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【ツッコんでくるヤツ】

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・【ツッコんでくるヤツ】


 自分の教室に入って早々、俺は由香という同級生に話し掛けられた。
 何だか怒っているような感じだ。
 俺はこの由香とはずっと同じクラスになっていたが、ちゃんと話したことは無い。
 俺はまあそれなりに陰キャで、由香はどこでも一番の陽キャだ。
 関西弁で何にでもハイテンションでツッコむ女子、それが明石由香で通称・シューカだ。
 まあ四歳までしか大阪に居なかったらしいので、ちょっとおかしな関西弁を使う。
 ……と無駄な情報も俺の耳に入ってくるくらい、うるさい女子ってところだ。
 そんなヤツが一体俺に何の用があるんだ?
「ちょっと! シューカちゃん! 今怒っとるで!」
 いや自分のことシューカちゃんって呼んでる……ウザいなぁ……でもそれも周りからOKにさせてしまうくらいの陽キャ。
 当然味方も多いので、適当にあしらうと後々怖いので
「何ですか、俺、何か怒らせることしましたか?」
「なんつーか! とにかくな! ツッコミがアカンねん! 自分!」
「ツッコミ……ですか?」
「そう! ツッコミや! 自分のツッコミ聞いとると情熱が足りんなぁと思うんや!」
 自分、というのが、多分、俺のことだ。
 ややこしいな、この関西弁。
 いやでもツッコミって何?
 あぁ、そうか、昨日教室で菜乃と会話していたの、聞いていたわけだな。
 でも
「ツッコミはその、自分でやるから大丈夫ですよ」
「いやアカン! シューカちゃんがツッコミ教えたる!」
「ツッコミを、教える、ん、ですか?」
「いやそこは強く”何でや! 何様や!”とか言え!」
 そう言って漫才師のツッコミのようなアクションをするシューカ。
 腕をもう、これでもかというくらい、前後に出し入れしている。
「いやでも俺、関西弁じゃないですし」
「そこは自分の言い方で変換せな! とにかく自分はパッションが足りんねん!」
「あの、自分というの分かりづらいんで、俺のこと悟志って呼んで下さい」
「何主張は一丁前やねん! でもそれはOK! 分かったで! サトシン!」
 いやOKなんかい、あと普通にあだ名で呼ぼうとしてくるなぁ。
 まあいいや、サトシンくらい許容範囲だ。
 俺は結構変な人を許容するほうだからな。
「とにかくツッコミの練習なんてする気、無いですからね」
「なんでやねん! 良いツッコミができれば良い循環を生むで!」
「良い循環って何ですか、そんな食物連鎖する気無いです」
「ほら出よった! そうやってワードを時折さらりと付け足す! それよりもまず情熱的に叫ぶことや! まずそこからや! 基礎があって変化があるんのにサトシンは急に変化球だけ出す時があって、タイミングが良くないねん!」
 今言った俺の”食物連鎖”というワードが気に入らないのか……?
 いやでも何か付け足すのもツッコミだろ。
 結局さ、
「単純にツッコミの定義が違うんですよ、俺は俺なりの発想があるんで大丈夫です」
「なんやねん! 偉そうに! ツッコミは発想も大切やけど、まずは勢いやねん! 勢いあっての発想やねん! ほら! 立て!」
 そう言って席に座っている俺に立つよう促すシューカ。
 いや
「立ったからって何か変わるわけじゃないし」
「その座った冷静なツッコミがイケてると思ってるんかい! 現場や! 現場主義のツッコミが一番ええねん!」
「いや座っていても、普通にここが現場ですし。会話していれば現場ですから」
「片方立ってたらもう片方も立つやろ! 同じ熱量で話さな意味無いやん!」
 なんて自分勝手な理論なんだ。
 いやいいや、コイツはもう無視でいいや、どこの誰かハッキリ分かっているから幾分怖くない。
 誠実な対応はしたいけども、俺はもう俺なりに誠実に話したつもりだ。
 俺は無言で机に突っ伏すと、
「何で寝るんや! あぁもういい! また修行やったるからな!」
 そう叫んでシューカは俺から離れた。
 何なんだ一体、ツッコミがなっていないって。
 菜乃との会話をちょっと聞いていただけだろ。
 まるで俺の全てのツッコミを見てきたみたいに言うな。
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