その日暮らしの自堕落生活

流風

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【過去話】フィオの昔話2

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 ある日、フィオドールの家に行ったら獣人が集まっていた。どうやらフィオドールは死んだらしい。昨日訪れた時もベッドから起き上がれないくらい弱っていたから寿命なのだろう。それでも、ずっとベッドに横になっているしかない状態だったけど、フィオドールは幸せそうだった。

「平気だよ。私は会いたい人がいるから。だから死ぬのは平気なんだ。やっと…やっと会いに行ける」

 幸せそうに言っていた。『唯一の人』が『会いたい人』だったのだろう。会えたのかな?迎えに来たのかな?遅刻せずに会いに来てくれたのかな?いいな。俺も欲しいな。

 ……俺も欲しいな。唯一の人。

 フィオドールが死んでさらにつまらなくなった。この獣人族の中に俺の唯一の人はいない。いないなら探しにいけばいいんだ。よし、探しに行こう。

 獣人族の中では見つからなかったから、俺の唯一は別の種族なのかもしれない。俺は混合種だから。
 探しに行こう。見つかるかな。見つかるといいな。
 ずっとつまらないと思ってたけど、『唯一』を考えると少しだけ胸がドキドキする。これはなんだろう?

 まずは魔族領に行ってみよう。俺は人間によって生み出されたが、あの場所に俺の唯一がいるとは思えない。



 魔族領に入ったが、魔力に敏感な魔族から見ると、俺の見た目と魔力が奇怪だったのか攻撃をしてきた。名乗ってないのがいけないのかな?そういえば人間は名乗りあっていたな。俺はなんて名前なんだろ?そういえば名前がないな。思わず『フィオドール』種族は『フェンリル』と名乗った。フィオドールのように『唯一』を見つけたいのだから、この名を名乗っていたら見つかるかもしれないな。敵意もなくただ名乗ろうと言葉を発するとさらに化け物と叫びながら攻撃してくる。
 どうして?なんで攻撃してくるのかな?俺は唯一を探しているだけなのに。
 邪魔する者に攻撃仕返していたら、いつの間にか敵認定されていた。出てくる魔族も徐々に手強くなってくる。ここでの捜索は難しいな。人間の世界に行ってみようか。



 人間の世界に行ってみた。すると人間が噂をしていた。「珍しい黒髪の聖女が城にいる」と。
 やっとみつけた。
 その人が俺の『唯一』なのかな。城に侵入して出会った、召喚されたばかりのナナという女性。顎下までの黒髪の女性は、最初、俺が喋ることに驚いていたが、異世界だからそんなものかと受け入れてくれた。ナナの前以外では喋らず、俺はナナの愛玩動物として一緒にいることになった。

「フィオドールの毛はとても綺麗ね。とても素敵よ。可愛い」

 毛を綺麗にしていたらよく撫でてくれる。気持ちいい。俺の唯一。これがフィオドールの言ってた幸せなのかな。やっと手に入れた俺の唯一。だけど、俺にとっての唯一だけど、彼女にとって俺は唯一じゃなかった。けど、側にいられればいいから、何でも言うことを聞いた。

 命令される事は楽だから。研究所にいた時のように俺はまた支えを手に入れた気がした。
 これはどんな関係なのかな?人間が獣人の子供に言っていた『奴隷』かな?

「こんなに可愛いフィオドールを奴隷にしたら、周りから総バッシングよ。可愛いフィオドールはずっと私の側にいてね? 私、側にいてくれるフィオドールが、だぁい好き」

 くすくすと笑いながら俺に語りかける。ナナは俺に大好きだ、可愛いなどと沢山囁いた。そして俺に語る台詞と似た言葉をどこにでも誰にでも吐いていた。
 それでも構わない。側にさえいられれば。
 きっとあのフィオドールのように、幸せというものを知り、幸せに死んでいける。そう思っていた。

