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街へ着きました
しおりを挟む夜明けとともに街へ向けて出発した。
山の中をまっすぐ街に向かって歩いていると、街道っぽい所に出た。その奥には、街壁らしきものが見える。
街壁に沿って歩いていくと、人混みが見え、さらに二つの門が見えた。
どうやら、馬車用とそれ以外に入口を分けているようだ。
レイは、徒歩や騎乗で訪れた人用の列に並び、順番を待った。
しばらく待っていると、レイの順番が回ってきた。門兵は、人の良さそうな口髭を生やしたおじさんだった。
「こんにちは。お嬢ちゃん。ヴラディの街にようこそ。一人できたのかな?」
「こんにちは。おじいちゃんと暮らしてたんですが、おじいちゃん、亡くなってしまって…。それで出稼ぎに来ました」
用意していたセリフを言う。ま、ある意味、嘘ではないしね。
「……そうか。大変だったなぁ。ま、ここはそこそこ大きな街だから、頑張ればなんとか生活できるさ」
大きな手で、頭をわしゃわしゃ撫で回すのはいいけど、力が強すぎる!首が!首が!
「ん?嬢ちゃんは黒眼黒髪なんだな」
頭を撫でてるうちに、被ってたフードが外れてしまった。フードの下に隠れてた髪を見て驚いた顔をした。
「はい。そうですけど、黒眼黒髪って珍しいんですか?」
「珍しいっちゃ珍しいが、いないわけじゃない。いや、すまんな。上から、黒眼黒髪の40歳くらいの女性がいたら知らせるよう言われててな」
「え?」
「ま、嬢ちゃんはどう見ても対象外だ」
ワハハと笑いながら、何やら紙を用意している。その探し人、私なんじゃないかなぁ。やっぱり探されてたんだ。でも、若返ってるなんて普通考えないよね。このまま、生活してたら、私が召喚勇者ってわからないんじゃないかな?
「田舎から出てきたって事は、嬢ちゃんは、身分証は持ってないんだな?」
「はい」
「じゃ、通行料に銀貨5枚な。あと、仮の身分証を作るから、名前と年齢教えてくれ」
身分証ないと、銀貨5枚か… 。結構痛いな。
銀貨を出しながら、質問に答えていく。
「レイ。13歳です」
「13歳?!サバ読んでないよな。上に」
「13歳です!何歳に見えるんですか?!」
「… …10歳?ほら、なんか、ちっこいし… 」
小柄な日本人の中でもレイは背が低いほうだった。こっちの世界は全体的に皆背が高い。がっくり項垂れていると、
「13歳な!13歳!すまなかった!とりあえず、この水晶に触れてくれ」
ソフトボールサイズの水晶を差し出してきた。
やけくそ気味に、手を置くと、
「よし。いいぞ」
「??? 何も起こらない」
「何も起こらない方がいいんだよ。悪い事してると、それに応じた色に変わるんだ。ほら、仮の身分証ができたぞ。この街で働く気なら、まずはこれを持って、冒険者ギルドか商業ギルドで正式な身分証を作ってもらうんだな。この仮の身分証は、ギルドに預けてくれたらいいからな」
そう言って、折り畳まれた紙を渡してきた。なるほど。さっきの水晶は、人の悪意を読み取る魔道具か何かだったのか。どんな魔法を付与してるんだろう。すごく気になる。
師匠から魔法を習っていたが、風魔法と火魔法が中級程度まで、それ以外は初級までしか習う時間がなかったのだ。それ以外の魔法については、これから師匠が残してくれた本を読み、自力で勉強していかなくてはいけない。
魔道具作成についても基礎は学んだが、まだたいしたものは作れない。そんな勉強中の身だからこそ、色々な物に興味が湧いてしまう。
そんな好奇心は押し殺して、とりあえず今、知らないといけない事を問う。
「ありがとうございます。ちなみに、ギルドの場所とオススメの宿も聞いてもいいですか?」
「ギルドはこの門を出て右にまっすぐ進めばいい。冒険者ギルドも商業ギルドもそこにある。デカイ建物だから、すぐにわかるだろう。宿はそうだな… ギルドからもう少し行った所に若葉亭って宿があるから、そこがいいだろう」
「若葉亭ですね。行ってみます」
「おぅ!何か困ったことがあったら、声掛けな!教えてやるよ」
「ありがとうございます」
手を振り、仮身分証を手にギルドに向かって歩き始めた。
第一町人である門兵の人が怖い人じゃなくて良かった。前とは違うこの世界なら、ひょっとして私は馴染めるかな。人嫌いを克服できるかな……。
よし。とりあえず、まずはギルドで身分証を手に入れるのが先かな?
