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【遼子】【シューカに弟子入り】

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・【遼子】


 家の前に着くと、そこには遼子がいた。
 俺を見るなり、怒鳴り声を上げてきた。
「ハイ、クソのリア充! 死ね!」
「死ねって、単刀直入過ぎるだろ、というか俺はオマエにそんなこと言われる筋合いはない」
「アンタが好きな子って私じゃないんだっ? すぐに彼女作っちゃってさ! キモっ!」
「いやだって遼子は俺の彼女になんないだろ」
 俺は遼子の前を素通りして、そのまま家へ入ろうとすると、遼子が俺の首根っこを掴んできた。
 首根っこ掴むの、みんな好きだな。
「そりゃアンタの彼女にはなんないし! でも断らせなさい! ゴメンナサイ! キモイ男子は無理なんで!」
 俺は遼子の手を払って、ある程度は睨みながらこう言った。
「もう好き勝手言えばいいさ、俺も勝手に生きるから」
 遼子はそれ以上俺に対して、何か言ってくることは無かった。
 そのまま黙りこくって、歯をギリギリ言わせているようだった。
 何が悔しいんだ?
 俺のほうが悔しいよ。
 信じていた幼馴染に、あんな裏切られ方したんだから。
 家に着くと、すぐさまチャイムが鳴った。
 ヤバイ連中が訪問してきたのか、いやヤバイ連中ならチャイムを鳴らさないか、じゃあ単純に変わった人か、と思いながら一応玄関のドアを開けると、そこには遼子が立っていた。
「未練は無いのかよ! 私に未練は無いのかよ!」
 何だよコイツと思った。
 あぁ、そういうことも全部言わないといけないわけね。
「無いよ、一切無い、俺もオマエのこと嫌いだから大丈夫」
「何でよ! 私がアンタを嫌う道理は合ってもアンタが私を嫌う道理は無いだろ!」
「その言葉をそのままそっくりオマエに言ってあげるよ」
「私はあるよ! だってアンタのオカズになってオナニーされていたんだから!」
 何だよ、ハッキリそういうこと言うなよ、鬱になるだろ。
 でも事実だしな、まあじゃあこうしよう。
「そのあとの言われようがあったら嫌いになるに決まっているだろ」
「ドMであれよ! それもオカズにしてもいいぞ! 別に!」
「どう思われたいんだよ、全然訳分かんねぇよ、もう帰れ、つまんない、オマエはずっと滑ってる」
「そういうイジリやめろよ! つまんないとか滑ってるとかそういうの一番良くないからな!」
 何が一番良くないだよ、どう考えても、どう考えても。
「こんな話をしに来るヤツが一番良くないだろ!」
「何だよ! すぐに彼女作って! キモイヤツがリア充になんなよ! クソ!」
「……何だよオマエ、もしかすると嫉妬してんの? いやでも何に嫉妬してんの?」
 と俺が言ったその時だった。
 すぐさま遼子から玄関のドアを閉め、ドア越しにデカい声で、
「何も嫉妬してねぇよ! クソ! 死ね! 死ね! 死ねぇぇえええええええええ!」
 と叫んできた。
 いやまあ閉まったならもういいやと思って、すぐさま鍵を締めると、
「鍵の音聞かせてんじゃねぇよ!」
 という声と、玄関のドアを蹴る音が聞こえてきた。
 いや勝手に聞いたのはオマエだろ、と思いつつ、俺は自分の部屋へ戻って行った。


