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【年表】【浮いている】

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・【年表】


 俺は少し動ける恰好に着替えて、ランニングへ出掛けた。
 すると、すぐさま何者かに話し掛けられた。
「あの、ちょっとよろしいでしょうか」
 エコーが掛かっていない。
 ということは怪奇なほうでは無いわけだ。というと会話メインか。
 俺に話し掛けてきた女性はメガネに黒髪のショートカット、真面目そうな感じだ。
「何でしょうか」
「私、年表を作る仕事をしているのですが、今日は悟志さん、貴方の年表を作ろうと思います。過去の話を洗いざらい教えて下さい」
「いや! 個人の年表って何なんですか! 調子乗った社長の自伝じゃないんだから!」
「私は個人の年表を作る趣味があるんです。どうか、よろしくお願いします」
 まあこれも”あの人は、今”の一部だからな、絶対断らないんだけども。
「じゃあ分かりました。何でも聞いて下さい」
「まず貴方の好きなオナニーのオカズを教えて下さい」
「いや年表関係無い! 急にド下ネタ放り込まないで下さい!」
 急にすごいこと言われたので、何かちょっとツバ飛んじゃったな。
 いやまあこの女性のほうを直視しているわけじゃないから、ツバ掛かっていないだろうけども。
 俺は正面を向いて、女性は俺の横顔を見ながら、近くにあったベンチに座りながら取材されている。
「私、欄外から作るほうなんです」
「いや絶対全て聞いてから最後に欄外を書いたほうがいいでしょ!」
「とにかく答えて下さい。貴方の好きなオナニーのオカズ」
「えっと、じゃあ、一回お話したこともありますけども、不二子さんは好きですね。グラビアの切り抜きもブルーレイも持ってますね」
 それに真面目に頷く女性。
 いや何でそんな顔できるんだよ。相当な役者だな。
 その女性はコホンと一息ついてから、
「余談ですが、不二子さんは悟志さんと同じような状況になった十六歳に近付いて、エッチする変態です」
「いや! そうだったんかい! 俺だけ特別とかじゃないんだ!」
「ハイ、不二子さんは界隈では有名なんです」
「じゃあもう嫌い! オカズには使わない!」
 何なんだ、この新事実。
 マジでいらない新事実だった。
「それでは次の質問なんですが、子供の頃、楽しかった記憶って意外とありますか?」
「意外とって何だよ! 普通にあるわ!」
 と意気込んでツッコんだものの、思い出して少し「うっ」となってしまった。
 何故なら俺の子供の頃の楽しかった思い出には、全て遼子がいたから。
 遼子の家族と俺の家族と一緒に旅行したこととか、遼子と二人で隣町までお遣いに行ったこととか。
 そんな俺の気なんて知る由もない女性は、ペコリと頭を下げながら、
「じゃあ教えて下さい。よろしくお願いします」
 いやでもここで遼子の話をしたら、これ放映されるわけだから、また遼子から嫌なことを言われそう。
 キモイヤツが私の話をすんなとか言ってきそうだな、じゃあ遼子関係は外して……。
「家族旅行とかですかね、北海道に行ったことがあります」
 そして遼子へのお土産は何にしようかなと迷って……って危ない! 今、口に出ていないよな! 大丈夫だよな!
「……あんまり面白くないエピソードですね、もっと何か無いですか?」
 じゃあ逆に大丈夫じゃねぇわ! なんとか面白くしないと!
 でも俺の面白いことって全部遼子が関わってくるからなぁっ!
「えっと、あの、脱水症状でおねしょしたことがあります……」
「それは楽しかった記憶に入れているんですか?」
 しまった! なんとか笑わせようと思って、俺の得意のエピソードを話してしまった!
「いやあの、そうですね、楽しかったことって意外と無かったのかもしれません」
「じゃあ年表は前略というわけですね」
「まあ略して頂けると有り難いですね、いやでも前略の年表って何っ? 激動の期間が前略じゃもう見込みが無いだろ!」
「確かにそうですね」
 あっけらかんとそう言った女性。
 まあもう本当にマジでそうだけどもな、見込みの無い年表が完成するなぁ。
「ちょっと今日のところは私、一旦帰ります。また思い出したかなと思った頃に伺いします」
「いや帰るんかい! でも有難い! 今もう泥沼だから!」
「あっ、最後に一つ」
 そう人差し指を上げながらそう言った女性。
 何を言うのかなと思っていると、
「オナニーのオカズに遼子さんってもう使わないんですか?」
 いやここで遼子!
 もう!
「使わないです!」
「使わない、と……分かりました、良い欄外ができそうです」
「いや欄外だけの年表なんてない!」
 そして女性はいなくなった。
 いやもう俺の思い出って本当遼子ばっかじゃん……これから菜乃と楽しい思い出作っていこうっと。


