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食材求めて森へ行きます
しおりを挟む師匠の家にはあまりお金はない。死ぬ前に、孤児院へ寄付してしまったらしい。別に勇者について行って死ぬ気だったわけではなく、元々孤児院へ寄附をしていたからというが……まぁ、この家を見る限り贅沢はしていなかったようだから、良い人だったんだとわかる。
そのかわり、武器や防具は揃っていた。この世界、銃などはなく、武器は剣、弓、槍。これらが一般的な武器だ。
『さぁ、今から森の中へ入ってもらう。生きているなら食料調達は必須じゃからな。身を守る物を選んでもらいたいが……どれか扱ったことのある武器はあるかね?』
『ないですね。そもそも、戦った事がありません』
日本暮らしのレイは当然、殴り合いの喧嘩すらした事がない。武器なんて馴染みのない物を扱える自信はない。
少し悩んだ後、いくつかある武器の中から、一番軽い短剣を持ち、外の森へと食材探しに出た。
『あ、香草がたくさんある』
ローズマリー、レモングラス、レモンバーム、ペパーミント、カモミール、バジル。
ヨモギ、たんぽぽ、ふき、ドクダミ、シソ。
森の中には知らない植物もあったけど、見たことのある植物が多かった。
薬になる植物、食べられる植物を師匠に習いながら採取していく。特に薬になる素材はしっかり覚えておこう。ポーションと呼ばれる薬は、作り方によって効能に差が出るらしく、上手く作ると高値で売れるらしい。この世界で生きる手段にしよう。
『古代魔法を覚えると、採取したものを時空魔法に収納できて楽なんじゃけどのう』
時空魔法のアイテムボックスという魔法で収納すれば、時間停止機能付きで沢山の物を収納出来るらしい。その魔法が付与されたマジックバックもあり、高級品ではあるが、所持している者もいるそうだ。
レイはまだ魔法を覚えてないし、マジックバックもないから、採取した物はカゴの中に入れていくしかない。
魔力がなければ、異世界とは思わなかったかもしれない。それだけ、森の中に違和感はなかった。見た事ない植物もあるけど、私が知らないだけだと考えて終わるだろし。
『異世界だから、もっと変な植物が溢れてるかと思った。毒々しい色をした大きな人喰い花とかね』
『それは植物じゃなく、魔物じゃな』
『魔物?』
『森の中など、人がいない所に、魔力溜と呼ばれる黒い沼のような物が突然できて、そこから、魔物と呼ばれる生物が湧き出してくるんじゃ。見た目も強さもバラバラで、強い者になると、魔法も使うぞ』
『え?この森は大丈夫ですか?』
『ん?魔物もでるぞ。ほれ、すでにそこにおるぞ』
師匠が指差した方を見ると、プニプニの物体が。
『スライム?!』
『お?知っておるのか?そう。スライムじゃ。魔物の中では最弱じゃな。火属性魔法が使えたら簡単に倒せるが、武器で倒す場合は、核を壊さねばならん。ほれ、うっすら中にあるものがみえるじゃろ?』
目を凝らすと、緑色のプニプニの物体の中に、ピンポン玉サイズのトゲトゲしたものが見える。
『あれを剣で破壊してみよ』
『え?私、剣持つの初めてなんだけど!』
『魔力操作で魔力を循環させてると、身体能力は向上する。スライムごとき倒せんと、この世界では生きて行けんぞ』
魔物はこの世界では身近な生き物なんだろうな。仕方ない。覚悟を決めるか。腰に帯びていた短剣を手に持ち、スライムに向かって構える。見るからに魔物。気分的に初めて対峙する魔物が人型じゃなくて良かった。ウニウニと動いているだけだから、楽に倒せるだろう。
『あ、言い忘れておったが、スライムは意外と素早い動きで飛びかかってくるから、気をつけるのじゃぞ』
『え?』
その時、左右に揺れていたスライムが、突然飛びかかってきた。
『うわっ!』
ギリギリで横に飛び退き避けたが、よろけてしまった。
その隙を見逃さないとばかりに、スライムが飛びかかってくる。その動きはまるで、スーパーボールだ。
スライムの体当たり攻撃は、私のお腹にクリーンヒットした。
『アガァッ』
思わず、変な声が出てしまった。痛い!
涙目になりながらも、スライムめがけて剣を振ったが、当たらない。
痛むお腹に耐えながらも、両手で剣を持ち直す。このままだと、最弱魔物に殺される。
どうする?!
スライムとの距離感を測りかねていた時、スライムが再び飛びかかってきた。思わず眼前に差し出した剣にスライムが刺さり、核が壊れた。
完全なるラッキー勝利。実力などない。
『レイは、剣術の練習も必要じゃな。この世界では強い魔法が使えるのは、隠しておった方が良いからな。宮廷魔導師になりたいなら別じゃが、国と絡みたくないなら、魔法が使えることは極力隠すべきじゃ。それなら、剣術はある程度、使えるようになっとった方が良い』
『わかりました。練習します。それよりも、他にも魔物が出ますか?逃げた方が良いですか?!』
『いや、今日はもう大丈夫じゃ。魔物は出んよ。この辺は弱い魔物しかいなかったからな。レイが現れた時の高魔力でほとんどの魔物は逃げ出しておる』
『じゃ、ずっと魔力を放出させてたら魔物は寄ってこないんじゃない?』
『雑魚はそれで良いが、興味を持った高位魔族が寄ってくるぞ。魔王とかの』
魔王…… そりゃだめだ。
『元々、この辺りには強い魔物はおらん。ワシの光魔法の影響も残っとるからの。だから今のところ命に関わる敵はおらん。じゃからほれ、採取を頑張れ』
『頑張るけど!頑張るけど、早く身を守る魔法を教えてくださいね!』
魔物が出るとか怖い!それに、小説とかだと、召喚者ってチートで凄い運動神経になって、剣でモンスターを楽々退治していくんじゃないの?!
私のチート、「魔力量が多い」の一点だけなんだけど!
魔力制御も気を抜くと乱れるし。本人の努力頼みが多い召喚だな!
チート欲しい!
『そもそも、肉を調達するために、討伐と解体は覚えないと、この世界では生きていけないからの。ほれ、頑張れ頑張れ』
……この世界で生きていくと決めたんだ。覚悟を決めよう。
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