召喚云々の事も考え、他国に移動してから身分証作る事も考えてたけど、私が若返ってるなんて思ってないだろうから、ここで作っても良さそうね。通行料、地味に痛いし。よし、ギルドへ行こう。
◇◇◇
教えてもらった方に向かって歩いていると、二階建ての大きな建物が見えた。
剣と盾の図柄の看板と、金貨の図柄の看板がかかっている。それぞれ入り口は別にあるが、建物は一つだ。
スイングドア越しに見ても、今は人が少ないようだ。真っ昼間だしね。
「へえ、商業ギルドと冒険者ギルド、同じ建物なんだ。便利そう」
まずは商業ギルドのドアを押して入ると、目の前には受付カウンターがあり、左右に棚が並び、商品が置かれていた。
受付に行き、会員登録したい旨を伝えるが、まずは何か商品をギルドに卸して、信用を得てからでないと登録できないと断られた。
しかし、登録しなくても、2時間銀貨2枚で、右手奥にある作業部屋を貸してくれるらしい。
これは良い情報だな。今度借りに来よう。
商業ギルドの後は冒険者ギルドだ。中で繋がってるみたいだけど、通路に厳つい人達がいたので、一旦外に出て冒険者ギルドへ入り直した。
ドアを潜ると、右側手前にクエスト掲示板、右奥には商業ギルドと繋がっている通路、左に冒険者達の作戦会議用らしきテーブル、正面に受付がある。登録は受付の左端のようだ。
「すみません、ギルドに登録したいんですが」
「はい、新規の方ですね。お名前は?」
「レイです」
「レイさんですね。紹介状か仮の身分証はありますか?」
「はい」
「確認します。少々お待ちください」
にこやかだけど少し圧があり、逆らってはいけないオーラがすごい女性に声をかけると、淀みなく身分証を求められた。この人は仕事が出来る人だ。間違いない。勤めてけっこう長いのかな? ベテラン感がハンパない。
彼女はざっと目を通し、一つ頷いて隣の魔道具を操作している。なんだろう?
「では、登録タグができる間に説明をさせていただきますね。まず、依頼について。当ギルドで斡旋する依頼クエストは大きく分けて四種類、討伐、護衛、採集、掃除など雑務の日雇いです。討伐と採集の依頼はすぐそこの掲示板の右側に、護衛と日雇いの依頼は掲示板の左側にあります。紙の左端にランクが書かれていますので、これから発行されるタグのランクの一つ上の依頼か、下のランクの依頼しか受けられません。自分の実力に見合った依頼を受けるようお願いいたします。冒険者をするにあたって、何か特技はございますか?」
「調薬ができます。あと、剣術少しと魔法も少し使えます。調薬の素材を自力で集めていたので、採集は全般的に得意です」
魔法が使える人はだいたい王宮勤めになるが、少し使えるくらいの人は冒険者の中にもいると師匠が言ってたからね。
間違えて使った時のために、申請しておこう。
「ではその情報も書きこんだギルドタグを用意しますね。その間に先に冒険者ギルドの説明をせていただきます」
了承の意味を込め、頷くと、満足げな顔で微笑んでくれた。
「まず、冒険者とは依頼を受けてなんでもする組織です。ある程度こちらで精査いたしますが、最終的にどの依頼を受けてどんな被害を被っても…たとえ命を落としても、自己責任となります。また、依頼を失敗した場合には、罰金が課されます。次にランクタグをお渡しします」
「ランクタグですか?」
「ギルドでの実績を示すものです。銅、銀、金、の三色のタグに線が一本、二本、三本の順で入っていき、信用と実力を表します。レイさんは初めてですから、銅です。ランクが上がったら、一本ずつ線が入っていきます。ちなみに、金の上に黒があります。幻のブラックタグと呼ばれ、現在所持している人はいません。金の冒険者の方は少ないですがいらっしゃいますよ」
そう言いながら渡されたのは、銅色で、親指くらいのプレートだった。プレートには、『レイ 黒髪黒眼 剣術・魔法』と書かれていた。
「それがレイさんのタグになります。一生懸命依頼をこなすと、名前の裏側に線が入っていきますからね」
