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【葛切り】
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・【葛切り】
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とはいえ、学校に居ても安心ではないということが分かったので、俺と菜乃は急いで下校することにした。
廊下も普通に走って、と、いや、何か、変だ、全然走るどころか歩けないような。
俺は足がもつれてもつれて仕方ない。
「どうしたの? 肩貸すの」
そう言って俺の右肩を持ってくれた菜乃。
いやでも菜乃みたいな身長の低い女子ではバランスが悪くて。
「いや大丈夫、菜乃は何か襲ってきていないか警戒していて」
菜乃から少し離れた俺。
いやそれにしてもまるで自分の体じゃないように、うまく動かせない。
これで合っているのかどうか分からないけども、何だか体がニュルニュルしている。
腕と脇が擦れる時に変なグニュグニュ感を抱く。
それだけ汗でベチャベチャになっているのか、と思いながら階段の一段目に足を掛けたその時だった。
”ダニュン”
俺は足をぐねったと思った。
そしてそのまま階段の踊り場まで転げ落ちていった。
ヤバイ、普通に死ぬ、とは、感じなかった。
というか何も感じなかった。
何だこの感覚、と思っていると菜乃が悲鳴を上げた。
そりゃそうだ、彼氏が階段を転げ落ちたんだから、と思っていると、
「なのぉぉおおおおおおおおおおお! 悟志くんの体が半透明になってるのぉぉおおおおお!」
そう言われてハッとした。
確かに何だか体の感覚がおかしい。
俺は自分の手や足を見ると、まるで葛切りのように半透明になっていた。
否、完全に葛切りだ、体が本来曲がらない方向に曲がっている。
全然力も入らない。もう葛切りとしてただ踊り場に放置されているだけだ。
「なの! 菜乃が背負っていくの!」
と菜乃は急いで踊り場まで降りてきて、俺を掴もうとするが、全然上手く掴めない。
ぶるんぶるんの葛切りになってしまって、すぐ手からすり抜けていくのだ。
「なのっ! どうすることもできないの! あの! 今から大きいバケツ探してくるの!」
「いやバケツは無理だし、あと菜乃、菜乃はもう一人で帰ってほしいんだ」
「なのっ! 何でっ! 菜乃のこと嫌いになっちゃったのっ?」
今にも泣き出しそうな声でそう声を荒上げた菜乃。
いや
「この怪奇現象は俺を狙ってきているんだ、だから菜乃は巻き込まれないためにどこかへ行ってほしいんだ」
菜乃はその場でしゃがんで俯いた。
いやだから
「きっとまた何か起きるから、早くどこかへ行くんだ」
「動かないの……菜乃は動かないの!」
「何でだよ、絶対またこの世のモノではないモノに巻き込まれるぞ!」
俺がそう叫ぶと、菜乃はキッとこっちを鋭い眼光で見ながらこう言った。
「悟志くんと一緒にいると決めたの! 菜乃の覚悟を見くびらないでほしいの!」
「菜乃……分かった、でも、何か来たら遠目で見えるくらいのところまでは行ってほしい」
「それは……ケースバイケースなの!」
力強く、拳を握りながらそう言った菜乃。
そうか、菜乃はそこまで俺のことを思ってくれているのか。
じゃあダメだな、こんな怯えた姿を菜乃に見せちゃダメだ、毅然とヤバイ連中にぶつかっていってやる、と強く意志を固めた時、どこからともなく声がした。
《クズじゃ! クズがいるぞぉい!》
クズ、葛切り状態になった俺のことだ。
この声もエコーが掛かっている。
ということはこの世のモノじゃないような連中は皆、エコーが掛かっているというわけか。
声主はババアのようなしゃがれた声だったが、風貌はその通りで、目がイッてる感じのババアだった。
《クズは退散じゃぁ!》
そう言ってそのババアは俺に向かって細かい粒子の砂みたいなモノを掛け始めた。ということは砂掛けババアか。
いやこの香り、これは砂じゃない、きな粉だ、俺が葛切りだからきな粉というわけか、何だその微妙なリンク。
何なんだよ、全体的に何なんだよ、このB級感。
ホラーなのかギャグなのかハッキリしてほしい。
いやまあこの世のギャグも当事者からしたらホラーみたいなもんだけども。
《クズはきな粉に限る! きな臭いクズにはきな粉じゃぁ!》
いや!
