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【高校】

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・【高校】


 相変わらず俺は遠巻きに人から見られたままだ。
 でも確かに登校中、変わった人に絡まれることはなかった。
 しかしこの終わりは新たな始まりらしい。
 本当にヤバイ連中が俺をイジメにやってくるらしい。
 ……何なんだよ、俺の人生、誰かのオモチャだったのかよ、あぁ、もう上等だよ、じゃあいいよ、遊ばせてやるよ。
 ただし俺も遊んでやる。
 思ったこと全部口に出して、ツッコミまくってやるんだからな。
 多分さすがに殺してくるヤツはいないだろう、だから俺はビビらず思い切りやってやるんだ、ツッコミまくってやるんだ。
 なんて、自分を奮い立たせても、鬱の波はやって来る。
 全て、全て放送されていた、って。
 別に変わった人と対峙した時だけでいいじゃん。
 何だよ『あと普通に私でオナニーしててキモイとは思った』って。
 そこも見てんじゃねぇよ、クソ、もう遼子なんて大嫌いだ、あんなヤツ。
 俺は遼子と会話した後、世界政府の遣いとやらから、メールで、全世界のまだイジメられている人間の映像を見るチャンネルを教えられた。
 そこにはまさしく俺がされていたようなことをされている人間がいた。
 皆、これを見て笑っていたんだ。
 俺のことを。
 でもつまんなかったって。
 だから終わりだって。
 何がだよ。
 クソ……なんでちょっと悔しいんだよ……なんでちょっとまだイジメられている人間に嫉妬しちゃうんだよ……クソ、何なんだこのクソ感情……。
 一限目、二限目、三限目、四限目、と、授業は順調に終わっていく。
 偉そうに生徒へ勉強を教える先生も皆、知っていたんだ。
 あんなに偉そうに教えるくせに、あんな映像見て笑っていたんだ。
 胸糞悪い。
 何だよ、この世界。
 やっぱり死のうかなと思って、俺は昼休みに屋上へ行った。
 屋上の鍵は開いていた。
 まるで開けていたように。
 やっぱりそうなのかな、こういうことがあった次の日って、学生だった場合、自殺しやすいように開けているのかな。
 あぁ、本当だ、絶対にそうだ、それで合ってんだ、だって、俺の目の前に、屋上に先に、菜乃がいるから。
「なのっ! 死んじゃうのはダメなのっ!」
「やっぱりそういうことなんだな」
「つらかっただろうけども、菜乃は一生悟志くんの味方でいるのっ!」
 何、瞳に涙を溜めて俺に訴えかけてくるんだよ。
 だってさ
「オマエも俺の滑稽なところを見て笑っていたんだろ?」
「……確かに笑っちゃったよ……」
「ほら見ろ」
「……だから救われたんだ、菜乃は」
 そう言って瞳から涙を零した菜乃。
「何がだよ」
「こんな状況でも一生懸命生きている人がいるって分かって……菜乃……実は学校全体で浮いていて……」
 それは知ってる。
 あの流れで憧れの女子みたいにならなかったの奇跡だから。
 性格がアレすぎて男子の注目の的にならなかったって奇跡だから。
「本当はもうどうかしちゃおうかなとか思っていたんだけども、悟志くんを見て、笑って、もう一回頑張ってみようと思ったの」
「そんなこと、俺に言ってどうするんだよ。映像を見ていた時点で全員同じイジメっ子として俺は認定しているから」
「そうかもしれないの……でも、でも……菜乃は悟志くんに死なれると困るの……菜乃も死ぬの……」
「何だよ、その後味が最悪のヤツ、どんなに玉子食べても最後にはゴーヤの苦みが残るゴーヤチャンプルーみたいな」
 菜乃は泣きながら俺に抱きついてきた。
 いや、いやいや、そんなことされたって……。
「菜乃はね、あのままずっと悟志くんと人生を放送され続けてもいいと思ったの」
「……それって、あれだよ、変なことしてても放送されるってことだよ」
「それでいいの、悟志くんと一緒なら大丈夫なの、菜乃は恥とは思わないの、悟志くんと生きていけないほうが恥ずかしいことなの。だから」
 そう言って俺から離れて、俺の顔をじっと見た菜乃。
「ここで悟志くんに死なれたら菜乃の一生の恥なの」
 真剣な瞳でそう言い切った菜乃。
 何なんだよ、何なんだよ、こんなん。
「こんなん言われたら死ねないじゃん……」
 菜乃はスッと手を俺に差し出してきた。
 だからその手を掴んで握手をした。
「なのっ……繋がっているの……」
 そう柔らかく微笑んだ菜乃。
 まあいいか、最初の時思ったように俺へ関わってくるヤツらは俺が遊んでやればいいんだ。
 でもまあ
「菜乃とは真剣にな」
「なのっ! 何がどうしたのっ!」
「別に!」
 俺と菜乃は手を繋ぎながら、屋上から下の世界を見た。
 あんなに暗く狭く見えた世界は思ったより広がっていた。
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