なるほど。最初は線無しスタートか。
「それと、紛失したら再発行手数料を頂くので気をつけてください。あと、タグは首から下げている方が多いです。よろしければ、こちらをどうぞ。サービスです」
そう言いながら、チェーンをくれた。
有り難く頂戴し、首から下げた。
「説明は以上になりますが、他に気になる事はありますか?」
「じゃあ… 、すみませんが、オススメの服屋や防具屋を教えてもらえませんか?」
今、私が着ているのは師匠のお下がりを仕立て直した物だ。自分の服が欲しい。
「そうですね、服屋は、マーサの服屋が良いでしょう。ここを出て、左へ。三つ目の通りの所にあります。防具屋は、その隣のヨークの防具屋がオススメです。夫婦で経営してる店です。ぜひ行ってみて下さい」
「はい。ありがとうございました」
よし、商業ギルドには断られたけど、冒険者ギルドは無事登録できたし、今日は服買って、宿屋で休もう。
まずは宿屋を確保しよう。ギルドを出てしばらく歩くと、紹介してもらった宿屋を見つけた。
昼過ぎ、これから混み出すであろう店外で、中学生くらいの女の子が一人、掃き掃除をしていた。
「こんにちは」
「こんにちは!いらっしゃいませ!宿泊ですか?」
私の声に反応し、快活そうな声ですぐに接客を始めた。良く教育されてるなぁ。
「はい。とりあえず1週間泊まりたいんですが、部屋は空いてますか?」
「はい!空いてますよ!朝食付で1週間なら金貨2枚と銀貨8枚です!こちらへどうぞ!お母さ~ん、お客さん!」
一泊銀貨4枚か。ダラダラしてたら、すぐにお金なくなっちゃうな。
案内されたカウンターには、女性ながらにガッチリした体格の逞そうな女性だった。元冒険者と言われても納得しそうだ。
「いらっしゃい。おや、可愛いお客さんだね。一人で宿泊かい?」
「はい。とりあえず、1週間お願いしたいです」
「じゃ、金貨2枚に銀貨8枚だね。身分証は持ってるかい?」
さっき作ったばかりのギルドタグを見せる。
「冒険者だったのかい?見えないねぇ。レイちゃんだね。タグありがとう、もういいよ。部屋は2階の階段上がってすぐの右側の部屋だよ。朝食は出すから、たくさん食べて大きくならなきゃダメだよ!ここは食堂も兼ねてるから昼食と夕飯も代金払ってくれたら食べられるからね。はい、これ部屋の鍵ね」
ニカって笑いながら鍵を差し出してくれた。面倒見が良さそうな人だな。ギルドのお姉さんがここを紹介してくれた理由がわかった気がする。
「すみません、マーサの服屋ってお店知ってますか?このまま買い物に行きたいんですが」
「マーサの店ならすぐそこだよ。じゃ、買い物終わってから鍵を渡そうかね」
店の場所を教えてもらい、宿を出る。服屋はすぐ近くにあった。
こっちの世界に来て、初めての買い物。ちょっとわくわくする。そっと店内を覗き見ると、畳まれた衣服が壁際の棚に積み重ねて並べられ、店内中央には、ワゴンの上に服が山積みに置かれていた。そのワゴンの中の服を整理していた大柄な、いかにも『お母さん』ってカンジの人と目が合ってしまった。
「あらあら、可愛いお客さんね。いらっしゃい。どんな服を買いに来たの?」
「こんにちは。冒険者になったので、動きやすい服と、隣のお店で防具も買いたいなって思ってきました。冒険者ギルドでマーサさんのお店を教えてもらったので」
「冒険者ギルド?もしかして、オルネアかしら?それにしても、あなたが冒険者なの?小さい体で大丈夫かい?」
「おじいちゃんに剣術も習ってますよ。それに、私は採取専門なので討伐は基本しないようにするので大丈夫です」
なんか迫力がある。ちょっと気圧されて思わず一歩後ろに下がってしまった。
「そうかい?まあ、人の仕事に口出してもいけないね。動きやすい服が欲しいんだったね?」
「はい。着替えも含めて上下3着は欲しいです。あと、下着と靴下と靴も。これから寒くなるだろうから、コートもください」