 やがて、彼女は獣人や魔族を殺し始める。
 人間の洗脳という教育に染まっていった彼女は、獣人や魔族といった他種族は悪だと教えられ、存在を拒否し、殺した。

「魔法1つで何十もの獣人や魔族が死んでいくの。ゲームみたい。実感無いわぁ……殺しても良いよね?悪い存在なんだし」

 強力な力を持ち、人間の進行の妨げとなる獣人や魔族を殺す彼女は聖女とされていく。

 誰にでも優しくて、生き物を殺すことに躊躇っていた彼女は、獣人を殺し、王太子の婚約者を殺し、王太子妃になった。
 彼女は、今度は人間を殺し始めた。自分の事を悪く言う人間を。時には自分で、時には周りを利用して。俺にも殺してきてと言ってくる。

「ねえ聞いて!今日は300匹以上倒したのよ!新記録よ!もう脳内エンドルフィン出まくりよ!」

 意味はわからないが、凄く興奮した様子で近衛騎士団長に語っている。

「王太子が怪我して今日は夜空いてるの。興奮して眠れそうにないから、……ご褒美頂戴?」

「いくらでも。聖女様のためならば」

 楽しそうに殺した数を近衛騎士団長に報告している彼女を部屋の隅からじっと見つめる。騎士団長は寝所でご褒美というものをナナに与えていた。

 俺には与えられないご褒美。ナナは嬉しそうだった。

 彼女はベッドの上で獣のように繋がる体勢を好んでいた。
 そんな彼女をそっと見守っていたが、なんとなくこの光景は先代のフィオドールには見られたくないなと、ふと思った。

 その日もいつもの通り、近衛騎士団長と彼女は寝所で繋がっていた。彼女が幸せなら俺は幸せになれる。そう思っていたけど、何故か彼女が美しいと思えない。

 フィオドールは『唯一』が幸せで自分も幸せなら、相手のことがとても美しく見えると言っていた。
 でも、美しいとは思えない。
 でも側にいられなくなるから、彼女の望むままにしなくては。

 だんだんナナを見ているのに飽きてきて部屋の隅でうたた寝をしていたら、人間どもが乱入してきた。

「きっさまらぁ!何をしている!捕らえろ!」

「えっ?!きゃぁあ!なにっ?」

「ナナ!これはどういう事だ!」

「で、殿下ぁ、わたしぃ、騎士団長に無理矢理っ!」

 それでは駄目だナナ。
 王族の女は、王族の夫以外のものを例え無理矢理だとしても、1度でも銜え込んだ事実があれば、処刑か、避妊術を受け、慰みものになるしかない。
 知っているだろ?王妃教育だって言って習っていただろ?ずっと血筋に拘る下らない人間の教育を受けて来たのだから。

 こうなったらナナは助からない。
 だから、俺と行こう。
 こんな所捨てて。
 俺と一緒に行こう。
 一緒にいてくれるんだろ? 

 俺はナナを助け出すために、ナナに向かって叫んだ。

「ナナ、王族は君を捨てる。だから、俺と一緒に逃げよう!」

 呆気にとられた顔をしている騎士や王太子が面白かった。俺が突然喋ったから驚いたんだな。ずっと犬と思ってたしな。今しか脱出出来ない。
 早く行こう、ナナ。

「ひっ!ちがうの!ちがうのよ!殿下!助けて!」

「え?」

 ナナは怯えていた。奇異なものを見るような目をして俺を見たかと思うと、王太子に縋りつき助けを乞い始めた。

「なんだ!あの化け物は!犬じゃなかったのか?!いつの間に浮気相手だけでなく化け物まで連れ込んでたんだ!」

「で、でんかぁ!あの化け物をどっかにやって!私は知らなかったのよ!助けてぇっ!」

 王太子に縋りつくナナは、もう俺の事を見ていたかった。喋る犬などいない。俺のことが周りにバレたから俺を否定し始めたか。

「黙れ!騎士団長と浮気したばかりか化け物まで隠しているとは!王家の恥だ!お前の処分は後だ。黙っていろ!あいつと化け物を殺せ!」

「ナナ!早くこっちに来て、逃げよう!お願い!」

「嫌よ!私は王太子妃なのよ!近寄らないで!」

「嫌だ、違う、ナナ。お願い。そんな事言わないで、俺と一緒に来てくれ……一緒に逃げよう」

 ナナを説得するのに夢中で気づかなかった。気づけば騎士に捕らえられていた。
 捕まって牢屋に入れられた。どこか別の牢から騎士団長の叫び声が聞こえる。拷問を受けているのだろう。煩いな。
 叫び声を聞きながら俺は何とかナナを救出して脱出する方法を考えていた。

 後脚を鎖で固定され、する事もなく眠っていた時、石造りの牢屋に足音が響いた。
 この足音は、ナナだ!

