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【ブラックアウト】

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・【ブラックアウト】

 
 気付いた時には俺はベッドの上で寝ていた。
「全ては夢……?」
 いつもの寝巻を着ている感触がする俺の肌はサラサラで、シロップでベタベタな感じはどこにも無かった。
 外を見ると、もう月明かりが照らしていた夜。
 部屋の中は真っ暗。
 リモコンで電気を付けると、誰か立っていたので、あの青年の顔がフラッシュバックし、また叫び出しそうになった、が、その立っている人間が遼子だと分かり、声は出なかった……って! いや!
「遼子!」
 結局声が出た。
 でもそうか、何かで異変を感じた遼子が俺を介抱してくれたんだ。
 良かった、助かった、と思って、ホッと胸をなで下ろすと、
「何そんな安心した顔してんの? こっちは全然つまんねぇんですけど?」
 どこか威圧的に、いつもの明るい感じの無い、イライラし切っている遼子。
 いやでもそうか、男子高校生の介抱を一人でやるなんて大変だもんな。
 裸だったし、服を着せたり、運んだりするのも重労働だ。
「いやありがとう、俺のこと介抱してくれて、大変だっただろう?」
「何が”解放”だよ! クソつまねぇんだよ!」
 遼子の激怒が部屋中にビリビリ響いた。
 いや何かおかしい、介抱のイントネーションもおかしかったけども、何よりも遼子がおかしい。
 まさか、別人? 実はあの青年?
「遼子、オマエ、遼子だよな……」
 声を震わせながらも聞かなければいけない、でももし遼子でなければ、俺はどうしたらいい?
「何言ってんだよ、遼子に決まってんだろ、クソがっ」
 良かった、遼子だ、いやでも遼子か?
 そんなに口の悪いヤツではなかったけども。
「何か、口調がおかしいけども、何か変だぞ、遼子」
「何か何かうるせぇよ、オマエのせいでもう終わりじゃん、つまんねぇ人間だな、悟志は」
「いやどういうことだよ、つまんないとか、そういういじりは止めてくれよ」
「つまんねぇいじられが、いじりとか言ってんじゃねぇよ!」
 つまんないいじられってどういうことだよ?
 俺のどこがいじられ? そういう感じじゃなかっただろ、この十五年間。
 十六歳になった途端にすぐさま変な感じになったけども……いや、待てよ、十六歳になった途端にすぐさま変な感じになったな……。
「遼子、俺が変わった人たちに絡まれるようになったこと、何度かLIMEで相談したから知ってるよな」
「したした! 私はいっぱい相談しましたよ!」
「いや相談したのは俺だけども」
「悟志がウケるためにいっぱい相談しましたよ! 上の人間に! でも全然ダメじゃん! すぐ口を閉じてさ! 全然ツッコまないでやんの!」
 ……! 何か同じことシューカにも言われていたな。
 というか何だ? 俺が変わった人に絡まれると、頭の中でいろいろ考えてしまうことを遼子が知っている?
 確かに相談はしたけども、そんなところまでは話していないのに、何だ、何かおかしいぞ。
 まるでそういう場面を実際に見てきたみたいな、いやでも俺が絡まれる時は近くに遼子もシューカもいなくて。
 そもそも上の人間に相談って何だ?
「あぁもうつまんねぇ! 私が良い感じの役どころで有名になる予定がさぁ!」
「……遼子、さっきから何を言っているんだ?」
「ツッコミ役の割に察しが悪いなぁっ! 悟志の生活は全て世界政府から撮影されて放送されていたのっ!」
「……放送?」
 何を言っているんだ、世界政府なんてもん無いし、撮影? 放送? というか俺の生活全て? 何を言っているんだ?
 理解できない、理解できない、理解できない……理解したくない……。
 そう、理解したくない。
 俺の生活を全ての人が見ていた?
 思ったことをすぐ言っていないような間を見て、ツッコミの指南をしたくなった?
 急に俺にファンができたって、俺の生活を見て?
 今日のオヤッサンってヤツの宣伝って、俺の放送見ている人に向けて?
 ディティールが無い変わった人に絡まれるのは、俺の放送に映りたくて?
 いやいやいや! 分かんない! 分かんない!
「分かんない!」
「じゃあ説明するから」
 遼子は冷たく、そう言い放った。
 そして遼子は続けた。
「悟志は世界政府から定められた腹いせにイジメてもいい人で、悟志の生活は全て映像に撮られていて、皆、それを見て笑っていたんだよ」
 腹いせにイジメてもいい人? 俺を見て、笑っていた?
「皆、十六歳になると、そういった概念があると、選ばれた人以外に教えられる制度があって、ある一定の支持率以下になると、ネタバラシされて終わり」
 下級生は何も知らないから普通に俺へ近付き、上級生は遠目から見ているって、そこが年齢の境目だから……。
「まあ悟志にはもっと頑張ってほしかったよ、私も有名になれただろうに」
 何だよ、それ、遼子は俺のことを想って話し掛けていたわけじゃないのかよ……。
「あっ、ちなみに楽しくなければ人生じゃないってヤツ、みんな言ってただろうけども、あれはこの遊びの合言葉ね」
 そうか、何か心に突っかかってると思ったら、その台詞を皆言っていたということか。
「私もいろいろ案を出していたんだけどね、どういうヤツに絡まれたほうが面白いか相談もされたし、こっちも相談したし」
 何なんだよ、一緒になって俺のことを笑っていたのかよ……嘘だ……嘘だって言ってくれ……。
「まあすぐに心が折れちゃってダメになっちゃう人もいるみたいだけどさ、まぁ、私は全然消化不良だわ」
 勝手に遊び道具にしやがって、勝手に遊び道具にしやがって、そんな荒唐無稽な話。
 信じるしかねぇじゃん、俺に関わってきた変わった人たちを思い浮かべれば、信じるしかねぇじゃん。
「ちなみに悟志は支持率低下が早くてまあ、割と面白くなかったほうだってさ。つまんねぇの!」
 勝手に遊んですぐさまポイかよ……俺の全ての生活を撮影ということは、俺が、何か、そういうことをしている時も?
 一人で家でそういうことをしている時も?
「あと普通に私でオナニーしててキモイとは思った」
「クソぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」
「あとさ、放送が終わったからって普通の生活には戻れないってさ」
 そうクスクス笑いながら言った遼子。
 いや何で、終わりなんじゃないのか?
「一緒に写って放送はされたくなかったマジのヤバイ連中が、イジメていいという感覚だけ残してやって来るんだって。一度イジメられるターゲットになるとそうなるんだってさ。フフフ、ウケんね」
 何がウケるんだ、勝手に人生を遊ばれて、何がウケるんだ、クソぉ……。
「まあでもファンの子もいるし、いいんじゃないのっ? あんなつまんなかったのにファンができて良かったねぇ、あの子と一緒に楽しく一生生活していれば?」
 そして遼子はその場を去った。
 俺はただただ震えた。
 でも何故か死ぬ気にはなれなかった。
 何故なら死んだところで今さらだと思ったから。
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