これから、冬になる。防寒具はそろえておかないとね。
「防具も買うんでしょ?ちょっと来て」
そう言って、マーサさんに引きづられるように、レイは隣の防具屋へと連れて行かれた。
「あなた!ちょっとこの子の防具を見繕ってくれない?新人冒険者ですって」
マーサさんの声を聞いて店の奥から、これまた大柄な無精髭を生やした男が出てきた。
薄々気づいていたが、この世界の人は大きい。日本人の中でも小柄なレイと比べると、さらに大きく見える。
「嬢ちゃんが冒険者か? ……サイズがないな」
そうブツブツ言いながら、店の奥をゴソゴソと漁っている。
「これがいいだろう。まずは、バブルフロッグの皮でできたブーツ。軽くて伸縮力もあり、丈夫だ。それと、ヴィーブルという魔物の皮で作った胸当てだ。軽くて衝撃吸収に優れている。それに、このベルトで調整できるから、成長してもしばらくは使えるぞ」
どちらも、濃いめのベージュで、ブーツは編み込みブーツだ。結構可愛いかも。
「それとこれ。アウルベアと呼ばれる魔物の皮でできたローブだ。この厚さで、冬は暖かく、夏は涼しい。多少の魔法では傷一つつけれない上物の皮なんだが、中途半端に残った切端で作った物で、なかなか買い手がいなかったんだ。嬢ちゃんなら、ピッタリじゃないか?」
そう言われ、試着してみると、少しゆとりがあるくらいの、ちょうど良いサイズだった。
しかし、このローブ、色が……
(赤ずきんちゃんみたい)
そう、赤いのだ。赤いローブで、腰下までの丈でフード付き。胸元の大きな黒いリボンで止めるタイプだ。可愛い。可愛すぎる。
中身40歳には、抵抗がある色味だ。
「……この服、派手すぎないかな?大丈夫かな?」
「冒険者ギルドに行ったら、周りをよく見てみろ。もっと派手な金ピカの装備の連中ばかりだ。むしろ地味な部類だろう。よし、サイズも問題なさそうだな。マントは売れ残りだから値引きしてやるよ。防具一式で金貨4枚だ」
マントは確かに質が良い。よし、これにするか。金貨4枚を渡すと、すぐにマーサさんに隣の服屋へ引きずられて行かれた。
マーサさんセレクトで、スカート三枚、タイツ三枚、服三枚、下着にコート、ついでに目についた室内着になりそうな服と、普段履き用の靴も買った。全部で金貨3枚と銀貨7枚になった。
「たくさん買ってくれてありがとね。これはサービスであげるよ。一人で持って帰れるかい?」
黄色とピンクのリボンを二本づつ差し出してきながら聞いてきた。この世界、買い物バックは持参しないと店にはないのだ。
「大丈夫です。おじいちゃんの形見のマジックバックがあるので」
バックに入れるフリをしながら、時空魔法のアイテムボックスに入れていく。
今は作られなくなった魔道具も、過去に劣化防止の魔法を付与してたくさん作っていたため、持っている人も珍しくないらしい。高級品ではあるけれど。
だから、マジックバックと偽ってアイテムボックスに入れても問題なし。
「へえ、便利な物もってるねぇ。羨ましいよ」
「容量は小さいんですけどね、あると便利です」
良かった。マジックバック持ってるっていっても、おかしくないみたいね。堂々とアイテムボックスを使いたかったんだけど、この様子ならアイテムボックス使う時はマジックバックって偽って使えばいいのね。
「でも、マジックバックは高級品だからね。悪い人には気をつけなさいね」
なるほど。そういえば師匠もそんな事言ってたな。あまり堂々と使わないようにしよう。
これで日用品は揃ったかな?あとは食材だけど、もう疲れたから、食事は宿で済ませよう。
もしも、国が私を探していたらいけないと思い、隣国に移ってからのんびりしようと思ってたけど、私が若返ったなんて誰も知らないんだから、バレないよね。
これから季節は冬になる。冬の移動は難易度が高いから、暖かくなるまでこの街で生活していこうかな。
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