がられている。ダリルもそんな門番の1人だ。
 
「いや、昨日調子に乗って飲みすぎてな」

 バツが悪そうに頬をかくダリルに苦笑いしながらもレイはポーチを漁った。

「羽目外したんだ。じゃあこれ、私が作ったものだけど初級解毒薬。二日酔いに効くからあげるね。街を守る門番さんなんだから、飲み過ぎに気を付けてね」

「お、サンキュー」
 
 赤味の強い茶色の髪に精悍な顔立ち、上背のある見るからに逞しい男が、不精髭で青い顔をしながらレイから受け取った初級解毒薬を一気に飲み干すと、「っかぁ~!」とまるで酒を一気に飲み干した時のように息を吐いた。

「あ、なんか楽になった。ありがとな、レイ」

「どういたしまして。ほどほどにね」

「肝に銘じるよ。森は変な輩が彷徨いてるかもしれん。あまり奥まで行かない方が良いぞ」

「あぁ…うん、わかった」

 お互い手を上げて、離れる。
 少し進んで振り返ると、まだこっちを見ていたらしいダリルがレイの視線に気づき、再び手をあげていた。
 そんなダリルに手を振り返して、森の中に入っていく。

「今日は近場でポーションの材料集めをしようか。あ、でもお肉も欲しいな」

「肉なら俺が狩ってくるよ」

「ダメだよフィオ。ダリルさんも言ってたでしょ?今日はダメだよ」

「…森が怪しいって、低レベルの冒険者達だろ?俺の敵じゃない」

 胸を張りながらフンスッと鼻息荒く語るフィオの頭を撫でながら、思わず苦笑をこぼしてしまった。

「それでも、変な揉め事に巻き込まれないように、控えとこう」

「ぬぅ……わかった」



 今、レイ達がいるのは、辺境伯領フルオールの領都とアッテムト国の中間あたりにある街『ネフライト』。街もそこそこ栄えていて、自然も多い。住みやすい街だなとレイもフィオも気に入っている。

 ただ、最近では隣国アッテムトから流れてきた低ランク冒険者が問題を起こしているらしいが。

 アッテムト国の方が魔物は多い。それも高レベルの魔物が。フルオールは定期的に魔物の発生原因となる靄を間引いているからその違いなのだろうか。

 冒険者としては、強い魔物がいる方が良いのでは…と思うが、彼らは逃げてきたのだろう。

 ダリルが言っていた「森が怪しい」は、その冒険者達が向かったということだ。だから気をつけろと。
 フィオに目をつけられてもいけないし、こちらから進んで問題児に絡みに行く必要はないだろうと、レイは森の奥へ行くのを早々に諦めた。



(この森ほんと素材の宝庫なんだよなぁ)


 アッテムト国で見た事ない変な草とか、たまに生えてるし、今まで出会わなかった妖精・精霊とかにも会うようになったし。

 妖精や精霊と聞いて、「手のひらサイズの美少女に羽が生えた生き物」とイメージしていたが、初見でその理想は打ち砕かれた。あれは美少女ではない!小さなおっさん…いや、ハエ男だ!と、半泣きになりながら討伐したのは、今やいい思い出だ。


 鑑定の魔法を使いながら採取をする。採取には鑑定魔法を使うが、なんとなく本屋で買った辞典と採取したものを比べながら違いがないか素材を調べていく。

 調合に使うものはすごくたくさん種類がある。これ、何に使うんだ?って素材が重要だったりして、研究みたいでなんだか楽しい。
 そして、そんなレイを見ているのは嬉しいが暇だなと、大きく欠伸をするフィオが目の前をふよふよ飛ぶ蝶を眺めていた。


「今日はめぼしい素材がないなあ。この間ここに変な草生えてたのに」

 足元を見まわしながら、ゆっくりと歩くが、なかなかいい素材がない。っていうか、薬草とかが誰かにちぎられてるような形になってるのは気のせい?茎の部分だけ残ってて、素材として採取できる状態になってない。でもこれはちょっと今迄見たことない荒らされ方だな。素人が薬草を摘んだのか、無理矢理ひきちぎられた痕跡が至る所にある。