・【浮いている】


 ランニングを再開し、適当に人気の無いところを走っていると、立ちションしているジジイがいた。
 ツルッパゲに白い髭を蓄えて、ぷるぷる震えている。
 しかし今にも死にそうな悲壮感溢れる顔とは対照的に、オシッコの勢いは異様にあって、正直周辺に滝のような音色を出していた。
 これはもう邂逅以外無いな、と思っていると、案の定、話し掛けられた。
《オシッコが止まらぁんぅ》
 妙に艶っぽく、ジジイが演じる花魁のように喋ったジジイ。だからジジイだ。
 いやでも声にエコーが掛かっている。コイツは怪奇寄りらしい。嫌だな、怪奇の放尿。
「あの、何か用ですか?」
 とはいえ”あの人は、今”の最中なので、自分から絡みに行く。
 すると、
《ドラゴンフルーツを食べるとピンクのオシッコが出ると聞いたのに、全部黄色いんじゃぁ》
「全部ってまあ、出始めたオシッコの色は変わらない思いますよ」
《ドラゴンフルーツの食べ過ぎでオシッコが止まらんのぅ》
「というかドラゴンフルーツをみんな知っているモノみたいに言っていますけども、マイナーですから!」
 まあ最初の段階はこんな感じのツッコミでいいだろ。
 というかこの人、こっちにあんま強く絡んでくる感じじゃないな。
 普通の怪奇って、もっとこっちに絡んでくる感じがするんだけども。いや普通の怪奇って何っ?
《オシッコ、顔に掛けてみていいかのぅ》
「いや絶対嫌だわ! 急にどうした! その舵の切り方!」
《いつも野花にしか掛けてないんじゃぁ、そろそろ進化したいんじゃぁ》
「いやもう普通にトイレでして下さいよ、野花が可哀相ですよ」
 そんな会話をしていると、なんと、ジジイのオシッコが七色に光り出したのだ。
《七色に光ればチャラいくていいと聞いているんじゃぁ》
「誰から聞いたんですか! というかオシッコの色って意図的に変えられるんですかっ? 変えられるなら自分でピンク色にすればいいじゃないですか!」
 と俺がツッコむと、すぐさまオシッコの色をピンク色に変えたジジイ。
 いや!
「やっぱりできるんかい! 何なんだよ! ドラゴンフルーツのくだりなんなんだよ!」
《ワシのチンコがドラゴンなんじゃぁ》
「ただのサイズ自慢! いや普通ですけどね! ジジイのチンコのサイズ、ちょうど普通ですけどもね!」
 と言った刹那、なんとジジイのチンコがドラゴンの顔になった、が、サイズは一緒だった。
「もうそれだとドラゴンの割に小さいですねになっちゃうから普通のチンコのほうがいい!」
 そうツッコむと、すぐさま普通のチンコに戻したジジイ。
 いや!
「こっちの言うこと聞きすぎだろ!」
《若者の意見を尊重するんじゃぁ》
「逆老害だな!」
《ありがとうなんじゃぁ》
 そうジジイが言うと、オシッコを真下に放ち始め、なんとオシッコの圧で浮き出した。
《そろそろ天に召されようと思うんじゃ》
「オシッコの圧でっ? 天使のお迎えじゃなくて大丈夫か!」
《もう全てやるべきことを終えたのじゃ、中学卒業できたし》
「じゃあやるべきこと、結構前半で終わってる!」
 どんどん浮いていくジジイ。
 しかしそのせいでオシッコの飛び散りが強くなっていて、だんだん俺にも霧状のピンクオシッコが当たるようになってきた。
「ちょっと! オシッコ掛かってる! 掛かってる!」
《一旦、枯れ木に掛けてみたいんじゃぁ》
「どんな花咲かじいさんだよ! 枯れ木がビチャビチャになるだけだよ! ピンクの! いや本当オシッコ当たってますから! 勢い勘弁して下さい!」
 と言ったところで、ジジイのオシッコ圧は弱くなり、まるで頻尿のオシッコのように、チョロチョロ出るようになった。
 いやでも!
「チョロチョロでも同じように浮いていくんかい!」
《オシッコ出せば浮くんじゃぁ》
 そしてそのまま天空高く飛んでいったジジイ。
 オシッコの飛沫と思われるモノも無くなって、それほど上空に行ったということかもしれない。
 何だったんだ、あの怪奇。
 まあいいや、天に召されたのならば。
 そう
「天に召されたのならばハッピーエンドだな!」
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