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【観光地を探している人】【カツアゲ】

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・【観光地を探している人】


 俺が道を歩いていると、目の前にデカいリュックサックを背負った、明らかにバックパッカーみたいな人がキョロキョロしていた。
 この感じ、多分話し掛けられる。
 いやでももしかしたら変な人ではなくて、普通に道に迷った人かもしれない。
 そうだったらいいな、いや本来どんな人でもあんまり話し掛けられたくないんだけども。
「あっ! そこのお兄さん! ちょっと良いですか!」
 案の定話し掛けられた。
 ヒゲボーボーだけども、決して不潔な感じはしない、まんまバックパッカーの青年といったような人だ。
「何でしょうか、道に迷っているんですか?」
「いや! 迷っているというか、この辺で有名な観光地を教えてほしいんですけども!」
 有名な観光地……いや一切無いな、この辺は。
 やたらすごい勢いで水が出る水飲み場がある並木公園くらいしかないな。
「えっと、この辺には無いですね、もっと何駅か行ったところに博物館とかありますよ」
「いえ! ここがいいです!」
 何故ここにこだわる……じゃあ並木公園のことを教えるか。
「並木公園という市民の憩いの公園がありますね」
「あのアゴをアッパーカットしてくる水飲み場があるところですか! あそこは行ったんですよ! もう!」
 もう水の勢いが良すぎて、軽さがウリのメガネくらいなら吹き飛ばす水飲み場はもう体験済みか……いよいよ、無いなぁ、いや待てよ。
「ここから少し行った先に並木商店街というところもありますんで、そこでコロッケでも買えばいいと思います」
「あぁ、あの、ソース掛ける時はいちいち店主に断りを入れないといけない肉屋さんですね、そこも行きました!」
「じゃあ無いですね、この辺はもう一切無いです」
「いやでもこの辺の穴場を教えて下さい!」
 いや無いと言っているのに、全然聞いてくれない。
 そして何だよ、その純粋そうに目を輝かせて聞いてくる感じ。
 何か期待に応えたくなってくるな、でも無いんだよな、マジで。
「全然! おもしろ看板とかでもいいんで教えて下さい!」
「おもしろ看板……ツチダワー工業の看板には文字の頭にマークが付いているんですけども、それがカタカナのエに見えて、それを合わせてエッチダワー工業に見えるという看板はありますね」
「あっ! 下ネタ系は苦手なんです! すみません!」
 いやおもしろ看板の八割は下ネタだろ。
 だからおもしろ看板好きの十割は下ネタ大好きだろ。まあ俺の偏見だけども。
「いやでも、本当に無いですね、そもそもここ観光地じゃないですから、畑ばかりの田舎ですから」
「じゃあ有名な畑を教えて下さい! 何育てているかだけ教えて下さい!」
「まあ結構スイカとか育てていますけども、この辺の畑は」
「スッ、スイカ泥棒ですか、貴方は……」
 そう恐れながら言い放ったバックパッカー。
 いや!
「スイカ泥棒だからスイカ情報に詳しいわけじゃないです! 普通に直売所でスイカ売ってるだけです! 季節になると!」
「じゃじゃあスイカ売ってる季節にまた来ます!」
 そう言ってバックパッカーの人はいなくなった。
 何だあの変な人なのか、マジの人なのか微妙な人は。
 まあマジだとしても変だから変な人だったんだろうな。


・【カツアゲ】


 また歩いていると、目の前に怪しい人間が。
 何だよ、この頻度で何かと会うって。
 桃太郎の道中かよ、とんとん拍子にイヌ・サル・キジに会う桃太郎かよ。
 誰も仲間にならないし、絶対仲間にしたくないけども。
 特にあんな、股間にヒマワリの花を付けたヤンキーみたいなヤツは。
 ところかまわずガンを付けて歩いているヤンキー。
 べっこう色のレンズをしたメガネを掛けているが、そのメガネ越しからでも分かる悪い目つき。
 絶対俺に関わってくるけども、関わってきませんように……!
「おい、テメェ、ちょっとツラ貸せや」
 そう言って俺の首根っこを掴んできたヤンキー。
 いやもう最悪だよ、股間にヒマワリを付けたヤンキーにカツアゲされそう。
 俺は割と身長が高いほうなので、ヤンキーにカツアゲされたことは無いんだけども、このヤンキーはもう身長とかの概念が無さそう。
 なんせ股間にヒマワリ付けているから。
「おい、テメェ、出せや」
 俺より身長が低いので、見上げるように睨んでくるわけだけども、それがかなりの圧で。
 でもビビり過ぎるとつけ込まれるので、なんとか我を保ちつつ、
「出せって、何をですか」
「ヒマワリに決まってるだろぉがぁっ!」
 いやヒマワリって何っ?
 たとえば百円玉は菊だけどもヒマワリが描かれた硬貨やお札ってあったっけ?
「あの、ヒマワリが描かれた硬貨やお札ってありましたっけ?」
「何言ってんだよ! ゴラァッ! 種に決まってんだろ!」
 種! ヒマワリの種ということっ? いやハムスターかよ! ハムスターのヤンキーかよ!
 人から種を巻き上げると同時に頬袋に入れていくハムスターのヤンキーじゃん!
「あの、ヒマワリの種は無いです」
「はぁっ? あるに決まってんだろ? バカか?」
「いや、ヒマワリの種、持ち歩いていないです」
「ヒマワリの種なんて言ってねぇよ! バカがぁっ!」
 えっ? ヒマワリの種じゃないのっ? いやまあヒマワリと種、それぞれ別々で言っていたけども。
 でも、でも、ならば分かりづらすぎるだろ、そして結局何なんだよ。
「あの、結局何なんですか?」
「チンコ出して精子出せよ! 分かるだろ!」
 えぇぇぇええええええええっ? ヒマワリがチンコで、種が精子!
 ヒマワリがチンコはアンタだけだろ! 股間にヒマワリを付けたアンタだけだろ!
 まあ種が精子というのはちょっと分かるけどもさ!
 いやでも!
「そんな! チンコ出して精子なんて出せません! こんな道の真ん中で!」
「ビビってんじゃねぇよ! 願望はあるんだろうがぁっ!」
「いや! 全然そういう願望は無いです! 人前でそういうことする発想は無いです!」
「ちょっとくらい! 握ってやるくらいのことはしてやるからなぁっ!」
 いや優しい! いや優しくないし、全然やらしくない!
 何なんだよ、この人。ガチでヤバイ人じゃん。誰か助けてくれ!
 と願ったその時、お盆に寿司を乗せて持っている寿司職人のような人が近付いてきた。
 何だろう、お寿司を運んでいる最中の配達員? いやでもお盆には間隔を開けて四貫だけしか乗っていない。
「チッ、酢飯ってほぼ精子じゃねぇか!」
 そうヤンキーの人が言うと、お盆に乗っていた寿司を一貫つまんで食べて、そのままどこかへ行った。
 助かった……酢飯って酸っぱいだけで全然精子じゃないけども助かった、と思っていると、その寿司職人が俺へ話し掛けてきた。
「どうしたんだい、そんなことよりもこの寿司の試食品、食べてくれないか?」
 えっ? 寿司の試食品っ?
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