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【登校の道のりにもいる】【菜乃の嫉妬】
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・
・【登校の道のりにもいる】
・
あっ、怪しい人がいる。
それに絶対話し掛けられる。絶対に。
何かもうそういう嗅覚が出来上がってしまった。
絶対に話し掛けてくる人だ。話し掛けられたくないなぁ。
でもちょっと登校の道のりを変えたって、ついてきそうなあの感じ。
もう観念するしかない。
いやでも、いやでも、何で石を舐めているんだ……。
「そこの兄ちゃん、これ何だか分かるかい?」
案の定、話しかけられてしまった。
白髪に白い髭を蓄え、ボロボロの布を纏った仙人のような風貌の男。
絶対ヤバイジジイだ。
いやでもヤバイジジイだと思ったことが顔に出たら、何されるか分からない。
慎重に話を聞いていこう。
さて”これ何だか分かるかい?”か。
どう見ても石だ。
舐めていた石だ。
でも石を舐めているヤツなんているか?
じゃあ普通の石じゃない。分かった。
「岩塩、ですね……」
「違う、これは普通の石だ」
普通の石を舐めているのか……もうヤバさマックスだ……。
「何で、石を舐めているんですか?」
もう俺は先手を取ることにした。
どうせそういう話になるだろうから、単刀直入に話を進ませて、さっさと学校へ行こう。
仙人の男はニヤリと右の口角だけを怪しく上げると、こう言った。
「石が旨く感じるまで、舐めているんだ」
「……いや、美味しく感じる時、多分無いですよ……」
あんまりこういう人に否定とかしちゃいけないとは分かっているんだけども、つい口に出てしまった。
まあ仙人に合わせて無理して取り繕って、でもその後ボロが出てしまったとかのほうが怖いし、これで良かったのかもしれない。
でも果たして仙人の次の言葉は……。
「いや、舐めていれば絶対分かってくれる、旨く感じるようになるはずだ」
そう目を輝かせながら、希望を抱きながらそう強く言った仙人。
いやでも
「それは、石が分かってくれるんですか? それとも舌が分かってくれるんですか?」
「……なかなか哲学じゃないか、兄ちゃんよ」
そう言って俺の肩を優しく叩いた仙人。
いや哲学かな、なんとなく気になったから聞いてみただけだけども。
「兄ちゃんよ、それはな、どっちでもいいんだ、旨く感じれば、それでいいんだ」
……あんまり深いディティールを考えている人じゃないな。
何かずっとこうしていた人というより、急に考えてし始めた人って感じがする。
だから何だか嫌な予感がするんだ。
ただのヤバイジジイならそれはそれでしょうがないんだけども、急にし始めた人ならば、何故俺に関わってくる?
本当に俺は何かに巻き込まれているんじゃないか、そんな陰謀論を時折考えてしまうんだ。
いやでもまあこの仙人はもうこれ以上何もなさそうなので、俺はその場を立ち去った。
仙人も何か特に俺のことを止めることなく、
「じゃあな! 兄ちゃん!」
と、妙に明るく俺に手を振っていた。
一体何だったんだろうか。
・
・【菜乃の嫉妬】
・
校門をくぐった刹那、最近聞いたことのある声がした。
「なのーっ! 菜乃なのっ!」
いやハッキリ名前を言っていた。
なのなの言い過ぎて分かりづらかったけども、これ、俺のファンとか言っている菜乃だ。
「悟志くん! ちょっと嫉妬しちゃうのーっ!」
「……何が?」
「とっ! とにかく! 嫉妬しちゃうのーっ!」
「いやハッキリ言えよ、何がどう嫉妬するんだよ」
俺が普通にそう言うと、菜乃はちょっと伏し目がちに口を尖らせて、少し困っているような面持ちだ。
何が嫉妬なんだよと思っていると、俺が昨日遼子と仲良く話しているところを見たということかな、と思い、
「昨日の帰り、校門の近くで話していた遼子のことか? あれは俺の幼馴染だよ」
「なの! えっと! なのっ! とにかく悟志くんが人気過ぎて嫉妬なのっ!」
いや学校では全然人気無いだろ、ちょっと遼子と話したくらいで人気って何かズレてる子だな、と思ったけども、この菜乃というヤツはずっとズレている子なので、そこをそんな気にしても仕方ないかと思った。
まあとにかく
「全然人気じゃないよ、菜乃にしか人気無いよ」
「そうそう! 菜乃からは大人気なのーっ!」
そう言って手を挙げて近付いてきた。
どうやらハイタッチを欲しているらしい。
まあそれくらい、いいかと思って、ハイタッチすると、菜乃が嬉しそうに、
「一緒に繋がるって楽しいのっ」
と頬を赤らめて笑った。
いや!