「きな臭いクズはオマエだろ!」
咄嗟にツッコミが出た。
すると、そのババアは急にきな粉を掛けてくることも、威勢よく叫んでいたことも辞めた。
何か俺の言葉に怯んでいるように見えた。
だからここは畳みかけることにした。
「何ちょっと言葉を掛けてるんだよ! 作ってきた笑いを見せつけるな! んで怒られたらビビるって即興性全然無いな! 何だよ、人に対していきなりきな粉て! キナキナうるさいんだよ! 来なじゃねぇよ! 来るな!」
語気を強めてそう叫ぶと、ババアは瞳を潤ませながら、
《おっ、お助けぇ~》
と言って徐々に空気に溶け込むように消えていった。
消え切ったら、俺の体は元に戻り、きな粉の類も無くなっていた。全てが幻だったように。
いやでも
「打たれ弱っ!」
その光景を見ていた菜乃はピョンピョンと跳ねながら、
「やったの! 打ち負かしたの! さすが悟志くんなの! 強いの!」
と大喜び。
強いというか、アイツが弱いのでは、と思いつつ、俺は立ち上がり、菜乃と一緒に下校していくことにした。
校門もくぐり、帰り道、普通に並木商店街で買い食いしながら、くっちゃべる俺と菜乃。
あれ以降は俺に対して何かやって来ることは無かった。
そして、
「なのっ、菜乃の帰り道はここでお別れなの」
並木商店街の終わり際で菜乃はそう言った。
そう言えば、菜乃の家とか全然知らないな、とか思っていると、
「でも菜乃はいつでも大丈夫なの、これから悟志くんの家に泊まりに行ってもいいの」
急な発言に俺はドギマギしてしまい、慌てていると、
「もう菜乃は両親に悟志くんの話をしているの、両親も悟志くんなら大歓迎と言っていたの」
「いや本当かよ……俺の醜態見ていたんだろ?」
「ううん、勇ましい悟志くんのこと応援していたの」
勇ましい、いや別にただあの頃は人に対して誠実に対応していただけだけども。
いやでもまあ
「ほら、付き合って初日で家とかもあれだからさ、今日のところはこのままサヨナラしよう」
「なの! やっぱり真面目で素敵な男の子なの!」
そう言って笑顔で手を振り、菜乃は自分の帰り道のほうへ歩いていった。
菜乃の積極性にはドキドキしてしまう、というか心が躍ってしまう、何かちょっと楽しいな。
それにしてもあれからヤバイ連中が来なくなったのとか、何かあったのかな。
いや来ないほうがいいけども、やっぱりあういう連中は商店街のような人が多いところには現れないのかな。
まあそんなこと考えていたって、いずれ家の中で一人になるんだから、と思っていると、誰かに声を掛けられた。
「ホイッ! 悟志少年!」
誰だろう、俺をそんな呼び方するのは。
でもエコーは掛かっていないなと思いながら、声がするほうを振り返るとそこには。
・【葛切り】
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とはいえ、学校に居ても安心ではないということが分かったので、俺と菜乃は急いで下校することにした。
廊下も普通に走って、と、いや、何か、変だ、全然走るどころか歩けないような。
俺は足がもつれてもつれて仕方ない。
「どうしたの? 肩貸すの」
そう言って俺の右肩を持ってくれた菜乃。
いやでも菜乃みたいな身長の低い女子ではバランスが悪くて。
「いや大丈夫、菜乃は何か襲ってきていないか警戒していて」
菜乃から少し離れた俺。
いやそれにしてもまるで自分の体じゃないように、うまく動かせない。
これで合っているのかどうか分からないけども、何だか体がニュルニュルしている。
腕と脇が擦れる時に変なグニュグニュ感を抱く。
それだけ汗でベチャベチャになっているのか、と思いながら階段の一段目に足を掛けたその時だった。
”ダニュン”
俺は足をぐねったと思った。
そしてそのまま階段の踊り場まで転げ落ちていった。
ヤバイ、普通に死ぬ、とは、感じなかった。
というか何も感じなかった。
何だこの感覚、と思っていると菜乃が悲鳴を上げた。
そりゃそうだ、彼氏が階段を転げ落ちたんだから、と思っていると、
「なのぉぉおおおおおおおおおおお! 悟志くんの体が半透明になってるのぉぉおおおおお!」
そう言われてハッとした。
確かに何だか体の感覚がおかしい。
俺は自分の手や足を見ると、まるで葛切りのように半透明になっていた。
否、完全に葛切りだ、体が本来曲がらない方向に曲がっている。
全然力も入らない。もう葛切りとしてただ踊り場に放置されているだけだ。
「なの! 菜乃が背負っていくの!」
と菜乃は急いで踊り場まで降りてきて、俺を掴もうとするが、全然上手く掴めない。
ぶるんぶるんの葛切りになってしまって、すぐ手からすり抜けていくのだ。
「なのっ! どうすることもできないの! あの! 今から大きいバケツ探してくるの!」
「いやバケツは無理だし、あと菜乃、菜乃はもう一人で帰ってほしいんだ」
「なのっ! 何でっ! 菜乃のこと嫌いになっちゃったのっ?」