「ナナ!来てくれたのか?ここから一緒に逃げよう!俺と一緒にいたくないならそれでもいい!助けるだけでもさせてくれ!その後は好きに生きていい。ナナに生きていて欲しい」

 ナナが僕の房の前に来る。
 もう、一緒にいてくれなんて言わない。死なないで、生きていてくれるなら。

「……あんたの…せいで」

「どうした?ナナ」

 鎖が邪魔で近くに寄れない。
 ガチャガチャ鳴る音が煩く、ナナの声が拾えない。
 顔を上げたナナは、俺を憎々しげに見ていた。

「あんたのせいで、全部滅茶苦茶よ」

「ナナ……」

「あんたのせいで!あんたのせいでっ!!」

 ナナは檻を魔力で壊し俺の側に歩いてくる。

「何でも言うこと聞いてたから側に置いてたけど、見張りもロクにできないなんて、役立たず!動物なんだから敵意に敏感なんじゃないの?!しかも化け物だとバラすなんてサイテーよ!私はこの国の敵認定されたのよ!」

「ナ…ナ……?」

「あんたのせいで私の人生台無しよ!騎士団長もあんたも許さない!死んで!死んで!化け物!」

 そう言ったナナは、硬い棒で俺を殴り始めた。

「化け物!化け物!化け物!」

「あ、がぁ」

 何が起きたか分からなかった。
 理解する前に、視界が狭くなる。目の前が全て赤に染まる。

 何が、いけなかったんだろう。
 見付けたと思ったのに。
 ずっと優しくしてたのに。
 ずっと言われた通りにしてきたのに。

 俺には、『唯一』なんて見付けられないんだ。
 今の姿は、先代のフィオドールには見られたくないな。
 頭に強い衝撃を受けた。意識が遠くなる。その時、扉が開いた音がした。

「何してる?!どこから入ったんだ!こいつは大事な研究対象だ!殺すな!」

 意識が朦朧とする。最後に見たのは、ナナが押さえつけられる光景。声は、牢番か。
 たかが牢番が、王太子妃であるナナにその物言い。やはり、その地位は地に落ちたのだろう。

 もう一人の牢番が、怪我の確認の為なのか俺の鎖を外す。
 目も腫れてほとんど開いてない。どうやら怪我で動けないと思ってるらしく、鎖を外したまま医師を呼びに行った。
 目の前には、床に押さえつけられたナナと牢番。
 怒りか憎しみか、醜く怒りに顔を歪めたナナ。美しくない。美しくない。それでも…。

「ナナ、助けるから、俺と一緒に……」

「煩い!死ねよ!化け物!アンタのせいでぇっ!」

「おいっ!動くな!」

 もう無理だ。ナナに俺の声は届かない。思えば獣人達を殺し始めた頃から壊れてたんだ。俺は……一人で逃げる。
 俺の『唯一』を俺は、見捨てた。

 追手を撒いたり殺したりしながら逃げた。
 国の外まで出ると追手はもう来なかった。

 一息つくと、どうしようもなく悲しかった。
 俺には見付けられない。
『唯一』を見付けられない。
 ナナを失った悲しさより、『唯一』を見付けられない事が悲しかった。

 思えば自分と同種族もいないのに…。化け物だから、混合種だから、フェンリルだから、ずっとこのまま一人なんだ。
 どうしようもないぐちゃぐちゃな感情が、渦巻いて俺は吠えた。酷い怪我だ。このまま魔物に食われてもいいな。見付けられないなら、生きていたくない。