 もしかして、これもアッテムト国から流れてきた問題のある冒険者達が原因なのかな。

 そこでふと気づいた違和感。
 それはフィオも同じだったようだ。

 ーーー 静かすぎる。

 さっきまでは見かけていた雑魚の魔物も出てこない。もしかして嵐の前の静けさってやつじゃないよね。

 レイはインベントリからスコップを取り出して、引きちぎられた薬草を根っこから掘り起こした。アイテムボックスに入れようかと思ったが、なんとなく手に土ごと持ったまま早めの帰宅をする事にした。

「早いけど、今日はもう帰ろうか」

「それはいいが、その土の塊はどうするんだ?」

「ん~……、一応、ギルドに伝えておこうかなと」

「なるほどね」


 フィオと2人、木々の間を縫って、のんびりとネフライトの街を目指す。妙に静かな森が緊張感を与えるが、それを意識しないよう、あえてのんびり帰っていた。

 森を抜けて、ネフライトの街まで一本道、というところまで出てくると、遠く門を守るように立つ兵士の姿が見える。

 あぁ、もうちょっとで街だぁ、と思った。
 



 ーーーーーその直後、




「ーーー レイッ!!!」

「!…っ!? 何?この音?!」

「近付いてくる、…魔物と、…冒険者か!?」

 喧騒が、急激に近付いた。
 背後の生い茂った木や藪が激しく揺れている。危険が近づいているのがわかる。ぼけ~っとした現実から急に引き摺り下ろされるように意識がクリアになったことに戸惑う暇も無い。

「くそ…っ、こんな筈じゃなかったのにぃ…!!」

「おい待ってくれ!」

「ひぃぃぃぃっ!」

 さっきまでいた森から、血まみれになったボロ雑巾のような冒険者達が顔中を色んな液体で濡らして駆け出してきた。

 そのうちの1人、振り返った冒険者が目を剥いてーーーーー。

「ぁあぁあぁああああッ!畜生!!ちくしょぉおおおッ!!!!!」

 絶叫。

 まるで狂人のような有様は、緊張感に満ちた森の中起爆剤にも等しかった。

「フィオ、魔物が…!」

「アウルベアだっ!何故ここに……?!!」

「!…ッ、まずい!街に近づけちゃダメだ!!」

 咄嗟に叫び、手に持っていた土の塊を投げ捨て戦闘体制に入る。

 そんなレイの横を冒険者達が通り過ぎようとした時、冒険者の1人がレイの腕を強く引っ張った。

「ーーー なッ?!!!」

 それは囮というのか、生贄と言うべきか。

 冒険者を追いかけるように現れた、3mはあろうかというアウルベアの前に引き倒されてしまった。
 
 目の前には藪を蹴散らし木々をなぎ倒しながら近づく凶悪な魔物。

 巨大熊アウルベア。

 凶暴で巨大な、『銀二本線』以上の冒険者がパーティを組んで討伐する魔物。

 それがレイの目の前で鋭い爪を光らせながら腕を振り上げている。

(あ、本当にスローに見える)

 周りの動きがものすごくゆっくりに見える。死ぬ間際は周りがスローに見えると本で見た事あるが、本当だったんだと、妙に冷静にに考えていた。

 遠くの門から鳴り響く警笛と、門兵が走ってくるのが視界に入った。

(あ、ダリルさんだ)

 すぐ近くでは必死の形相で何かを叫んでいるフィオが見える。
 その顔を見てレイは自分の状況を思い出した。

(避けなきゃ!)

 咄嗟に体を捻るが、太腿に激痛が走る。アウルベアの爪がレイの太腿を掠め切り裂いたのだ。

 激痛に顔を歪めながらも風魔法を繰り出す。レイよりも一瞬早く風魔法を繰り出したフィオ。2人の魔法攻撃が、アウルベアの胴体へと当たる。

「グオァァアアアッ!」

 さすがに2連撃はきつかったのか、アウルベアはさっきとは雰囲気の違う声を上げて、仰け反った。
 レイは立ち上がり、でもこのまま街には行けない、と一瞬逡巡する。
 その一瞬の隙を突かれて、怒りに振り回したアウルベアの腕が当たり、レイは華麗に宙を舞った。












 
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