「繋がるて! 普通に手と手を叩いただけだから!」
「でも嬉しいのっ、タンバリンなのっ」
「タンバリンではないよっ、どっちが太鼓の皮なんだよ」
「皮があるのは、その、悟志くんのほうなの……ってそんなこと言わさないでほしいのーっ!」
そう言って俺の背中を叩いた菜乃。
いや
「皮は両方あるだろ、両方皮膚のある生物だろ」
「でも悟志くんが皮を見せつけてくるのっ!」
「いや見せつけてないから! 全然普通の皮膚感でやってるわ!」
俺がそうツッコむと、菜乃はニコニコしながら、
「やっぱり悟志くんのツッコミ、愉快なのっ。楽しいのっ」
「いやそんなことハッキリ言われると恥ずかしいわ」
こうやって良く分からない変なヤツに絡まれることもあるけども、まあ菜乃は可愛いし、いいか。
ボケてくるヤツというのもまあ楽しいしな。
まっ、それは菜乃が同じ高校に通う同学年って分かっているからだけども。
あぁやって石を舐めてボケてくるヤツは勘弁してほしい。
・【登校の道のりにもいる】
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あっ、怪しい人がいる。
それに絶対話し掛けられる。絶対に。
何かもうそういう嗅覚が出来上がってしまった。
絶対に話し掛けてくる人だ。話し掛けられたくないなぁ。
でもちょっと登校の道のりを変えたって、ついてきそうなあの感じ。
もう観念するしかない。
いやでも、いやでも、何で石を舐めているんだ……。
「そこの兄ちゃん、これ何だか分かるかい?」
案の定、話しかけられてしまった。
白髪に白い髭を蓄え、ボロボロの布を纏った仙人のような風貌の男。
絶対ヤバイジジイだ。
いやでもヤバイジジイだと思ったことが顔に出たら、何されるか分からない。
慎重に話を聞いていこう。
さて”これ何だか分かるかい?”か。
どう見ても石だ。
舐めていた石だ。
でも石を舐めているヤツなんているか?
じゃあ普通の石じゃない。分かった。
「岩塩、ですね……」
「違う、これは普通の石だ」
普通の石を舐めているのか……もうヤバさマックスだ……。
「何で、石を舐めているんですか?」
もう俺は先手を取ることにした。
どうせそういう話になるだろうから、単刀直入に話を進ませて、さっさと学校へ行こう。
仙人の男はニヤリと右の口角だけを怪しく上げると、こう言った。
「石が旨く感じるまで、舐めているんだ」
「……いや、美味しく感じる時、多分無いですよ……」
あんまりこういう人に否定とかしちゃいけないとは分かっているんだけども、つい口に出てしまった。
まあ仙人に合わせて無理して取り繕って、でもその後ボロが出てしまったとかのほうが怖いし、これで良かったのかもしれない。
でも果たして仙人の次の言葉は……。
「いや、舐めていれば絶対分かってくれる、旨く感じるようになるはずだ」
そう目を輝かせながら、希望を抱きながらそう強く言った仙人。
いやでも
「それは、石が分かってくれるんですか? それとも舌が分かってくれるんですか?」
「……なかなか哲学じゃないか、兄ちゃんよ」
そう言って俺の肩を優しく叩いた仙人。
いや哲学かな、なんとなく気になったから聞いてみただけだけども。
「兄ちゃんよ、それはな、どっちでもいいんだ、旨く感じれば、それでいいんだ」
……あんまり深いディティールを考えている人じゃないな。
何かずっとこうしていた人というより、急に考えてし始めた人って感じがする。
だから何だか嫌な予感がするんだ。
ただのヤバイジジイならそれはそれでしょうがないんだけども、急にし始めた人ならば、何故俺に関わってくる?