 俺を殺してくれ…。

 自分で死ぬことは出来ない。本能なのかただの恐怖心からか、自死をする勇気はなかった。怪我も脅威の自然治癒力で回復した体が憎らしい。
 
 あれから何年も経った。百年以上も経ったのに俺はまだ生きて彷徨っていた。不慮の事故とかで死なないかな。そんな事を考えながら彷徨っていると、どこからか甘い匂いが漂ってくる。なんだろう?初めての匂いだ。空腹の体に匂いが染み渡る。

 フラフラと匂いを辿っていくと、黒髪の少女がいた。黒髪の……俺の黒髪の唯一?
 甘い匂いは、黒髪の少女の手元から漂っている。

 黒髪の唯一。甘い匂い。黒髪の唯一。甘い匂い。

 気づけば、少女の目の前まで出てきてしまっていた。そんな俺に「たべる?」と匂いの元を差し出してきた。
 思わず飛びつき食べてしまったが、こんなに美味しいものは食べたことがなかった。

「美味い!もっとくれ!」

 思わず言葉を発してしまった。しまった。失敗した。これでこの子も化け物と呼び畏怖しだすのかな…?

「そうか。この世界の仔犬は喋るんだ…」

 なんとも間の抜けた声が聞こえてきた。

「喋るか!しかもフェンリルの俺がどうしていつもいつも犬扱いなんだ!ふざけるな!」

 心が荒んでいたのか思わず荒い口調になってしまった。失敗した。怖がらせたかな?

「ごめんごめん。もう少し食べる?」

「食べる!」

 全然気にしてなさそうだ。変な奴だな。ナナならヒステリックに叫びながら殴りかかってきたぞ。
 とりあえず、差し出された甘いものを食べる。優しい甘さが体に染み渡っていく。好きだなこれ。思わずしっぽが大きく振れる。フワフワした気持ちになる。あぁ、ひょっとしてこれが幸せなのかな?幸せの食べ物なのかな?
 気持ちよく甘い食べ物の余韻を楽しんでいると、毛の中に指を入れ全身を撫で回される。ナナのような表面をそっと撫でる撫で方じゃない。もっと激しい全身を包み込むような、くすぐったいような、気持ちいいような不思議な感覚だった。

 まだ、俺の唯一と決めたわけではなかったのに…もう諦めようと思ってたのに……。

「……おのれ、俺を懐柔しようなど」

 なんだこいつは?化け物と言われる俺に対してこの行動は何なんだ?こいつは、俺の唯一なのか?まだ幼い気もするが……。ナナは失敗した。あれは俺の唯一じゃなかった。俺に唯一なんてできるのかな?
 この子を俺の唯一に育て上げたらいいんじゃないか?それに、もう二度と離れないようにずっと俺のそばにいるように……。

「ごめんね。素晴らしい手触りだったわ。ありがとう」

 俺を膝から下ろし、焚き火の始末をし始めた。移動するのかな?どうやってついて行ったらいい?なんて言えば?化け物だと正体がバレたのになんて言えばついていける?

「いまから、滝に行くんだけど、一緒に行かない?何か用事ある?家族が待ってたりする?」

 行っていいのか?
 まさか、向こうから誘ってくるとは思わなかった。

「俺は1人だ。家族なんていない。別に用事もないが、滝に何の用があるんだ?」

「寒雨草を取りに行くの。花を加工して飲むと、甘くてとっても美味しいらしいよ」

「ほう、甘くて美味しいのか…」

 滝か。
 1人で行く気か?危ないだろう。
 しかも、甘くて美味しい飲み物ってなんだ?さっきのより美味いのか?

 気になる。

「この先の滝なら、霧虹滝だな。よし、俺も一緒に行ってやろう」

 俺が守ってやればいいか。よし。離れないでいよう。

「霧虹滝って言うんだ。じゃ、道案内よろしくね。私はレイって言うの。あなたの名前は?フェンリルでいいの?」

「俺はフィオドール。フェンリルは種族だ。これでも200年生きているんだぞ」

「へぇ200年か。長生きね。ねえ、フィオって呼んでいい?」

 フィオか。うん。なんだか俺だけの名前みたいでいいな。

「うむ、美味い菓子を貰った礼に特別に許してやろう」

 ナナとは失敗したが、この少女は自分の唯一に相応しいように育てよう。守ろう。育ててあげよう。
 俺が喋ろうがフェンリルだと言おうが動じなかった。俺はまだ小さいが、フェンリルは本来ならもっと大きい。人間も文献にそう書いてるって言ってたしな。それを伝えても「モフモフ割増だね」と、トンチンカンな返答が返ってきた。一緒にいる間も隙だらけで、あげく俺が側にいるのに平気で爆睡する。