今にも泣き出しそうな声でそう声を荒上げた菜乃。
いや
「この怪奇現象は俺を狙ってきているんだ、だから菜乃は巻き込まれないためにどこかへ行ってほしいんだ」
菜乃はその場でしゃがんで俯いた。
いやだから
「きっとまた何か起きるから、早くどこかへ行くんだ」
「動かないの……菜乃は動かないの!」
「何でだよ、絶対またこの世のモノではないモノに巻き込まれるぞ!」
俺がそう叫ぶと、菜乃はキッとこっちを鋭い眼光で見ながらこう言った。
「悟志くんと一緒にいると決めたの! 菜乃の覚悟を見くびらないでほしいの!」
「菜乃……分かった、でも、何か来たら遠目で見えるくらいのところまでは行ってほしい」
「それは……ケースバイケースなの!」
力強く、拳を握りながらそう言った菜乃。
そうか、菜乃はそこまで俺のことを思ってくれているのか。
じゃあダメだな、こんな怯えた姿を菜乃に見せちゃダメだ、毅然とヤバイ連中にぶつかっていってやる、と強く意志を固めた時、どこからともなく声がした。
《クズじゃ! クズがいるぞぉい!》
クズ、葛切り状態になった俺のことだ。
この声もエコーが掛かっている。
ということはこの世のモノじゃないような連中は皆、エコーが掛かっているというわけか。
声主はババアのようなしゃがれた声だったが、風貌はその通りで、目がイッてる感じのババアだった。
《クズは退散じゃぁ!》
そう言ってそのババアは俺に向かって細かい粒子の砂みたいなモノを掛け始めた。ということは砂掛けババアか。
いやこの香り、これは砂じゃない、きな粉だ、俺が葛切りだからきな粉というわけか、何だその微妙なリンク。
何なんだよ、全体的に何なんだよ、このB級感。
ホラーなのかギャグなのかハッキリしてほしい。
いやまあこの世のギャグも当事者からしたらホラーみたいなもんだけども。
《クズはきな粉に限る! きな臭いクズにはきな粉じゃぁ!》
いや!
「きな臭いクズはオマエだろ!」
咄嗟にツッコミが出た。
すると、そのババアは急にきな粉を掛けてくることも、威勢よく叫んでいたことも辞めた。
何か俺の言葉に怯んでいるように見えた。
だからここは畳みかけることにした。
「何ちょっと言葉を掛けてるんだよ! 作ってきた笑いを見せつけるな! んで怒られたらビビるって即興性全然無いな! 何だよ、人に対していきなりきな粉て! キナキナうるさいんだよ! 来なじゃねぇよ! 来るな!」
語気を強めてそう叫ぶと、ババアは瞳を潤ませながら、
《おっ、お助けぇ~》
と言って徐々に空気に溶け込むように消えていった。
消え切ったら、俺の体は元に戻り、きな粉の類も無くなっていた。全てが幻だったように。
いやでも
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その光景を見ていた菜乃はピョンピョンと跳ねながら、
「やったの! 打ち負かしたの! さすが悟志くんなの! 強いの!」
と大喜び。
強いというか、アイツが弱いのでは、と思いつつ、俺は立ち上がり、菜乃と一緒に下校していくことにした。
校門もくぐり、帰り道、普通に並木商店街で買い食いしながら、くっちゃべる俺と菜乃。
あれ以降は俺に対して何かやって来ることは無かった。
そして、
「なのっ、菜乃の帰り道はここでお別れなの」
並木商店街の終わり際で菜乃はそう言った。
そう言えば、菜乃の家とか全然知らないな、とか思っていると、
「でも菜乃はいつでも大丈夫なの、これから悟志くんの家に泊まりに行ってもいいの」
急な発言に俺はドギマギしてしまい、慌てていると、
「もう菜乃は両親に悟志くんの話をしているの、両親も悟志くんなら大歓迎と言っていたの」
「いや本当かよ……俺の醜態見ていたんだろ?」
「ううん、勇ましい悟志くんのこと応援していたの」
勇ましい、いや別にただあの頃は人に対して誠実に対応していただけだけども。
いやでもまあ
「ほら、付き合って初日で家とかもあれだからさ、今日のところはこのままサヨナラしよう」
「なの! やっぱり真面目で素敵な男の子なの!」
そう言って笑顔で手を振り、菜乃は自分の帰り道のほうへ歩いていった。
菜乃の積極性にはドキドキしてしまう、というか心が躍ってしまう、何かちょっと楽しいな。
それにしてもあれからヤバイ連中が来なくなったのとか、何かあったのかな。
いや来ないほうがいいけども、やっぱりあういう連中は商店街のような人が多いところには現れないのかな。
まあそんなこと考えていたって、いずれ家の中で一人になるんだから、と思っていると、誰かに声を掛けられた。
「ホイッ! 悟志少年!」
誰だろう、俺をそんな呼び方するのは。
でもエコーは掛かっていないなと思いながら、声がするほうを振り返るとそこには。
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