・【シューカに弟子入り】


 ツッコミの練習がしたいと、シューカに伝えると、めちゃくちゃ嬉しそうな表情になりながら、日時と場所を指定してきた。
 その日、指定された場所、つまり公園へやっていくと、そこにはシューカは勿論、菜乃も、なんとオヤッサンもいた。
 シューカは開口一番こう言った。
「人数が多ければ怪奇も出づらいし、サトシンの知り合いいっぱい呼んどいたわ」
 オヤッサンは知り合いじゃないことにしておきたい気持ちもあるけども、まあもしかしたら怪奇はオヤッサンのこと嫌いかもしれないから、いたほうがいいのかもしれない。
 菜乃ちゃんはシューカのほうを見ながら、
「変なツッコミの特訓だったら止めるの!」
 と言った。
 それに対してシューカは、
「ドアホ、ツッコミの練習は変に決まっているやん」
「なのー! 確かにそうなのー! 論破されちゃったのー!」
 と菜乃は叫んだ。
 論破ってそこまで仰々しいことではないだろ、と思っていると、急にシューカがこちらをキリッと睨みながら、
「はい! サトシン! 今なんかツッコミ台詞浮かんだやろ! そういう時はすぐに言うんや! 言う! 勢い! 発想! の! 言うや!」
 えっと、じゃあ、
「論破ってそこまで仰々しいことではないでしょ」
 と言ってみると、菜乃ちゃんが、
「まさかの菜乃へのツッコミだったのー!」
 と腕を上げて驚いた。
 いや
「すごいリアクションがデカい」
「そりゃそうなのーっ、生きてるから大きいのっ」
 後ろ頭を掻きながら、照れた菜乃。
「そんな照れることではないよ」
「悟志くんから何か言われると照れちゃうよ、嬉しいからっ」
 そう言ってニッコリ微笑んだ菜乃。
 いやそのリアクションが嬉しくて照れちゃうわ、俺が。
 そんなやり取りをしているとシューカが、
「そういう青春演劇はええねん、早速ツッコミの練習いくで」
 いや
「演劇ではなかったわ、こんな些細な演劇無いだろ」
 とツッコんだところで、シューカはやれやれといった感じにこう言った。
「サトシン、勢いが少ないのはもうええとして、人にもスタイルがあるからええとして。でもな、サトシンのツッコミは否定やねん、全然ちゃうやん」
「そのシューカもめちゃくちゃ否定なんだけども」
「そういうことちゃうねん、ツッコミって否定したらアカンねん。そしてシューカちゃんのは教えや」
「いやでも実際ツッコミってボケのやっていることを止めている、つまり否定しているということじゃないのか?」
 それに対してシューカは大きな溜息をついてから、
「何も分かってあらへんやん、ツッコミは面白いところを説明する役割があんねん」
 面白いところの説明、確かにテレビを見ていると、そんな感じのことを言っている人もいるような気がする。
 シューカは続ける。
「否定するツッコミは脊髄反射でできるから楽や。でも真のツッコミはボケの面白いところを説明すんねん。単純にそっちのほうが盛り上がるやん」
「まあ確かに会話としては、否定するよりも盛り上がるは盛り上がるな」
「そうや。結局ボケ・ツッコミも会話やねん。どんどん面白いほうに繋げていったほうが面白くなるに決まっとるやん。いやまあ確かにスパッと斬ったほうが面白い時もあるで? でも基本は面白いほうに流していくほうがええんや」
 シューカの言う通りだと、俺は思った。
 というか理解した。
 そうか、ツッコミは否定よりも説明で、ボケ・ツッコミは会話か。
 よしっ、と俺は意気込んでから、
「じゃあ基本は分かったからこれから実践させてくれ」
 と言うと、シューカはちょっと仰け反りながら、
「おっ、おぅ、やる気満々やんっ」
「いやちょっとヒイてんじゃねぇよ、シューカがそもそも俺にツッコミの練習させたかったんだろ」
「でもそんなガツガツくるとはと思って、ちょっと驚いただけやん。まあええわ。本当は言うあっての勢いあっての発想という流れにしたかったんやけども、サトシンのスタイル的に『ツッコミは説明』をより濃くしたほうがええって気付いたから、その感じでやっていくわ」
「いやめっちゃ俺のこと考えてくれてるじゃん、それはまあ有り難いけども」
 そう会話した刹那、急にオヤッサンが叫んだ。
「もぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
 その声、というか鳴き声はまるで牛のような感じで、ついにオヤッサンが真におかしくなったかと思ったら、シューカはオヤッサンのほうを紹介するように指差しながら、
「牛になりきったオヤッサンにツッコんでいくんや!」
 いや!
「もう事前に話し合い済みかよ! そっちも十分やる気満々じゃん!」
 と魂のツッコミをかますと、シューカが、
「ええで、ええで、今のは正直勢いも良かったし、事前に話し合い済みというダサいところを説明していてさらにええんで」
 と言った。
 いや自分でもダサいと思っているのか、と思っていると菜乃が、
「これなら変なことになりそうにないから大丈夫なの!」
 と言ったが、いや
「大の大人が牛になりきるのはだいぶ変なことだけどなっ!」
 とツッコんでおくと、シューカは俺に対してグッドマークを出した。
 これでいいんだ、じゃあもうこの調子で牛になりきったオヤッサンにガンガン、ツッコんでいくぞ!
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