 俺が悪い奴ならどうするんだ?ナナは添い寝なんてしなかったぞ。
 俺はこの大きさでも、レイの首くらい簡単に噛み砕けるぞ?俺みたいな生き物初めて見たって言ってたのに、警戒心なさすぎじゃないか?今日出会ったばかりだぞ。

 だめだ。この少女は呑気すぎる。やっぱり俺が守らなきゃ。



◇◇◇



「朝だぞ!いつまで寝てるんだ!起きろ!」

 レイは夜遅くまで本を読み、朝遅くまで寝る日が多い。
 人間は日の出と共に活動しているのに。
 やっぱり俺が見ていないとダメだな。
 ダメ人間になってしまうな。

「ん~………」

 寝返りを打ったかと思うと、そのまま俺を布団の中に引き摺り込んだ。

「ふふっ。フィオはやっぱりフワフワで気持ちいいね。幸せ~」

 俺を抱きしめながら幸せなんて言っている。わかってるのか?俺は人間に化け物と呼ばれてた生き物だぞ?

「……幸せか。なら仕方ないな」

 もう少しだけ寝かしてやるか。

 レイの腕の中は気持ちがいい。早く起こさないとダメ人間に育ってしまいそうだけど…………まぁいいか。少しくらいなら。

「ふふっ。ツンデレよね」

「??? ツンデレとはなんだ?」

「…………かっこいいって意味よ」

 絶対に違う。

 俺に反論されないよう抱きしめる力が強くなった。さらに俺の頭に顔をくっつけて身動きが取れない。俺の頭に口をつけ、背を優しく撫でてくる。
 時々スーハー匂いを嗅いでくるのは何故なんだ?

 ツンデレの意味はわからないがまあいいか。
 こんなに人の温もりを感じた事はなかったな。知らなかったな。
 ふふっ。たぶん、この気持ちが、『幸せ』なんだろうな。
 胸がホワホワする。なんだろう?今まで感じた事のない気持ちだ。

「大好きだよ、フィオ」

 ナナの「だぁいすき」の言葉と一緒なのに、この高揚感はなんだろうか。これが『嬉しい』なのかな。『幸せ』なのかな。

 スヤスヤと寝息をたてながら二度寝し始めたレイの顔を眺めながら溜息を吐く。

「………まぁ、今日は勘弁してやるか」

 寝ているレイにオデコをスリスリしてそのまま一緒に眠りにつく。暖かくて気持ちいいな。





「う~ん!いい天気だぁ!!」

「今日は狩だぞ。体動かすぞ」

「はいはい。頑張ろー!」

 レイがビビりだから、街から日帰りできる場所しか行かない。俺の体もまだ小さいから、そんなに強い魔物が出ない場所の方が修行するにも都合が良い。

「レイ、ポーションばかり作ってないで、もっと自分の身を守る魔道具とか作ったらどうだ?それと魔法の特訓もした方が良いと思うぞ」

「そうだね。それも考えないとね」

 基本レイは呑気だと思う。最強の賢者から学んだのだから、攻撃魔法を強化すればいいのに。いまだに初級魔法しか使えないのが理解不能だ。魔道具の作り方も調合の仕方も習ったはずなのに、いまだにポーションばかりを作っている。金になるものより、もっと身を守るものを作ればいいのに。

 強く言えば特訓するんだろうが……

「見てフィオ!冬に木の実があるよ!食べれるのかな?」

「待て!知らない物を食べるなよ!」

 楽しそうにしているレイを見てると、強く言えない自分が情け無い。



 こうして、最強種の最弱と、最強賢者の最弱コンビは冬の森で食べ物の話ばかりしながら「いつか強くなろう」とのんびり歩いて行った。
















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