本当に俺は何かに巻き込まれているんじゃないか、そんな陰謀論を時折考えてしまうんだ。
いやでもまあこの仙人はもうこれ以上何もなさそうなので、俺はその場を立ち去った。
仙人も何か特に俺のことを止めることなく、
「じゃあな! 兄ちゃん!」
と、妙に明るく俺に手を振っていた。
一体何だったんだろうか。
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・【菜乃の嫉妬】
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校門をくぐった刹那、最近聞いたことのある声がした。
「なのーっ! 菜乃なのっ!」
いやハッキリ名前を言っていた。
なのなの言い過ぎて分かりづらかったけども、これ、俺のファンとか言っている菜乃だ。
「悟志くん! ちょっと嫉妬しちゃうのーっ!」
「……何が?」
「とっ! とにかく! 嫉妬しちゃうのーっ!」
「いやハッキリ言えよ、何がどう嫉妬するんだよ」
俺が普通にそう言うと、菜乃はちょっと伏し目がちに口を尖らせて、少し困っているような面持ちだ。
何が嫉妬なんだよと思っていると、俺が昨日遼子と仲良く話しているところを見たということかな、と思い、
「昨日の帰り、校門の近くで話していた遼子のことか? あれは俺の幼馴染だよ」
「なの! えっと! なのっ! とにかく悟志くんが人気過ぎて嫉妬なのっ!」
いや学校では全然人気無いだろ、ちょっと遼子と話したくらいで人気って何かズレてる子だな、と思ったけども、この菜乃というヤツはずっとズレている子なので、そこをそんな気にしても仕方ないかと思った。
まあとにかく
「全然人気じゃないよ、菜乃にしか人気無いよ」
「そうそう! 菜乃からは大人気なのーっ!」
そう言って手を挙げて近付いてきた。
どうやらハイタッチを欲しているらしい。
まあそれくらい、いいかと思って、ハイタッチすると、菜乃が嬉しそうに、
「一緒に繋がるって楽しいのっ」
と頬を赤らめて笑った。
いや!
「繋がるて! 普通に手と手を叩いただけだから!」
「でも嬉しいのっ、タンバリンなのっ」
「タンバリンではないよっ、どっちが太鼓の皮なんだよ」
「皮があるのは、その、悟志くんのほうなの……ってそんなこと言わさないでほしいのーっ!」
そう言って俺の背中を叩いた菜乃。
いや
「皮は両方あるだろ、両方皮膚のある生物だろ」
「でも悟志くんが皮を見せつけてくるのっ!」
「いや見せつけてないから! 全然普通の皮膚感でやってるわ!」
俺がそうツッコむと、菜乃はニコニコしながら、
「やっぱり悟志くんのツッコミ、愉快なのっ。楽しいのっ」
「いやそんなことハッキリ言われると恥ずかしいわ」
こうやって良く分からない変なヤツに絡まれることもあるけども、まあ菜乃は可愛いし、いいか。
ボケてくるヤツというのもまあ楽しいしな。
まっ、それは菜乃が同じ高校に通う同学年って分かっているからだけども。
あぁやって石を舐めてボケてくるヤツは勘弁してほしい。
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